第358話

「では皆さん、ついてきて下さい」


 プブリウスとの面会が済み、今は獣人のメイドに連れられて、自分達の部屋に案内して貰っている途中だ。


 あれからプブリウスと奴隷商は少し語り合った後に奴隷商は帰っていった。


 帰り際には視線をこちらに向けて頷いていたので、恐らくネークにはしっかり伝えてくれるだろう。


「お待たせしました。こちらの三部屋が皆さんのお部屋でございます」

「三部屋?」

「はい。旦那様からはシクさんだけには個室を用意する様に言われております」


 むぅ……何か良く分からないが、どうやら気に入られてしまった様だ……


「うふふ、貴方に質問があるのだけど、いいかしら?」

「はい?」


 リッテが早速、情報収集を始める。


「私達の旦那様はどんな方なのかしら?」

「……」


 リッテの質問に、押し黙る様に視線を地面に向けるメイド。


「同じ、獣人族として、教えて頂けないかしら?」

「……」


 すると、メイドは一度左右を確認する。


「皆さん、部屋の中もご案内します」


 そう言うと、メイドが部屋の扉を開き中に入った。


 そして、全員が入室したのを確認して扉を閉めると……


「旦那様は……怖い人です……」

「うふふ、怖い? そんな風にはとても見えないけど?」


 リッテの言う通り、先程の奴隷商のやり取りなどを見る限り、怖いという単語が出る事が無い様に思われるが……


 私達が疑問に思っていると、メイドは首を振る。


「いえ、あれは表面を取り繕っているだけであり、本来の姿とは全然違います」

「ち、違うって、ど、どいう事でしょうか……?」


 ビクつきながらも、キャリが質問する。


「詳しく説明している時間はありません──それに、本性が知りたいなら、嫌でも分かる様になります」


 メイドは一息入れる様に一度呼吸をする。


「ですが、シクさんは気を付けた方が良いでしょう」

「私が?」

「はい……」

「どういう事だ?」


 私の質問に言い辛そうにしながらも、教えてくれる。


「旦那様は、大の獣人好きなのです──その為、人間族でありながら、恋愛対象も獣人です」

「……」

「旦那様は、年齢的にも結婚を考えている時期なのですが、どうやら獣人族との結婚を望んでいる様なのです」


 その言葉に、周りがざわつく。


「ですが、ここでは人間族こそ至高の種族だと思われている為、体面的にも体裁的にも他種族同士の結婚は難しい様で……」


 ふぅ……、あのプブリウスとかと言う男と結婚しないで済むのは嬉しい。、

 

 安心したのもつかの間で、メイドは矢継ぎ早に続きを話す。


「それでも、諦め切れないプブリウス様は、誰からも文句を言われない位の美しさと品位を持つ獣人を探し出して、結婚を考えている様です……そして……」


 チラリと、メイドの視線が私に向く。


「ん? 何故私の方を向く?」


 メイドの視線の意図が分からず、疑問に思っている私であったが、他の者は全員、メイドの言っている意味が分かった様だ。


「冗談じゃない! シク様に絶対指一本触れさせん」

「兄貴の言う通りだぜ! シク様に手を出す奴は絶対にゆるさねぇ!」


 ガルル、ググガ兄弟が声を荒らげる。


「うふふ、この兄弟と初めて意見があったわね。同感だわ、私の女神様を、あんなパッとしない奴なんかに渡すなんてありえないわね」


 表面は笑っているリッテだが、何やら怒気の様なものが込められていた。


「わ、私も、シク様に手を出す人には、よ、容赦しません!」


 両手で握り拳を作り、自身に気合を入れる様に声を上げるキャリ。


 他の五人も同様に何やら怒気が込められていた。


「皆さん、荒ごとはやめた方が……」


 メイドは心配そうな表情をする。


「シクさんは、恐らく旦那様から大切にされますよ?」

「うふふ、そう言う事じゃ無いのよ」

「あぁ、リッテの言う通りだ」

「俺達はシク様を守る為にいるんだからな!」

「わ、私達が、シ、シク様を守るのです!」


 リッテやガルル達の言葉を聞いて、これ以上言っても無駄だと思った様子だ。


「分かりました……ですが、本当に気を付けないといけないのはシクさんでは無く、皆さんです」

「「「「?」」」」

「シクさんについては、旦那様から大事にされるのは確実でしょうが、シクさん以外は何をさせられるか分かりません……」


 メイドは過去の獣人達が、これまで何をされて来たか、簡単に話してくれて、それから部屋を出て行った。


「皆さん、明日からはそちらに着替えて頂き、お仕事をして下さい──また、明日の朝に来ます」


 メイドが出て行った後に、先程メイドが教えてくれた事が頭に走る。


 こうして、私達は明日からの仕事に備えて部屋でゆっくりしながらも、どの様すればラシェン王に近付けるか考えるのであった……

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