第177話 シャレの過去

 私はリンクスの提案にどうするか考える為、仲間のエルフ達から離れて一人で今後どうするか悩んでいる。


 今回の遠征では、少なからず仲間達が死んでいった……。


「これ以上犠牲者を出す訳にはいかない……だが私達には資金が必要だ……」


 私はエルフ族の村で代表を務めている。色々な出来事があり今の地位になっている。


 その色々な出来事は、私が子供の時の話である。


 


「シャレちゃん、今日はなにしてあそぶー?」


 私には小さい頃親友が居た……。


「うーん、お花で冠をつくりましょ?」

「いいよー」


 親友は幼いながらも、とても器用な子で何を作らせても私より上手に作る子だった。


「うー、全然上手く作れないわ……」

「シャレちゃんには、私の作ったのあげるね!」

「いいの?」

「うん!」


 親友は、いつも私に作った物をくれた。そして私はそれが嬉しくていつも喜んでいた。


「いいわね、いつも上手に作れて」

「あはは、私にはこれしか取柄が無いから!」

「私も、少しは上手に作れたら貴方にあげられるのに」

「ううん、私はシャレちゃんが作った物なら、何でも嬉しいよ?」


 幼い筈なのに人の気持ちを汲み取る子でもあった。


「シャレちゃんは、戦う才能があるんだし、凄いよー」

「私は、戦いの才能より貴方みたいに作る才能の方が良かったわ」

「だって、戦う才能があればシャレちゃんと一緒に訓練に参加出来るし」


 最近になって、お父様に言われて戦闘訓練をする様になり、親友との遊ぶ時間が減った。こうして時間を見つけては会うようにしていたが、子供の時の私は不満しか無かった。


「私、訓練なんてしたく無いわ!」

「強くなるのは良い事だってお父さんが言ってたよー?」

「だって、強くなるには訓練しないといけないけど、そうすると貴方と遊べなくなるんですもん……」


 幼い私は今と違って表情がコロコロ変わり、この時は確か……お父様に対しての不満を親友に愚痴り、頬を膨らませていたわね……。


「シャレちゃん家は偉い家系だから大変だよねー」

「そんな家に生まれたく無かったわ」


 親友は私の表情や心情などを理解していたのだろう。次の日になるとある物をくれた。


「シャレちゃんコレ!」

「ん? これは何かしら?」

「シャレちゃんの為に作ったの」

「くれるの?」

「そうだよー。これを身に付けてればいつも私と一緒だよ!」


 そこには木で出来たメガネを掛けたエルフの子供が彫られていた。


「これは貴方……?」

「そうだよ。ペンダントにしたから首に下げとけば、いつでも私と一緒!」


 そしてもう一つペンダントを取り出し親友は自身の首に下げた。


「それは?」

「えへへ。誰だと思うー?」


 そこにも、エルフの子供が彫られていたが、目の部分が少しつり上がっていた。


「私かしら……?」

「ピンポーン! シャレちゃんはもっと美人だけど、今の私にはこれが限界だった……ごめんね?」


 私は、親友の気持ちが嬉しくて少し涙目になるが子供ながら親友に泣く所を見せるのが恥ずかしいと思い我慢しながらもお礼を言う。


「ありがとう、嬉しいわ」

「よかったー! 私も毎日身に付けるからシャレちゃんも身につけてくれると嬉しいな……?」

「えぇ。約束するわ……」


 それから、私の訓練は本格的に始まり親友と遊ぶ暇が無くなった。


 そして、数年後にある出来事が起きる……。


 その日はいつも通りお父様と、その側近達と訓練をしていた。私も大分剣を振れる様になり、今では村の中でも上位には入れるくらいに強くなったとお父様達に褒められる。


 日課をこなして休憩に入ろうとした時である。見張り台に設置されていた鐘が大きな音を立て鳴り響く。


「た、大変だ! 人間族の兵士共が攻めてきたぞ!」


 見張り台に登ってきたエルフが大声で叫ぶ。


「お父様!」

「あぁ。住人を避難させる」


 私達は住人の避難の為最後まで残っていた。すると、馬に乗った兵士達が村の入り口から入って私達を見る。


「ふむ……、上等なのが何人かいるな」

「捕まえて奴隷にしますか?」

「勿論だ、やれ」


 一人の兵士が言うと一斉に私達に襲い掛かってきた。


「我々をあまりなめるな!」


 お父様が剣を抜き先陣を切り人間族に斬りかかって行った。

 その後を側近達も追従する。


「お母様はお逃げ下さい!」

「いえ、村の代表である妻としてここを動くわけには行きません」


 お母様は凛とした立ち姿で戦闘の行方を見守っている。


「お前達は逃げても構わないのよ?」


 お母様が側近である女中達に言う。


「いえ、私達も最期の最後までお供させていただきます」

「そう……」


 私は言っても無駄と思い戦闘に参加する為走り出す。


「では、お母様行って参ります」

「人間族を皆殺しにしてきなさい」

「分かりました!」


 そして私は人間族に向かって走り出した……。


 そこから後の事はあまり思い出したく無い出来事ばかりであった。

 お父様達は次々と人間族を殺したが、そもそも人数の差が激しかった為、体力などが持たず徐々に追い詰められてしまい、最終的にはお父様達は殺されてしまった……。

 そして女性である私やお母様、女中達は捕まり、三日三晩人間族の男達に弄ばれてしまい、私達は心を閉ざした……。


 意識が回復した時には知らない場所で目が覚めた。

 どうやら、他の村のエルフが助けに来てくれた様で私も含めお母様達も体的には何も問題無かったが、心の方が壊れてしまった……。

 唯一意識を取り戻したのは私だけの様だが、私自身もあの事を思い出すと、身体が震えてしまう。


 私達を弄んだ人間族は皆殺しにしたらしいが、どうせ直ぐに人間族の住処から新しい者達が来るだろうと言う事で、私が居た村は捨てて親戚がいる村に移り住む事に決まった。


 私は最後に親友に会いたかったが避難の際に村に居たエルフ達も、また他のエルフの村に移り住んだという事でどこに行ったか分からないのであった。


「私が、今こうして居られるのは貴方のお陰なのよ?」


 私は首にぶら下げているペンダントを握り呟く。

 あの時人間族に弄ばれて唯一私だけ意識が回復したのは、このペンダントのお陰である。人間族に何をされてもずっと肌身離さずペンダントを握り親友を感じ取っていたので、心が壊れずに済んだ……。


 それから何年経ったか数えるのも忘れ、今では村の代表になり、住人の命を守る役割を得た。子供の時みたいに人間族に攻められても大丈夫な様に、訓練もみっちりした。そして、このドワーフの村では武器の調達の為と資金巡りの為に寄ったのだ……。


 現在、私が代表を務める村では、どんどん新しいエルフ達が移り住んで来ている。


 そこで食料などが追い付かず買い付けする為にもお金が必要な状態であった為に、人間族であるリンクスの募集に参加した……。


 本当は人間族など殺して回りたい程憎いが表には出さない。そしてリンクス達に、まんまと良い様に使われた挙句仲間達を何人か失ってしまうと言う失態までした私は、今後どうするべきなんだろうな……。


 いつもの癖で私は知らず知らずにペンダントを握っていた様だ……。


 

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