第242話 変異体の贈り物
「モンスターがモンスターを捕食するのか……?!」
俺は信じられない光景を目の前で見ていた。
シクの講義では、モンスターは人間を捕食するとは習ったが、モンスターがモンスターを捕食するなど習って無いし、他の場所でも聞いた事が無い……
「……」
俺は暫くその光景を黙って見る事しか出来なかった。
この隙に逃げれば良かったかもしれないが、もう身体が限界であり、歩く程度でしか移動が出来ない。
「はは、片腕無くしたのに良く生きているな……」
少し落ち着いた事もあり、改めて自分の腕を見ると、傷口に火傷の様な跡がある。
恐らく誰かが機転を効かせて処置してくれたのだろう。
傷口を見た瞬間に激痛を覚える。
「ッッツ……」
アドレナリンなのか、目を覚ましてから戦闘中は痛みなど感じなかったが、少し落ち着いた事により痛みを覚え、意識も朦朧とし始めた。
「はは、これは帰るの無理かな……?」
すると、いきなり隣で中型を捕食していた変異体から、とんでもない気配を感じる。
「成長……」
その気配は、モンスター達が人間を捕食した時の気配と似ていた。
そして、成長も終わった変異型は俺の方に向く。
「あ、ありがとうな」
言葉が通じる筈も無いが、俺自身は何故か変異体が人間の言葉を理解している様に思えて、お礼を言う。
すると、変異体はジャングルの奥に移動し始める。
「……ん?」
変異体が、少し進むと一旦止まり俺の方を向いて来る。
「な、なんだ?」
いつまで待っても俺の方を向いているので不思議に思った俺は変異体に近づいて見ると、またある程度移動してこちらを向く。
「もしかして、ついて来いって事か?」
俺は変異体の後を追う様に歩き始める。
変異体はどんどん森の奥に進んで行く。
「なんか、凄い景色になってきたな」
ただでさえ、木々が密集している為太陽の光があまり届かないジャングルだが、変異体が通る場所は更に木々が密集しており、どんどん太陽の光が届かなくなっていく。
「こ、これ以上暗くなったら見えないぞ……」
既に、右手は変異体の身体を触り見失わない様に歩いている状態である。
そして、五メートル先も見えなくなるくらいの暗い場所をどんどん突き進んで行くと、奥の方に光が見え始めた。
「お?」
その光は、歩くに連れてどんどん大きくなっていく。
そして、開けた場所に到着する。
「き、綺麗だ……」
その場所はとても幻想的な空間になっていた。
「すげぇ……」
広さ自体は、変異体が一体入れるくらいの広さだが、今まで居たジャングルとは雰囲気が違った。
「花……? いや、桜か……?」
ジャングルにも綺麗な花は咲くが、どれも毒々しいものや、色が濃い目のものばかりであった。
だが、変異体に連れて来られた場所には何故か桜が一面に咲いており全てが満開状態である。
「ここで死ぬか……?」
今でも、腕の激痛と意識は朦朧としている為、この状態でドワーフの村に辿り着けるか分からない。
小型と一体でも遭遇したら直ぐに捕食されて終わりだろう……
俺は桜が散る幻想的な景色を眺めていると変異体がこちらを向いて奇声を上げる。
「ん?」
どうやら、前に来いと言われている気がして俺は足を動かす。
すると、変異体の身体で見えなかったが、奥の方には祭壇の様なものがあった。
「なんだこれ?」
俺は段差を登り、祭壇まで行くと、そこには古めかしい一冊の本が置いてあった。
「本……?」
手に取り中を読んでみる。
「全く分からない……」
そこには意味不明な文字がズラっと書かれていた。
「何の本か知らないけど、元に戻した方がいいよな」
手に持った本を祭壇に戻そうとすると、変異型が奇声を上げる。
「な、なんだ? 俺に持っとけと言うことか?」
俺の言葉に反応する様に、もう一度鳴く。
い、いらねぇーよ……とは言えない為、俺は本を右腕で抱える。
「あ、ありがとうな」
一応、お礼を言う。
すると、変異型が急に身体を震わせ口からあるものが出てきた。
「なんだこれ?」
変異体の口から出て来たモノは宝石の様な真っ赤な玉であった。
──ん? ……なんか見た事ある玉だな……?
どこで、玉を見たかは思い出せ無いが、何故か大事な物だった気がする。
「こ、これも貰っていいのか?」
変異体が頷く様に顔を動かした様な気がする。
うん……今は思い出せないけど、綺麗だし貰っとこう。
すると、突然突風が吹き始めた。
「な、なんだ?!」
桜の花びらが突風の影響で散り、辺り一面が桜の花びらで包まれる。
そして、突風が収まり桜の花びらも地面に落ちた時……
「……え?」
辺りの景色が一変し、先程中型を倒した場所に立っていた……
「どうなっているんだ……?」
色々ありすぎて頭が回らない。隣を見れば同じく変異体はいるが、答えてくれる訳もなく、動揺していると、変異体が動き始める。
どうやら、用事を済ませたのでこの場から立ち去る様だ。
そして、俺は最後にもう一度だけ、一言お礼をしようとするが、急に身体を動かすスイッチが切れた様に、その場に倒れ込む。
「はは、もう意識が……」
変異体はそのまま俺に背を向けて何処かに行ってしまう。
「ありがとうな……」
お礼の言葉を呟き、俺は意識を手放した……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます