第340話

 近くで、物凄い爆発音が聞こえる。


「ロピの奴、大丈夫かよ……?」


 俺は一度背後を振り返る。

 姿は見えないが、ロピと炎弾が争っている為なのか、あちこちの木に火が移って燃えていた。


「俺は、とりあえず皆んなのサポートだな」


 ロピからは離れて、混戦しているであろう場所に向かって歩を進める。


「皆んなバラバラに散って、上手くサポートが出来ねぇ……」

 どこに誰が居るか把握出来ない為、結局は小規模なサポートで収まってしまう。


「それに、押され気味だな」


 移動しながらもサポートをしているが相手側の人数が多い為、こちら側は常に複数人を相手にしている状況だ。


「アタック!」


 視界の端に映った仲間をサポートする。


 しかし、一度にサポート出来るのは限界がある。


「もっと視界が良ければ……」


 文句を言いながらも、移動を続けていると、エルフとドワーフ達が人間族と戦っていた。


「クッ……数が多過ぎる……」


 一人のエルフが人間族からの攻撃を凌ぎながらボヤク。


「エルフ達よ、陣形を崩すな!」


 エルフと一緒に戦っているドワーフが叫ぶ。


「すまない!」

「奴ら人間族は一人一人は非力かもしれんが、油断は禁物だ」

「あ、あぁ!」


 二種族は力を合わせて人間族相手に戦っている。


 しかし、状況はあんまり芳しくない様で、徐々に移動範囲を狭められている。


「囲まれたか……」

「ど、どうする? 突っ込むか?」

「やめとけ、人数の差を見れば分かるだろう──無駄死はするな」


 ドワーフとエルフの数を合わせても人間族の数の方が多く、人間族達も、数の利を生かしている戦い方を熟知していた。


 早くチル達を見つけてサポートしたい気持ちはあるが……


「見捨てる訳にはいかねぇーよな」


 若干の苦笑いを浮かべて、俺はドワーフとエルフ達をサポートする為に静かに移動する。


「ここら辺でいいか……」


 俺は少し離れた場所に移動する。


 目の前では、人間族達に追い詰められたドワーフとエルフ達の姿がある。


 そして、エルフ族は奴隷にして楽しむ為か、ドワーフ達に向かって攻撃を仕掛ける人間族達。


 本来であれば、この攻撃でドワーフを仕留める予定だったのだろう。


 だが、そうはさせない……


「ここには俺が居るから、そう簡単にはやらせねぇーぞ?」


 人間族達が一斉にドワーフ達に向かって剣や斧など振り下ろす。


「ガード!」


 俺にしか見えない青いラインをドワーフ達の足元に敷く。


 すると……


「な、なんだ?! 俺達の攻撃がドワーフ共に効いてねぇーぞ?!」


 剣と斧は、普通であればドワーフ達の身体に深く突き刺さる筈だった──だが、俺のサポートにより、ドワーフ達には傷一つ付いていなかった……


 そんな、異常な事態に慌てて、一旦距離を取る人間族。


「ど、どうなってやがる……?」


 そして、動揺して攻撃の手が止まる。


 動揺しているのは、人間族だけでは無く、先ほど攻撃を食らったドワーフ達も驚いた顔をしている。


 だが、人間族と違って、ドワーフ達は動揺しながらも、誰のお陰か分かっている様子だ。


「お、おい、もしかしてこの効果って……」

「あぁ、何処か近くにいるぞ──隻腕がよ」


 誰の仕業か分かったドワーフはすぐに武器を構え直す。


 表情は先程までと違い、少しの余裕が垣間見える。



 そんなドワーフ達を見てエルフ達はまだ胡散臭そうにしている。


「今のを、あの人間が……?」


 と呟きながらもドワーフ同様に武器を構え直す。


「オラッ、次は俺らの番だ!」


 一人のドワーフが合図すると、一斉にドワーフとエルフが攻撃を仕掛けた。


 そんな攻撃を人間族は見事なコンビネーションで防御する……はずだった……



「アタック!」



 ドワーフとエルフに赤ラインを敷いて、攻撃サポートをすると人間族達の防御は次々と崩れていく。


 そして、あっという間に人間族達は守りを剥がされた状態になった。


 このままでは、殺されると思ったのか、散り散りに逃げて行く敵達。


「よし、ここのサポートは終了だな」


 俺は、チルとリガスを見つける為に、その場から移動する。


 しかし、なかなか見つける事が出来ないのと、少し移動する度にサポートを、掛けないといけない状況が続いた。


「このままじゃ、ダメだな……」


 俺はポツリと独り言を呟く。


 このままでは、サポートが追い付かず、最終的には俺達は負けるだろう……


「だが、どうすればいいんだ」


 あれさえ、出来れば……どうにかなったかもしれないのに……


 頭の中で最古のエルフの言葉が再生される。


 付与スキルとは線ではあらず、円である。


 しかし、付与スキルとは円でもあらず、本質は線と円を掛け合わせたものである。


 この本を読んだ者は、先ず円を意識するべし。


 そして円の後は再び線を意識するべし。


「もう一度挑戦してみるか……」


 最後の訓練では良い所まで行ったが、結局効果を発揮させる事は出来なかった。


 だが、一つだけ試したい事がある。


 あの訓練以降ずっと、考えていた事だ。

 しかし、ぶっつけ本番で成功するこか……?


「弱音を言っている暇なんて無いよな!」


 そして、俺は目を瞑り意識を集中する。


 集中……集中……

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