第211話 アトスへの信頼

「あわわ、何か飛ばして来た!?」

「姉さん、落ち着いて」


 姉さんが、変異体にフィンフショットを打ち込んだら、変異体は仰け反った。流石姉さんの攻撃だ……。

 だけど、直ぐにこちらに向き直り遠距離攻撃であるトゲを無数に飛ばしてくる。


「皆さん、避けて下さい!」


 マーズの一言に反応する様に全員が避ける。避けたトゲはそのまま木々に直撃するが、その度に木が倒れる為、どれくらいの威力があるかは想像出来る。


「ふむ。やはり身軽な者ばかりを連れて来て正解ですな」

「そうだねー。もし当たっていたら……」


 小型の硬い外装ですら、簡単に貫くトゲは、私達人間が当たったら終わりだと思う……


「それでは、アトスさんの所まで戻ります」

「お兄さん、待っててね! 直ぐに行くから」


 私達は来た道を引き返す。

 変異体は、そこまで早くは無いが移動しながらも遠距離攻撃が出来るらしく絶え間なくトゲを飛ばしてくる。


「ふむ。少し厄介ですな」

「前も後ろも注意しないといけないから大変ー」


 今、逃げているメンバーは難なく攻撃を避けているのが救いである。


「マーズ、どれくらいで合流出来る?」

「そうですね……やはり三十分くらいですかね?」


 三十分……行きと帰りで合計一時間分をアトス様は逃げ切らないとダメなのか……

 私は嫌な事ばかり想像してしまう為、少しでも掻き消す様に逃げる事に集中する。


「チル様、ご安心下さい。アトス殿なら一時間くらい余裕でございます」

「そうだよ、チルちゃん。お兄さんレベルになれば余裕余裕!」


 二人も、本当の所は凄い心配しているのが分かる。


「うん。アトス様なら平気だよね」

「今頃、全滅させちゃっているかもね!」

「ほっほっほ。アトス殿なら有り得ますな」


 うん。アトス様は大丈夫だ。今、私が出来る事だけに集中しないと。

 

 後ろを振り向くと、変異体はしっかりと私達の後を追っている。


「皆さん、どうやら変異体は完全に私達を標的にした様なので、後は連れて行くだけです」


 後は何事も無く合流出来ればいいな……


「あぶね!?」


 暫く逃げていると、変異体の動きが変わった。

 追い掛けて来るスピード自体は変わらないが、遠距離攻撃で狙う標的を私達人間では無く、私達の前にある木々に打ち込み始めた。


「な、なんか標的変わった?!」

「ふむ。どうやら我々では無く木々を狙い始めましたな」

「走り辛い……」


 変異体は木々を倒す事によって私達が逃げ辛い状況を作っている様だ。

 そして、変異体と私達の距離は徐々にだが詰まって来ている。


「ま、まさか。この事も考えて行動しているのか……?」


 マーズが呆然と呟き始める。


「ここまで、考えて行動するモンスターが居るとは未だに信じられません……」

「どのモンスターも頭良く見えるよねー」


 姉さんの言う通りだ。このジャングルに来てモンスター達は効率的に動いている様に見える。


 前回、休憩所の戦いでは、モンスター達がいつもと違う攻撃を仕掛けて来たり、驚異度の高い攻撃を潰す為に動いたりなどしていて、私達人間を捕食する為にとても効率的な動きをしていると思った。

 それだけで厄介なのだが、今回は更にチームプレーも合わさっていたり、行動を先読みかたりと、モンスターがまるで意思を持って、考えて行動している様に見える。


「モンスターも成長している……」

「そうだよね……前回の戦いでも思ったけど、今回はより一層モンスター達が頭を使って行動しているように見えるよー」

「チル様やロピ殿の言う通りですな。今までのモンスターの在り方とは別で段々と進化している様に見えます」


 なんだかんだ言いながらも、私達は怪我無く移動を続けている。このまま行けば何事も無くアトス様と合流が出来そうだと思っていると、そう甘くは無かった。


 変異体は、なんと次の標的を木々から逃げている内の一人に絞り、絶え間なくトゲを飛ばし始める。


「ほっほっほ。私が標的らしいですね」


 何故かリガスは嬉しそうに笑っていた。トゲによる攻撃を一点に受けるリガスだが余裕を持って攻撃を避けていたので、変異体は標的をリガスから他の者にした様だ。


「お、俺かよ!」

「冷静になれば避けれます」

「そ、そんな事言ってもよ……」


 新しく標的にされた者はリガス程余裕を持って避けれる訳では無いので、変異体の攻撃を避ける度に精神がすり減っている様だ。

 そして、とうとう集中力が一瞬切れてしまった様で、攻撃が当たりそうになってしまう。


「クッ……」


 避け切れないと思ったのか、目を瞑ってしまう。だが、その者に攻撃が当たる事は無かった。


「カネル!」


 変異体の遠距離攻撃であるトゲをリガスがガードしたのだ。


「ほっほっほ。大丈夫でございますか?」

「す、すまね! リガスさん助かった!」


 流石、リガスである。


「魔族さん流石!!」

「ほっほっほ。ありがとうございます」


 変異体は確実に仕留めたと思った人間が無事な事に怒りを覚えたのか、追い掛けて来るスピードが少し上がった。


「皆さん、アトスさんの所まであと少しです!」


 ここまで来れば、あと少し!

 私達は再度気合を入れ直してアトス様の方に向かって走り続けた……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る