第148話 ロピの提案
小型の強さに俺の心は完全に消沈していた。だがロピとチルの言葉により再び心のロウソクに火が灯ったのが自分でも分かる。
だがやる気が戻ったとしても小型に有効な攻撃が見付からない。
「攻撃手段がな……」
「攻撃手段?」
ロピが首を傾げる。
「あぁ。チルの全力でも小型の外皮はビクともしなかったからな」
「悔しいです……」
「後は、チルの全力の攻撃を何発も同じ箇所に打ち込むくらいだが、そんな隙が無いからな……」
俺とチルは何か良い攻撃手段が無いか頭を悩ませるが、やはり見つからない。するとロピが手を上げる。
「はい! 私に考えがある!」
「「ん?」」
次は俺とチルが首を傾げる。
「本当は中型用にと思って考えてた技があるんだけど今回の小型にも効くかも」
「なに?! それを早く言え!」
「ご、ごめーん。戦いに必死で!」
どうやらロピには必殺の技があると言う。
「ただ、一つ問題が……」
ロピが言い辛そうな顔をして、先程まで空に真っ直ぐ上げてた手がヘナヘナと降りてくるのであった。
「も、問題ってなんだよ……?」
もう、何も秘策が思い付かない為ロピの言葉に喜んでしまったが、世の中そう甘くないと言うわけか。
「実は……考えただけで一度も試した事ないんだよね……」
「ぶっつけ本番か……」
「アトス様、やりましょう」
俺が一瞬、どうするか考えた時にチルが間を置かずに言う。
「私は姉さんを信じます」
「ち、チルちゃん……」
妹からの信頼感に涙が溢れそうなのか目元を手で押さえている。
「それに失敗しても姉さんのせいですのでアトス様が気にする必要は一切ありません」
「ち、チルちゃん……!?」
妹から最終責任者を押し付けられて驚いた表情で固まっている。
でもそうだな。他に何も思い付かない以上ロピに賭けるしか無い。
「よし、ロピに賭けよう!」
「はい! 姉さん信じているよ?」
「私は妹を信じられなくなってきたよ!!」
ロピの悲痛な声を完全に無視をしてチルはどの様に動くか俺に聞いてくる。
「ロピ、その技はすぐ使えるのか?」
「ううん、十秒必要なの……」
あの小型に対して十秒か……。
この世界での戦いは、とにかくデタラメだ。それは身体能力が高い為距離がどんなに離れていたとしても目視出来る範囲に敵が居た場合は数秒で目の前まで行き攻撃する事が可能なのだ。
なので、この世界で戦う場合の十秒はとても長い……。
「でも、やるしか無いよな!」
「アトス様と姉さんの事は私が守ります!」
「よし、ロピ攻撃準備をしてくれ」
「分かった!」
前衛達の方を見るとリガスが相当苦しそうな表情をしているのが見える。恐らくチルが抜けた事により集中狙いされているからだろう。
「リガス!」
「ほっほっほ。お話は終わりましたかな?」
呼び掛けると、直ぐにいつもの表情に戻る。
「これから俺達全員で十秒間ロピの事を全力で守るぞ!」
「ほっほっほ。何をするか分かりませんが、かしこまりました」
俺の指示にガルル、ググガ、イケメンも頷くのであった。
よし準備は整ったな。
「ロピ始めてくれ!」
「オッケー! 1……2……3……」
合図と共にロピはスリングショットを構えてカウントを始める。持っている小石からはバチバチと音が鳴り始める。
「4……5……6……」
だが五秒を超えた辺りから小型は何かを察知したのか、いきなり俺達の方を向いたのだ。この辺りからロピが持つ小石はバチバチとかなり大きい音が鳴り、また電気が弾ける様子が目に見える様になっていた。
小型は前衛を全て無視してこちらに向かってくる。
「7……8……!?」
そして一瞬で俺達の所まで来ると攻撃をする。
「ッチ、やっぱりか。ガード!」
小型による攻撃を俺達はなんとか避けたり防いだりしたがロピのカウントが止まってしまう。
「うぇーん、お兄さん攻撃に集中出来ないよー」
「それでも、やるんだよ! ロピもう一度だ」
「姉さん頑張ろ?」
「……うん」
ロピは再び準備を始める。
「1……2……3……」
「アトス殿、ロピ殿申し訳ございません」
リガス達がこちらに戻ってきて再度小型を惹きつけてくれている。その間もロピのカウントは進む。
「4……5……6……」
だがやはり五秒を超えた辺りから小型からしたら無視出来ない何かを感じるのか標的がロピに切り替わる。
「次は通さん。カネル!」
「ガード!」
リガスにより小型の一撃を止める。
「7……」
だが小型によるお得意の尻尾攻撃がリガスを襲うが、なんとか避ける。そして回転数をどんどん上げていき小型は三撃目で他の前衛を吹き飛ばし、四撃目で俺とロピに攻撃する。
俺は、カウント中のロピの襟首を持ち引きずる様に小型からの攻撃をなんとか避けるが、またカウントが止まってしまう……。
辺りを見ると、直撃はしてなくても攻撃がどこかに当たったのか前衛達は色々な箇所に怪我を負っている様だ。
「お、お兄さんどうする?」
このまま同じ事をしても繰り返しになるだろう。ロピとチルのお陰でやっと付いたロウソクの炎が、また消えそうになる。
しかし、そうはならなかった。
先程まで立ち上がれなかった者達がゾロゾロと起き上がってきたのだ。
「お前ら頑張りすぎだろ!」
「ホントだよ、お前ら見てたらおちおち座り込んでいる事も出来ねぇーな!」
商人達もボロボロで腕や脚などが変な方向に向いている者もいる。
「ふふ、私達王子様が頑張っているのに寝てられないわよ」
「ババアの言う通りだ。もう充分休んだし俺らも戦うぜ!」
「王子と紳士を助けます」
「散々休んどいて凄い言い草……」
「「「あん?」」」
「ご、ごめんなさい……」
イケメンのパーティメンバーも集まって来る。
「ほっほっほ。ここにいる者達は強者ばかりですな」
「あぁ。間違いないな」
俺は全員を見回す。そして残酷で無謀な作戦を提案する。
だが何故か不思議と反対意見は無く皆表情を引き締めるのであった。
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