第402話

「お兄さーん、早く行こー」

「ちょっと、待ってくれよ」


 朝ごはんを堪能終えた俺達は、早速皆んなのお見舞いに向かう。


 あまりにも、怪我人が多い為、ドワーフ達が急ピッチで仮設病棟を作っている。


「それにしても、ドワーフの建設技術は改めて凄いな……」

「はい。素晴らしいです」


 前を見ると、昨日の夜には、まだ屋根すら無かった場所に、今では立派な屋根付きの建物になっていた。


「ほっほっほ。ここなら安心して治療に専念出来そうですな」

「本当だねー!」


 俺達が建物に近づくと、建物の外装を手が掛けているドワーフが声を掛けてきた。


「おー! 隻腕よ、昨日はお疲れ様。隻腕のお陰でどうにか死なずに済んだぞ!」

「あはは、私達のお兄さんは凄いんだよッ!」


 俺では無く、何故かロピが 鼻を高くして胸を張り、笑う。


 そして、皆んなの所に行くまでに何人ものドワーフ達にお礼を言われた。

 その度に、ロピは胸を張っていたし、珍しくチルも胸を張って誇らしい表情をしていた。


「あはは、チルちゃん、なんか嬉しいね!」

「そうだね! やっとアトス様の良さに少しずつ皆んなが気が付いた見たい。でも、私からしたら、気付くのが遅過ぎだと思うの、アトス様の偉大さは、こんなもんじゃ無いし、もっと凄いって所を──」

「──チ、チルちゃん、ストッープ! お兄さんの凄い所は、また今度ゆっくり聞かせてよ。ねぇ?」

「そう? 聞いてくれる?」

「う、うん……」

「なら、分かった……」


 チルがいきなり、早口になり、ロピは慌てて止めに入ったが、その代わり自分で聞く羽目になった様だ。


「お見舞いに来たよー!」


 大きな部屋に入ると、そこには何人もの怪我人が寝具に横たわっていた。


 重病人は一ヶ所に集められて、何か起きたら直ぐに治療班が処置を施している様子だ。


 ロピやチル、リガスに怪我が無くて本当に良かった……

 俺は、周りの怪我人を見て、恐怖を覚える。


 もし、三人が大怪我でもしたら、果たして俺は立ち直る事が出来るだろうか……


 俺の顔色が少し悪いのに気が付いたチルはすかさず心配そうに様子を伺って来る。


「アトス様、顔色が良く無いですが、ご気分でも悪いのでしょうか……?」

「い、いや。この雰囲気に少しやられただけだから、大丈夫」

「そうですか。あまり無理をなさられずに……」


 俺はなるべく周りを見ない様にして歩いていく。

 そして、シャレやキル達の所に辿り着いた。


「皆んな、大丈夫ー?」

「おぉ、雷弾か。見舞いに来てくれたのか?」

「そうだよー。なんだか皆んな元気そうだねー?」


 ロピはキル達を順番ずつに見回す。


「がはは、一時期は死ぬかと思ったが、この身体は丈夫に出来ている様だ」


 キルは厚い胸板を自身の手で叩きながら豪快に笑う。


「大鎌さん達も大丈夫そうだね?」

「あぁ、心配を掛けたな。私達の場合は悔しいが、敵に手加減されていたからな……」


 シャレの相手は確か……人間族のバンゴだったか……?

 あの、シャレが指一本出ない程の実力と聞いたが、そんな強い奴がいるのかよ!?


「シャレちゃん、アイツは人間の皮を被った化け物だから、勝てなくてもしょうがないよ」

「トラクさんの言う通りです。あのモノは何かがおかしかった」


 その、バンゴとか言う者はシャレだけでは無く、トラクやニネット三人を相手にしても余裕があった様だ。


「次は絶対に勝つ……」

「うんうん、そうだね」

「えぇ、このまま負けたままでは悔しいですよね」


 シャレ、トラク、ニネットの三人は妥当バンゴを掲げる。


 そして、少し離れた所にはエルトンが見えた。


「あはは、あの人お兄さんの事を凝視しているよ?」

「そ、そうだな。あまり歓迎もされて無さそうだし、そろそろ帰るか……」


 俺はエルトンに背を向けて帰ろうとすると……


「隻腕よ……少し良いか?」


 呼び止められてしまう。

 仕方無く、エルトンに近づく。


「け、怪我は大丈夫か……?」

「あぁ。なんとか無事だ……」

「そ、そうか」


 なんか、分からないが気まずい……


 エルトンは何かを俺に話したいのか、俺の方を見ては目を伏せてを数度繰り返し、何かを決意した様子で口を開いた。


「すまん!」


 するとエルトンは整った顔を下げて急に謝って来る。


「今まで、お前を敵視していたッ。、しかし今回の戦いでお前がどれ程我々エルフ族やドワーフ族に協力してくれたか分かっている──俺は勘違いをしていた。今回の戦い……お前が居て本当に助かった……ありがとう」


 恥ずかしさと、やはりまだ少し人間族が嫌いと言う事もあってかエルトンは勢い良く言いたい事だけ言った。


「はは、気にすんな! 俺がやりたくてやっただけだ。それに見た目は人間族かもしれないけど、俺を立派に育ててくれたのは獣人族だからな──俺自身、自分が人間族だと言う意識は無い」

「そうか……はは」


 俺の言葉にエルトンが微笑む。


「改めて、謝らせてくれ。すまなかった」

「はは、だから気にしてねぇーよ!」


 うんうん、これは分かり合えたって感じだな。


「俺が回復したら、エルフ族の皆んなには俺から言うから、もうあんな迫害する様な視線は無くなるだろう」

「それは良かった」

「しかし、一定数はどうしても人間族に恨みを持っている者が居るから、それだけは考慮して欲しい……」


 少し申し訳無さそうにするエルトンだが、俺は気にしない。

 やはり、過去に色々あった事は変えられないからな……


「それとッ!」


 そして、エルトンがこれまでで一番強い口調になる。


「シャレさんの事は譲るつもりは無いッ! いくら、お前が戦場で活躍しようとも、俺は負けん!」

「な、何を……」


 俺が言い返す前に何故かロピとチルが口を開いた。


「あはは、それはこっちのセリフだよ! 絶対にお兄さんを大鎌さんなんかに渡さないよッ」

「姉さんの言う通り。アトス様は渡さない」


 急に二人が会話に入って来た事に驚くエルトンだったが、何やら三人はお互いの利害が一致した事を悟った様で三人で話し合っていた。


「ほっほっほ。取り敢えず重傷者も居ますが大事になら無くて良かったですな」

「全くだ……」


 こうして、エルフ族の村では怪我人は治療に専念をして、身体が動かせる者は復興作業に取り掛かるのであった……

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