第332話

 そこは、集団対集団の戦いが繰り広げられていた。



「皆さん、頭の固いドワーフ達に弓の雨をお見舞いしてやりましょう!」


 ゴブリン族代表のグダがドワーフ達に向かって弓を放つ。


「お前ら、盾を構えろ!」


 ドワーフのキルの号令でドワーフ達は前に向かって盾を構える。


 すると、盾に弓が当たる度に甲高い音が鳴る。


「よっしゃ! お前ら距離を詰めるぞ!」


 キルは大きなハンマーを振り回しながら先陣を切りドワーフ達を先頭する。


 そして、グダの方はそんなドワーフ達を見ても慌てずに指示を飛ばす。


「皆さん、もう一度放って下さい!」


 グダの合図と共に放たれた弓を先程同様同じく防ぎ、ドワーフ達は徐々にゴブリン達に近づいて行く。


 人数の面では、ゴブリン達の方が多い。


 しかし、そんな人数の差などものともせずにドワーフ達は距離を詰めていく。


 そんな様子を見てグダは……


「あの、脳筋のオーク共とは違う様ですね……」


 一度、周りの様子を確認したグダ。


 ゴブリン達は数では優っていると理解しているが、ドワーフ達の圧力に若干及び腰になっているのが分かる。


「皆さん、落ち着いて下さい! 向こうが近付いて来た分、我々は下がればいいんです」


 グダの言葉にゴブリン達は肯く。


「ゆっくり下がりますよ! ですが攻撃の手を緩めないで下さい!」


 ゴブリンはどんどんと村の奥へと下がりながら、攻撃を続ける。


「──ッハン! こんな弓がワシらに効くと思っているのか──それに弓はお前達だけでは無い!」


 キルがハンマーを大きく上げると、後方に居たドワーフ達が弓を構えた。


「──放て!」


 キルのハンマーが下がると共に弧を描いてゴブリン達の方に向かって飛んでいく。


「盾を構えて下さい!」


 グダの合図と共に半分のゴブリン達が盾を構えて、自身と隣の仲間を守る。

 そして、もう半分は引き続き弓を撃ち続ける。


 どうやら、コンビネーションはゴブリンの方が何枚も上手の様だ。


「皆さん、その調子です!」


 こうして、ドワーフが距離を詰めれば、ゴブリンが距離を開けるを繰り返し、少しずつしか距離が詰められ無いキル達。


 その距離は現在50メートル位である。


 しかも、幾ら弓矢が一発当たっただけで死なないとは言え、何本もの弓矢が刺されば話は別だ……



「おい、キル! 距離が全然縮まないし、仲間達がどんどん倒れていくぞ!」

「──ック……ゴブリン共め……」


 そう、ゴブリン達は少しずつだが、ドワーフ達の数を減らしていたのだ。


 逆にドワーフ達はゴブリン達を倒す事が出来ずに居た……


 では何故、こうまで差が着き始めて来たのか……それは、あまりにもグダ達のコンビネーションが取れているからだろう。


「皆さん、良いですよ! ドワーフ達はどんどん人数が減って来ています、その調子です」

「「「「「「「おう!!」」」」」」」


 そして、そんな様子に、このままでは不味いと思ったキル。


「ワシが崩して来るしかないな……」

「お、おい──何を考えている?!」


 キルの言葉に隣に居たドワーフは慌てる。


「まぁ、見ていろ」

「お、おい!?」


 仲間のドワーフの静止を振り切りキルは大ハンマーを盾にする様にしてゴブリンの集団に突っ込む。


 そんなキルに向かって集中的に弓矢が飛んで来る──しかし、その弓矢を大ハンマーを回転させて、まるで傘で雨を防ぐ様な感じで全てを防ぎ切ったキル。


「──ワシにそんなチンケな攻撃が効くか!」


 キルは更にゴブリンに向かって走り出す。


 最初は50メートル程の距離が合った筈だが、既に半分以上は距離を詰めたキルに、グダは表情を歪める。


「これだから、突出した力の持ち主は嫌いなんですよね……」


 キルを見て、どうするかを頭の中で計算するグダ。


 そして、素早く計算をして、直ぐに仲間達に指示を出す。


「半分は上に向けて弓矢を! もう半分は直接あのドワーフを狙って下さい!」


 この様な集団に突発的な指示を出した場合、普通であれば混乱するか、上手く指示が行き渡らない筈だが、ゴブリン達は違った……


 直ぐ様、グダの指示を理解する。


 まずはゴブリンの半分が上に向かって一斉に弓矢を放つ。

 そして、少し時間を置いて、もう半分がキルに向かって弓矢を放った。



「──ッち、これは不味そうだな」


 キルは自身に飛んでくる無数の弓矢を見て呟く。


 先程までは斧を回転させて弓矢から自身を守っていたが、今回はそうもいかない。


 上からの弓矢を斧で防御すれば前からの弓に当たるし、前からの弓矢を防げば上からの弓矢が当たるだろう。


 そして、キルが選んだ防御方法は前から飛んで来る弓矢を防ぐ事であった──しかし、それだけでは上からの弓矢を全て受けてしまう為、キルは一旦横に向かって走りながら上からの弓矢を避ける事を試みた。


「──ッグァ!」


 しかし、やはりと言うべきか、キルの肩には数本の弓矢が突き刺さっていた……


「──手強い……しかしワシが道を切り開く!」


 何本もの弓矢を身体に受けながらもキルはゴブリン達に向かって走る。


 ゴブリン達は急いで二発目の弓矢を放つ為に弓に矢をセットしようとする──しかし、その前にキルはゴブリン達の前まで到着した……





 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る