第179話 旧友との再会
「その子から手を離せ……」
先程絡まれた時よりも、数段怒気の篭った声色で男達に言い放つ。
「あ? おいおい……」
「なんだよ、コイツめちゃくちゃ綺麗だぞ!?」
男達はトラクだと思われるエルフを二人で押さえ込み、三人目の男はズボンを半分程脱いでいた。
「その子から今すぐ離れろと言っているんだ!」
いくら憎い人間族でも普段は極力穏便に済まそうとする私だが、目の前の光景を見て過去の私を見ている様で気付いた時には男達に突っ込んでいた。
多少は戦闘の心得があったのか、三人は私の動きに反応してきたが、所詮は冒険者崩れなのだろう、私の相手では無かった。
「こ、コイツ強いぞ!」
一人目の男を一撃で沈め、二人目の攻撃を避けてから顎に一発入れ気絶させる。
「お、お前達……」
一瞬で二人を気絶させた私に敵わないと悟ったのか、三人目の男は仲間達を置いて一人で逃げ出した。
仲間を置いて逃げるなんて、やはり人間族は最悪だな……。
私は地面に座り込んでいるトラクに声を掛ける。
「大丈夫か?」
「は、はい!」
トラクは慌てて立ち上がり、自身に着いた汚れを叩き落としている。
「あ、あの。助けて頂きありがとうございます!」
トラクは私がシャレだと言う事に気付いていない様だ。
「一つ、聞きたいんだが名前は?」
「これは、失礼しました。私はトラクと申します」
やっぱり……。
「宜しければ、貴方のお名前を教えて頂いても?」
私は自身の名前を名乗らず、胸にしまっているペンダントをトラクの前に見える様に掲げる。
「……シャレちゃんなの?」
先程まで笑顔だった顔が驚愕した表情に変わる。
「ひ、久しぶりだな、トラク」
「シャレちゃん!!」
トラクが飛びつく様に抱き付いて来た。
「おいおい、危ないぞ?」
「ずっと、会いたかったよー!」
トラクは泣いているのか、私の胸に顔を埋めて、声が震えていた。
「あぁ……私もずっと会いたかった……」
それから私達は再会を分かち合う様に暫くの間抱き合う。
「シャレちゃん、今までどこにいたの?」
少し落ち着いたらしく、トラクは私から離れて過去の事を聞いて来た。
「あの事件の後は親戚が住んでいる村にお母様と一緒にお世話になっていたんだ」
「そっか……。無事で良かったよ」
「あぁ、私もトラクが無事で本当に良かった……」
それからは積もる話もあるだろうと言う事でトラクの住んでいる家に向かう事にした。
今日は泊まる事にもなったので、事前に側近であるエルフに伝えて心配しない様に言いトラクの家に向かった。
「到着! シャレちゃん、ここが今の私の家だよ」
「トラクはここに住んでいるの?」
「うん」
笑顔でこちらを見ているが、私の表情は固まる。
これは外で寝るのと大差無いのでは……?
トラクの家は屋根があるだけで周りに風を遮る壁が無いのだ。
「今日から私の部屋で寝泊まりするといい」
「ん、なんで?」
「こんな場所に寝てたら、いつ襲われるか分からん!」
「あはは、私なんかを襲う人なんていないよ」
トラクは先程襲われそうになった事を忘れているのか?
「それよりも、座って座って!」
「し、しかし」
「今、お茶用意するね」
そう言って鼻歌を歌いながらお茶を用意するトラクの背中を私は懐かしむ様に見ている。
「おまたせ」
こうして、私達はお茶を飲みながらお互いの過去話に花を咲かせた。
「そうか、トラクは武器職人になる為にドワーフの村に来たんだな」
「そうなの」
「昔から手先が器用だったもんな」
このペンダントだって幼い子供が作ったとは思えない程の出来である。
「あはは、シャレちゃんは不器用だったもんね」
「ムッ? そ、そんな事ない私は普通だ、トラクが器用過ぎただけだ!」
親友に会えた事が嬉しかったのか、私は普段出さない表情、声、感情を露わにした。
「トラクはなんで武器職人を目指したんだ?」
私の問いに、先程まで笑っていたトラクは真剣な顔で言ってきた。
「シャレちゃんの役に立ちたくて!」
「私の?」
「そう。あの事件以来、私は自分の無力さが情けなかったんだよ」
「あれは、別にトラクの所為じゃ無いし気にすることなんて無い」
それにトラクは十分に私を助けてくれた。このペンダントが無ければ、人間族に弄ばれた時に心が壊れていただろう……。
そして、何かあるたびに私はこのペンダントに助けられて来た。
「私は、シャレちゃんの助けになりたくて戦闘訓練もしたけど、そっちは全然だったんだよ」
「昔から運動神経はそれ程良くなかったしな」
「そうなの。だから私に出来る事は何かと思って、考えた結果が武器職人の道なの」
「武器職人?」
「そう。戦闘訓練して村で凄く強くなったのを知っているから、シャレちゃんの使用する武器をいつでもメンテナンス出来るようにと思って!」
私はトラクの話を聞いた後に自分でも気付かずにどうやら泣いていたらしい。
「シャ、シャレちゃん!? なんで泣いているの?」
「……え? 私泣いている?」
あの事件以降、私は意識的に悲しい事や辛い事があっても泣かない様にしていたが、親友の心温まる想いに私は悲しくも、辛くも無いのに泣いていた。
その日はそれ以上話さず私はトラクに抱かれながら暖かい温もりの中眠りに落ちるのであった……。
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