第397話

 部屋に突然と入って来た者達は、皆が煌びやかな服装だったりした。


「カール様、これはどうなっているんですか?」


 カールの倍以上の年齢はあろうかと思われる男はカールを敬う様にして少し腰を曲げた。


「カール様だと……?」


 そんな様子を見たグンドウは訝しげな表情を浮かべた。


「グンドウ殿、直ぐにその手に持っている剣を納めなされッ! ──新王の前ですぞッ!!」


 一人の老人の言葉にグンドウは困惑する。


 そして、この部屋で今の状況を理解していないのは私とグンドウだけの様で、他の者達は既に理解しているみたいだった。


「新王とは、どういう事だ?」

「見て分かりませんか? ラシェン王が死んだ今、新しい王を決める必要があります」

「それは分かるッ。だが、何故コイツが新王になる!」


 グンドウの質問はごく当たり前の筈だが、他の者達は何を今さら? と言わんばかりの雰囲気であった。


「どういう事ですかな?」

「どういう事だとッ? 普通に考えれば次の王はラシェン王の血族に決まっているだろ!」

「あぁ……そういう事ですか……確かに普通なら、そうですが今回は緊急事態です──これから他種族と戦争するには決断力のある王が必要なんです」


 何やら偉そうな奴が語り始める。


「ラシェン王が死んだ今、次期当主である息子が本来であれば新しい王となるでしょうが、まだ幼い──そんな年齢で一国を指揮するなんて無理に決まっていますな」


 偉そうな奴はもっともそうな事を口にする。


「確かに、ラシェン王の息子はまだ幼いが、それを支えるのが我々の仕事では無いのかッ!?」

「えぇ、ですから先程も言いましたが本来であれば、そうです。ですが今回は緊急自体なんですよ──他種族との全面戦争まで時間がありません」

「先に伸ばせばいいだろう」

「いえ、ダメです。アイツらを放置していれば、どんな事になるか分かりません」


 この段階で、グンドウはコレが作られたストーリーだと悟る。

 そして、そのストーリーを組み立て者がカールである事も……


「……ラシェン王の息子については分かった。だが、なぜ新しい王がコイツなのだ!」


 これ以上は無駄たと考えたグンドウは次の疑問をぶつける。

 それは、個人的なものなのか国としてのもなのか……あるいは両方なのか……


「俺はコイツが人間族の王になる事は反対だッ!」

「話し合いで我々が色々考えた末に次の王はカール様が最も相応しいと判断しました」


 話し合い? そんなの知らないと、言うような表情を浮かべ──それが又もやカールが裏で手を回した事に気がつくグンドウ。


「それならば、俺が王になってもいいのだろう?」

「いえ、グンドウ殿には軍全体の総隊長として戦場で前線に出て貰う必要があるので、それは無理ですな」


 恐らく、グンドウがこれから何を言ってもカールが新しく王になる事は覆らなさそうだな……


 私はチラリとカールの方を見ると、本人はニヤニヤとグンドウの事を見ていた。


 そんな視線に、イライラするグンドウはいつカールに飛び掛かるか分からない雰囲気だ。


「グンドウ殿、納得して下さい。あなたは他の仕事があって、無理。ヘラデス様は王の座など興味が無い──だとすると、戦闘経験が有り、実績も有り、判断力が優れている者と言えば、後はカール様しかおりません」


 ラシェン王、自慢の三人の中で一番弱いのは確実にカールであるが、どうやら戦闘面以外は他の二人より一枚も二枚も上手の様だ。


 すると、ここまでダンマリだったカールが口を開く。


「あはは、グンドウさん。これで分かってくれましたか? ──もちろん私が王になったからと言って貴方を蔑ろになんてしません。寧ろ今以上の待遇をお約束致しますよ?」


 その言葉は本心によるものだろう、しかしカールの表情は完全に勝ち誇った顔付きである。


 グンドウ自身も両拳を強く握り締めて、なにかを耐えている様子だ。


 そんな様子がカールを更に喜ばせ、肩を揺らして笑っていた。


「まぁ、これからも宜しく頼みますよ?」


 カールはグンドウの肩を気軽にポンと一度叩く。

 そして、カールはグンドウにしか聴こえないくらいの声色で呟いた。


「アンタの家族は預かった」

「ッ?!」

「大人しくすれば危害を与える気は無い」

「貴様……」

「返して欲しければ、次の全面戦争に全力で協力して貰う──そして、勝利した暁には無事に返そう」


 これまで、なんとしてでもカールを新しい王にしない為に反論して来たグンドウであったが、カールの最後の言葉で折れた……


 ふむ、どうやらここまでの様だな。

 時間も大分経過したので、ガルル達も逃げ切れただろう……


「あー、そうそう。グンドウさん、あそこの獣人を殺しといてよ──今まで我慢してたけど、俺もラシェン王と同じで他種族の事が嫌いなんだよね」


 今まで私達獣人族に見せていた表情は既に無くなっており、殺意を持った目で私を睨むカール。


「シクさんだっけか? ここで死んで貰うよ? アンタ達はラシェン王が死ねば、他種族達による酷い仕打ちが無くなると思っていた様だけど、それは諦めなよ」

「……」

「俺はラシェン王以上にお前達他種族が嫌いなんだよッ! お前達みたいなものが居るから俺が認められないんだよ──俺は皆んなから認められたい!」


 途中からは、私にでは無く自分自身に語り掛けている感じで、目の焦点が合っていない様だった。


 クソ……折角危ない橋を渡ったのに、結局は振り出しに戻る所か更に状況が悪化してしまった。


「これは、早くネークに知らせないとな……」

「あはは? 何だって?」


 私の独り言が聞こえない様子のカール。


「グンドウさん、それでは新王である俺からの最初の命令だ──あのラシェン王を殺した獣人を殺せ」


 カールの言葉にグンドウは起き上がり私の方に近付いて来た。



 そして、私は、扉に向かって走り出す──誰も捉えられないスピードを出す事で私は部屋を出る事に成功した。


 後は逃げるだけ……

 



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