第387話
階段の先は真っ暗な為、一切先が見えない。
先を急ぎたい所ではあるが、この先に一体何が待ち構えているか分からない為、慎重に進む。
別に、そういう指示をしているわけでは無いのだが、皆が黙り込み、ひたすら階段を登る。
実際にはそこまで長い階段では無い筈だが、いつまで経っても終わりが見えない……
この先に私達の標的が居る。
そして、どれくらいの時間が経っただろう──恐らく時間にしたら直ぐだ。
階段を登り切った先には一本の長細い廊下が続いた。
そして、廊下の突き当たりには、これでもかと言うほど豪華な装飾を施された扉を見つける。
「へへ、どうやらあそこらしいな」
階段を登り始めて、初めて声を上げるググガ。
「あそこにラシェン王がいる……のか……」
ガルルもまた、豪華な扉を見ながら呟く。
「シク様、いきましょう」
「あぁ」
「早く終わらせて、ネークさん達の所に戻ろうぜ!」
私達は慎重に扉に向かって歩き始める。
急いだ方がいいか……? いや、ダメだ。こういう時こそ慎重さが大事だ。
この時間であれば、確実にラシェン王は寝ているだろう──しかし、この様な非日常、或いは何かを成し遂げようとしている状況にどうしても慎重になってしまうのは仕方がないだろう。
そして、心配は杞憂に終わり、何事も無く長い廊下を歩き切り、扉の前に到着する。
仲間の一人が扉に耳を当てて、中の様子を探る。
「恐らく就寝中です」
「よし、中にはいるぞ」
私の掛け声にガルルが扉の取手に手を掛ける。
一度、周りを見廻し今から開ける意思を伝える為、首を縦に頷く。
そして、ゆっくりと……そして極力音を立てずに扉を引く。
どんなに、静かに開けようとしても、やはり無音という訳にはいかない様で、木が軋む音が、静かな室内に鳴り響く。
思っていたよりも、大きい音だった為、皆から息を飲む音が聞こえる。
「「「「「…………」」」」」
暫くの間、身動きを取らず静かにしていると、室内から寝息が聞こえる。
ふぅ……大丈夫か……
ラシェン王は室内にある寝具の上で大きなお腹を一定のリズムで動かしていた。
「やるぞ……」
音を立てず、ゆっくりと中に入る。
一体、一人の人間に対して、何故ここまで大きな部屋に豪華な装飾が必要なのか疑問に思う。
そして、室内のど真ん中に大きな寝具の前に立つ。
コイツを殺せば終わる……
呑気に寝ている間抜けな王を見下ろす……
「これで終わりにする」
私は、ポケットから刃物を取り出す。
そして、ラシェン王の心臓目掛けて刃物を思いっきり振り下ろした。
「──ッ!?」
私の渾身の一撃をくらい、息を吐き出すラシェン王──次いでに声を上げようとするが、それをガルル達が押さえ込む。
心臓をひと刺し、したと言うのにラシェン王は暫くの間、しぶとく踠き続ける。
「な、なんだコイツ……しぶといぜ」
「最後の悪あがきにしては長い」
だが、所詮は城内で悠々と暮らして来ただけの人間──巨体の為、複数人で抑える必要があったが、ただそれだけである。
三分もすると、ラシェン王は暴れる力を失い、虚な目で私を見ていた。
「お前個人に恨みは無いが、お前が居ると私達が困る」
私の言葉にラシェン王は最後に目を見開く。
その瞳は、何を言っているか分からないと言う色が見えた。
そして、ラシェン王は何故自分が殺されたかも分からないまま、息を引き取った……
「や、やったのか……?」
身体を押さえ付けていたググガが一言呟く。
そして、先程まで激しく暴れていたラシェン王は糸が切れた様に動かなくなった為、押さえつける手を皆が離す。
「や、やったんだよな?! なぁ、兄貴!」
「あ、あぁ……俺達はラシェン王を殺した!」
二人だけでは無く、ここに居る全員がラシェン王を死を確認して喜んでいた。
「よっしゃ! 後はここを抜けてネークさん達の所に戻って終わりだな!」
「あぁ、そうだ」
ググガとガルルは副リーダーとしてなのか、他の二人を労う。
これで、獣人族──いや、他種族全体にとって、良い方向に進んでくれればいいと思う。
「さて、そろそろ行くぞ」
長く、こんな場所に留まっていて、良い事なんて無いだろう。
私達は、来た道を再び戻ろうと扉に向かって移動しようとすると……
「「「「「ッ?!」」」」」
先程、私達が通って来た長細い廊下から、コツン……コツンと誰かが歩いて来る音が聞こえた。
「や、やべぇ!」
「か、隠れましょう!」
ガルルの声に周りを見渡すが、隠れる場所なんて無い。
仮に隠れたとしても、部屋に灯りを灯されれば直ぐに見つかってしまうだろう。
そこうしている内に謎の人物は扉の前に到着して一度止まる……
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