第411話
明日の中型討伐についての話し合いも終わり、俺達は前回同様にディング宅に泊まる事になった。
「アトスよ、今夜は盛大に持て成すぞ!」
「はは、別にいいよ。それに中型を倒していなし」
「何を言う、今回の中型の件だけでは無く、前に助けて貰った礼すらまともに返してないだろ」
どうやら、前回の件についてディングは相当俺達に感謝をしている様だ。
「美味いもんを食べさせてやるから、楽しみにしてろよ?」
不敵な笑みで俺を見るディング。そして、美味しいという言葉に釣られたのか、ロピが会話に入って来た。
「美味しいもの!? あるの!?」
「あぁ、あるぞ。雷弾は明日の大事な務めがあるから、沢山食べてくれ」
「いいの!?」
ディングは笑いながら頷く。
「あはは。よーし今日は沢山食べるぞー!」
「ガハハハ。雷弾は気持ちの良い子だな」
ディングは笑顔でロピを見る。
「チルちゃん、美味しいもの食べられるって!」
「うん。良かったね姉さん。いっぱい食べよね?」
「うん!」
美味しい料理が待ちきれない様子のロピ。
「だが、ご飯まではもう少し待ってくれ──今から他の者達にも中型討伐について話して来る」
「あぁ、分かった。ゆっくり話して来てくれ」
「すまないな。少し行って来る──何か困ったら家に居る者に聞いてくれ」
それだけ言うと、ディングは外に出て行った。
夕飯までは、まだ時間が有る為、俺達は部屋で明日の事について話し合う。
「皆んな明日は気をつけてくれよ?」
「ほっほっほ。アトス殿は気にし過ぎですぞ?」
「そうだよー。魔族さんの言う通り! 私達だったら問題無いよ」
油断は禁物だそ? と言いたい所ではあるが、実際に中型一体だけであれば問題無く討伐は出来ると俺自身も考えている──しかし、やはり何が起きるか分からない以上気は抜けない。
「姉さん、リガス。アトス様の言う通り、気をつけないとダメ。何が起きるか分からない」
チルが俺の言いたい事を二人に忠告してくれ、チルの言葉に二人は頷く。
「ふむ。大事な事ですな──余裕をかまして足元を掬われるって話は良くある事ですからな」
チルの言葉にリガスは直ぐに心を入れ替える。
こういう所は長く生きている辺り、流石としか言い様が無い。
しかし、リガスと違ってロピは、まだ分からない様で、盛大に調子に乗る。
「ふふふふ、私が居れば中型の一体、くらい余裕だよ! なんて言っても頼れるお姉ちゃんだし!」
「姉さんが凄いのは知っているけど、油断はダメだよ?」
「あっははははは。何を言う、我が妹よ──私に掛かれば一撃だよ!」
何やら芝居がかった話し方をするロピ。
ロピの言う通り、恐らく中型を一撃で倒せるのは事実だ。
「私は最強のお姉ちゃんなんだから!」
片腕を天に伸ばし、もう一つを腰に持っていきポーズを決めるロピは先程からチラチラと妹のチルを盗み見ている。
どうやら、先程の妹の態度が気に入らない為、姉としての威厳を取り戻そうと必死の様子だ。
「ほっほっほ。微笑ましいですな」
「どうやら、さっきのチルの態度が結構ショックだった様だな」
姉のポーズを見ているチルは首を傾げる。
「うん、姉さんが中型を一撃で倒せるのは知っている──けど、油断はダメ! 姉さんが怪我でもしたら大変……分かった?」
「う、うん……分かったよ。油断しない」
チルの言葉に調子に乗っていたロピは素直な頷く。
「ほっほっほ。これではどっちが姉なのか分かりませんな」
リガスの声が聞こえたのか、又はリガスが聞こえる様に大きな声で話したのかは分からないが慌てた様子でロピが首を振る。
「ち、違う違う。チルちゃん違うんだよ!」
「?」
「私は姉としての威厳を……」
ゴニョゴニョと呟くロピ。
「威厳? 姉さんはいつも威厳たっぷりだよ?」
「チ、チルちゃん……我が妹よ……」
チルの言葉が嬉しかった様で、目の端に涙を溜めながら、妹を抱き寄せるロピ。
「ほっほっほ。美しい姉妹愛ですな」
「お前、面白くなりそうだからって、ロピを煽っていただろ……?」
「ふむ。もっと荒れるかと思いましたが残念でしたな」
意地悪執事の思惑通りにはならずに済み、姉妹は手を繋いでこちらに戻って来た。
「えへへ、お兄さん!」
「ん?」
「私、明日は油断せずに頑張るよ!」
「そ、そうか。頼むぞ?」
「うん! 任せてよ──油断せずに一撃で倒して見せるよッ!」
こうして、作戦会議と言う名の雑談をしていると、時間があっという間に過ぎて、ディングが戻って来た。
明日の中型討伐のお礼にと村人達全員が集まり、ディング宅の前で宴会が開かれた。
とても美味しい料理に堪能し、オーク達が楽器を奏でる中、その音に合わせて踊ったりと楽しい一時を送った俺達であった。
そして、明日の中型討伐で信じられない事を目の当たりにするのであった……
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