第450話

「お兄さん……? モンスターも生きているってどういう事?」

「あ、な、何でもない」


 自分の考えをつい口にしてしまった様だ。

 だが、これで確信した。モンスターも人間同様に感情があり、母性もある……それはモンスターが子育てした事で明らかだ。


 この世界に来た当初は人間を殺す事に疑問や抵抗感、道徳感など色々な事に苦悩したが、そんな甘い考えでは生きていけない事を悟った。

 もちろん、自分だけが生き残るのであれば、ピンチになる度に逃げれば良い。


 だが、家族を守る時は必ず立ち向かうしか無いんだ──その事を俺はシクに習った。

 シクは俺を守る為にモンスターに立ち向かったし、自分を犠牲にしたし、必要とあれば、人間だって殺すだろう。


 そんなシクの背中を見て育った俺も、また考え方は同じだ!


 いくらモンスターに感情があっても、そして子育てする姿を見ても、更に人間と何の変わりも無いと感じたとしても、守る為なら、俺は何だってやってやるさ。


 そんな事を考えていると、不思議と先程までの手足の震えや嘔吐感が無くなり気分がスッキリする。


 よし、なんとなく自分の中で整理が出来たな!


 一人で、納得していると隣から鋭い声が飛んできた。


「お兄さん、アレ見て!」


 ロピの声に皆が反応し、視線を移すと、子供達が一列に並び始めた。


「あれは、何をされているのでしょうか?」

「うーん、これから何かを始めようとしているのは、確かだよな……?」


 綺麗にモンスターの子供達が立ち並び、各列事に親なのか子育て役なのか、小型達が一体ずつ付いていた。


 何が始まる?


「むっ?! アトス殿、アレを見て下さい」

「ん……ッ?!」

「あッ?!」


 ロピに続いてリガスの声に反応し視線を向けるとそこには、なんと人間が何人も現れたのであった。

 しかも、その中にはグイン達の姿もある。


「な、何をするつもりだよ……一体……」


 グイン達は特に縛られているわけでも無いが、両側を複数の小型に囲まれている為逃げる事が出来ない様だ。


「餌やりだ……」


 誰かが、そう呟いた。


「ふむ……確かに、あれば餌やりなのかもしれませんな」


 どうやら、餌の時間なのか、子供達にグイン達を食べさせようとしている様だ。


 ピンチな状況なのは変わらないが、ひとまず生きていて良かった。俺が安堵の溜息をしていると……


「先生ッ!?」


 グインの姿を見た瞬間にチルが木から飛び出そうとする。だがリガスが直ぐに止める。


「リガス離して!」

「チル様、落ち着いて下さい。今突っ込んでも助けることは出来ませぬ」

「でも! 先生が!」

「もし、助けたいと思うのであれば、冷静にならないと、なりません」


 チル自身も分かっているのか、リガスの言葉を聞いて、暴れるのを辞める。


「わかった。アトス様、先生を助けたいです!」

「あぁ……分かっている」


 チルの懇願する目を見て、頷く。


「どこまでやれるか分からないけど、助けよう。だけど俺が逃げろと言ったらいう事を聞くんだぞ?」

「はい!」


 チルの瞳に力が宿るのを感じる。


「お兄さん、でもどうやって助けるの?」

「うーん……」


 周囲を見回すと、そこには何体もの小型達がいる。そして子供達は果たして何体いるかも分からない。


「まず、小型の数は何体いる?」

「五体ですな」


 リガスがすぐに回答。


「五体か……子供の数は分かるか?」

「お兄さん無理だよー、あんなに居たら数え切れないよ」

「ふむ。流石に数え切れませんな──恐らく100体以上は居るのでは?」


 小型が五体だけなら、まだ何とかなったかもしれないが、子供がな……


「あの、子供の戦闘力がどれ位か分かればな……」

「恐らく、そこまで戦闘力は無いと思いますが、分かりませんぬな」

「どうするー? 一発私の雷弾を撃ち込んで見る?」

「いや、それだとモンスター達に俺達の事がバレる。どうせやるなら特大の雷弾を撃ち込んだ方がいいな」


 まずはグイン達を助けたとして、このモンスター達からどうやって逃げるかだな。


「リガス、グイン達を助けた後何処に逃げれば良いと思う?」

「そうですな……モンスターの気配は、やはり何処を探ってもあるので、どうせ逃げるなら村に向かいませんか?」

「でも、リガス村の方向にはさっきまで小型達が何かしてたよ?」


 リガスの、言葉にチルが首を傾げる。


「ですな──しかし、何処逃げても遭遇する可能性がありますから危険度で言えば変わりないでしょ」

「リガスの言う通りだな。これでもしかしたら居なくなっている可能性もあるしな」


 こうして、俺達は村に向かって逃げる事にした。


 しかし、肝心の救助方法については、まだ良い案が思い付かない。


「後は、どうやって助けるかだけど……どうするかな……」

「お兄さん、やっぱり私が一発撃ち込もうか?」

「うーん、それしか……無いか……」


 ロピの雷弾で果たしてどこまで相手を倒せるかは分からない。そしてロピが雷弾を撃ち込む事で確実に俺達の存在はバレるだろう。


「だが、やるしか無さそうだな──よしロピはなるべく遠くまで移動して射程範囲ギリギリまで離れてくれ」

「分かったよ!」

「アトス殿、どうされるつもりですかな?」

「一発ぶち込んで、逃げるだけだ!」

「あはは、分かりやすいよ!」

「ほっほっほ。大胆かつ豪胆ですな」

「さすが、アトス様です──素晴らしい作戦に私、感銘しました」


 俺の作戦は作戦にもなっていない酷いものである。


 しかし、今にもグイン達の身に何が起こるか分からない以上、ジックリと考えている暇は無さそうだ。


 

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