第287話 アトスの選択

 シャレは数時間の休憩後、部屋から出てきた。


「まだ、寝てても大丈夫だぞ?」

「いや、そうも言っていられない状況になってきてな……」


 少し寝たのか顔色は戻った感じがするが、逆に頭が回る様になり表情が険しい事に気がつく。


「アトス達にも伝えておこうと思ってな──今この村にはここら一帯に住んでいるエルフ族が全て集まっているんだ」

「全てー? あれで全エルフさん達なのー?」

「いや、他にも、もっと遠くに住んでいるエルフは居るが──それでも種族の半数以上はこの村には集結したと言っても良いだろう」


 エルフ族の半分がこの村にか……ますます厄介ごとの匂いしかしないな……


「シャレ達、エルフ族は何でこの村に集まったんだ……?」

「実は──いくつかの村が人間族に襲われてな」

「──ッな?!」

「大半の女を拐われたらしい……」


 シャレは昔の事を思い出したのか苦痛の表情を浮かべさせていた。


「それで、女性を取り戻す為にこの村にエルフ達が集結したと言う事だ」

「ふむ。その女性達が拐われたのはいつなのですかな?」

「既に一ヶ月以上は経過している様で、恐らく既に人間族の住処にいる……」

「なんで、直ぐ助けにいかなったの?」


 素朴な疑問をチルがシャレに投げ掛けるが、その質問にシャレは顔をしかめる──


「拐われた村では、まず人間族の人数が多過ぎたのと、更にはモンスターまでもが村を襲ったらしい……」


 モンスター?


「話を聞く限りでは、モンスターに襲われる前に、各村から同じ様な証言が上がっている」

「どんな証言だ?」

「──フードを目深に被り、身体をロングコートで身に包んだ者が居たと……その者が何者か分からないが恐らく人間族であり、またその人物が何やら玉? みたいなのを投げ込んだ後にモンスターが襲ってきたと話している者が多い」


 クソ! リンクスが使っていた玉か!? ──それに、俺があの時見た人物もエルフ族を襲おうとした?


「アトス、どうかしたのか?」


 俺は、シャレが気が付いて無いようなので、例の玉と以前の戦闘でフードを被った者がいた事を話す。


「──ッくそ、既に私達の村も狙われていたって事か!」


 シャレは先程起きてから、どんどん表情が険しくなる。


「それじゃ、そのフードの者は人間族でまず間違い無い様だな」

「えぇ、アトス殿の推測通りだと私も思います」

「私達が居たから、ここの村を乗っ取る事が出来なかったんだねー」


 ロピの考えは恐らく合っている。


「あぁ、雷弾の言う通りだと思う──あの十体は我々エルフ族だけでは対処出来なかっただろうし、そうなった場合は人間族がこの村に攻め込んで来る予定だったんだろう──アトス達には本当に助けられてばかりだな」

「気にすんなよ──俺も助けて貰ったんだしよ!」

「だが、それじゃつり合わない様な気が……」


 シャレは申し訳無さそうにしている。


「あはは、なら美味しいご飯ちょーだい!」


 ロピの気の抜けた言葉に表情が硬かったシャレが微笑む。


「はは、雷弾は大物だな」

「姉さんは凄い」


 シャレの言葉に妹のチルも頷く。


「よし、分かった──今後は今以上に出来る範囲で美味しいものを用意出来る様に努めよう」


 シャレの言葉に大喜びしているロピ。


「それでなんだが──この様な話をした後に言うのもアレなんだが……」


 シャレが申し訳無さそうにしながらも確たる意志を目に宿らせて口を開ける。


「アトス達に、また助けて欲しいと思っている……」

「助けって、エルフ族の女性を取り戻す事か?」


 俺の言葉にコクリと頷く。


「あぁ──だが今から行って直ぐ取り戻せる訳では無いから色々準備が必要になって来ると思うが──最終的には人間族との戦闘になるだろう……」


 奴隷として捕まったエルフを取り返しに行くのだから、人間族と戦闘になるのはしょうがないな……


「同じ種族と戦う事はキツいと思うが……良ければ私達を助けてはくれないか……?」


 シャレの言葉にロピ、チル、リガスまでもが俺の方を向き反応を待っている。


「ロピ達はどうなんだ?」

「え? 私はお兄さんの考えに従うよー」

「私もアトス様に従います」

「ほっほっほ。言うまでもありませんな」


 三人共俺が決めた方向に一緒に進んでくれるって事か。


「いいぞ」

「──え?」


 俺があまりにも呆気なく協力する事にシャレは間の抜けた表情で俺の事を見てくる。


「だから、協力するよ」

「だ、だが──同族と戦う事になるんだぞ?」

「うーん、俺ってあまり人間族と関わって来てないからな……勿論人間族でも大切な人は居るけど──」


 デグやベムとかな……最近はドワーフの村で出会った三班の仲間達も大切だな……


「まぁ、大切な人以外との戦闘なら別にどんな種族と戦おうと俺は構わない──どんな種族でも悪い奴と良い奴はいるしな!」


 信じられない表情をするシャレ。


「さっすが、お兄さん!」

「やはり、私の目に狂いは無かったです」

「ほっほっほ。これでこそアトス殿ですな」


 何故、三人が笑顔なのか分からない……


「まさか、人間族でその様な考えを持つ者が居るなんて……」

「どう言う事だ?」


 俺の疑問にリガスが答える。


「人間族は皆、自分達が至高の種族であり、それ以外は家畜や奴隷だと思っていましてな──アトス殿の様な考えを持つ者など私は生きてきて会った事が有りませぬ。それ程アトス殿の考え方は稀有と言う事でシャレ殿は驚いているんですよ」


 俺がシャレの方を見ると、口を開けて首だけコクコクと上下に動かしていた。

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