第416話
「アトス、これはどういう事なんだ?」
仲間達に集まる様に声を掛けつつも、この異様な状況に疑問を持っているディングが質問をして来た。
「俺にも分からない……ただ、知能のあるモンスターな事だけは確かだな……」
本来であれば俺達を視認した瞬間に襲って来る筈のモンスターだが、今は身動きせずにずっとこちらを見て来る。
「なんか、観察されている感じだねー」
中型から目を離さずに居ると、こちらに集まったロピが声をかけて来る。
「はい、姉さんの言う通り、なんだかこちらの様子を伺っている様に感じます」
「ほっほっほ。これは、また愉快なモンスターが現れましたな」
リガスは既に大きな盾を構えて、いつ中型が襲い掛かって来ても良い様に準備をしていた。
「お兄さん、これからどうするのー?」
「そうだな……」
このまま、戦いに入るか? いや、なんか分からないが危険な感じがするな……
これまで、中型とは何度か戦った。
どの中型も小型と比べると、ある程度知能が有る様に思えた。
しかし、目の前に居る中型に関しては今まで遭遇して来た中型よりあからさまに知能が発達している様に思える。
「リガス……どう、思う?」
「ふむ。今までの中型とは何かが違いますな……」
「やっぱりか……」
「まず、襲い掛かって来ない事が不思議ですな」
リガスも俺と同じ様な事を考えていた様だ。
しかし、今まで中型と戦った事が無いオーク達は、今にも足を踏み出して中型に向かって突撃しそうな雰囲気である。
「ディングさん、早くやっちまおうぜ!」
「そ、そうだぜ! なんだか、知らねぇーけど、中型の奴俺らにビビって襲い掛かって来ねぇ」
部下の声にディングは一度俺を見る。
「アトス、どうする?」
「……今は、まだダメだ。もう少し様子を伺った方がいいと思う」
「何故だ、目の前には中型が居て俺達は、その中型を倒す為に来たんだぞ? 何を待つ必要があるのだ?」
ディングは冷静になろうと努めているが、やはり他のオーク同様に目の前に居る中型に今にも突っ込んでいきそうな雰囲気だ……
「ディング、あそこに居る中型はどう見たっておかしい。普通なら俺達人間を見た瞬間に襲い掛かって来るのに、あの傷だらけの中型は明らかに俺達を観察している」
俺の言葉にディングは中型を見る。
「ふんッ、それがどうした? 観察されようが、されまいが、やる事は変わらんだろ? 俺達の目的は中型討伐だ」
ディングの言葉は正しい。俺達の目的は目の前に居る傷だらけになっている中型の討伐だ。
しかし、もう少し情報が欲しい……何故襲って来ない? 何故身体がそんなに傷だけらなのか?
ディング達にはもう少しだけ待って貰う様に声を掛けようとするが……
「う、うわぁッー!!」
「わ、わぁッー!!」
ディングの部下であるオーク二人がいきなり大声を上げて武器を構える。
「ッお前達何を──」
何かを察したディングは急いで静止する様に声を上げようとするが、興奮状態なのかオーク二人は聞こえない様だ。
そして、オーク達は中型に向かって全力で走り向かう。
「おいおい、勘弁してくれよ……」
俺は無意識の内に声を上げている事に気がつく。
「リガスッ!」
「ふむ。お任せよッ」
俺の意図を一瞬で汲み取り走り出す。
「ディングッ! 二人を止めろ!」
「言われなくてもッ!」
ディングは身体強化持ちで部位は足だから直ぐに追い付くだろう──しかし、オーク二人が走り出した事によって中型も戦闘態勢を取り始めた。
「ロピッ、準備だ!」
「わ、分かった!」
俺の指示によりロピは慌てて腰にあると中型のスリリングショットを取り出して構える。
「1……2……」
そして、俺は素早くチルにも声を掛ける。
「チルはリガスのサポートだッ。恐らく中型がそろそろ動くぞ!」
「かしこまりました!」
リガスの後を少し遅れる様にして走るチル。
すると、ディングが前方を走っていたオーク達に追い付く。
「お前達、止まれッ!」
「ディ、ディングさん、アイツなんだか変ですし、やっちまいましょう!」
「そうです! 今ならやれますよ!!」
自身の言葉を素直に聞かない部下達に頭を抱えるディングだが、今は嘆いている暇では無いと悟る。
「いいから、まずは戻るぞ! これは村長としての命令だッ」
「「──ッ……」」
ここまで、言われてはしょうがないと考えたのか二人は無言で頷き、こちらに戻って来ようとする。
ふぅ……流石ディングだ。これで何とか体制を組み直せるな……
一瞬の安心も束の間、そんなに甘くは無い様で、目の前に居た中型が動き出した。
「ディングッ!」
危険を知らせる為に大声を上げた俺に、ディングが気がつく。
そして、直ぐ様中型の居た場所に目を向けるが、既にそこには中型はおらず、いつの間にか、ディング達三人の目の前に居たのであった……
なんて速さだよ……。やはり中型という事もあり、小型と比べてスピードが段違いである。
そして、中型は大きな尻尾を三人に叩き付ける様に振るった。
「クソッ」
ディングは一瞬で部下二人を背中に回し太い腕を交差する様にして中型の尻尾攻撃を待ち受ける。
む、無理だ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます