過酷な場所で生き抜く為に

第96話 リザードマン達の誤解

　リザードマン達を全員縛り終わり、一番偉そうにしていた者を起こす。

「おい、起きろ」

　呼び掛けても反応しない。どうやらリガスの攻撃が効いているらしい。

「アトス様お任せください」

　チルはリザードマンの前まで行き、いきなり頭に拳を落とした。しかもかなり勢い良く。

「──ッ！？」

　リザードマンはビックリしながらも状況を理解しようと努めている。そして仲間が全員自身と同じく縛られている事を知り観念した様に頭を垂れた。

「色々と聞きたいことがある」

「ひと思いに殺せ！」

　何か勘違いしているリザードマンが大声で叫ぶ。そしてチルはもう一度リザードマンの頭に拳を落とす。先程よりも強めに。

「チ、チルちゃん？　ちょっと乱暴なんじゃない？」

「アトス様の話を聞かないのが悪い」

　少し異常だと思うが今は無視しよう。

「心配するな。殺さない」

　リザードマンは信じられないのか疑いの目を向けながらも話を聞く態勢に入る。

「何故俺達を襲った？」

「よくもぬけぬけと！　アイツらの仲間だろ！」

　リザードマンの頭に拳が入る。

「なんの事だ？　俺達は先程説明した通り旅の途中で立ち寄ったんだ」

「アイツらの仲間じゃ無いのか？」

「アイツらって？」

「俺達とは違うグループのリザードマン達だ」

　こいつら以外にもリザードマン達がここら辺にいるって事か？

「何を言っているか分からないがお前達以外のリザードマンに会った事は無い」

「それじゃ、私達の勘違い……？」

「そう言う事だ」

　リザードマンは勘違いだった事に気付いたのか、慌てて謝ってくる。

「本当に申し訳ない！」

　縛られながらも姿勢を正し頭を地面に擦り付けながら大きい声で謝ってくる。そしてその声で他のリザードマン達も目が覚めた。

「お前達！　この方々はアイツらと関係無いそうだ。私達の完全なる勘違いだ！」

　目が覚めたリザードマン達も勘違いに気付き慌てて一緒になり謝り始める。

「「「申し訳ございません」」」

「この様な無礼を働いて、どの様に償えばいいか……」

「それに関してだが、こちらから提案がある」

「私達で出来る事であればなんでも」

　今の状況なら、本当になんでも言う事を聞いてくれそうだな。

「まずは、先程も言った通り食料が切れて身体も疲れているのでこの村でしばらく休ませて欲しい」

「もちろん大丈夫です。いくらでも滞在して下さい。そして旅立つ時は食料も用意致します」

　食料まで用意してもらえるのは有難い。肉だけなら途中で狩ればいいが香辛料などは買わないと手に入らないからな。

「次にこの獣人に武術を教えてあげて欲しい」

「武術ですか？」

「あぁ、そこに居るリザードマンに教えて貰いたい」

　最後まで残っていたリザードマンを指す。

「グインですか？」

「グインと言うのか。そのリザードマンに教えて貰いたい」

「えぇ。もちろん大丈夫です。グインいいな？」

「……はい」

　グインは俺達を見回し深く頷く。

「他にはありますか？」

「後はこの村を自由に歩き回らさせて貰えればいい」

「寛大なる処置、ありがとうございます」

　そしてリザードマン達はもう一度深く頭を下げるのであった。

　そこからは、縄を解いてあげて村の案内をしてくれる事になった。

「アトスさん、こちらはチルさんに武術を教えるグインと、この村を案内してくれるトッポになります」

　そう言って紹介してくれた内のトッポと言う男が話しかけてくる。

「オッス！　いやー、あんた強いな！」

「ほっほっほ。それ程でもありません」

「いやいや、謙遜なさるな！　この村の腕利き達を一人で倒して更にこの村で一番強いコイツも倒したんだろ？」

　トッポが指差した相手はグインと言う物静かな男である。

「グイン様はお強いですね。その技は我流ですかな？」

「……はい。父に教わりました」

「モンスターには意味を無さないでしょうが、人間には有効ですな」

「……はい」

　グインは返事だけすると黙ってしまう。

「すまねぇーな！　こいつは無口でよう。それと今は色々問題があって」

「いえ、お気になさらずに」

　俺からするとリザードマンの見た目では誰が誰だか区別が付かないな……。

　もちろん身長の大きさなどの違いはあるが顔などはみんな同じに見えてしまう。グインだけは顔に大きな傷がある為分かりやすい。トッポはお調子者で分かりやすいな。

「それじゃ、俺達が村を案内するぜ。と言っても小さいし何も無い村だけどな！」

　それから村を一通りトッポに案内して貰ったが、言われた通り小さい村なだけあって特に何も無かった。最低限の開拓は行なっている為木々などは切り倒してあり、平坦に地面をならしてその上に住む場所が建っている感じだ。

「ここが、アトスさん達が滞在する建物になる。見かけは古いが中は整備してあるから安心して使ってくれ！」

「ありがとう。しばらく使わせてもらう」

「ご飯とかは誰かが運んでくるからよ」

　ご飯まで出て来るとは楽でいいな。

「それと、そこの獣人に教える件だが明日からでいいか？」

「構わない。よろしくお願いします」

　チルはグインに向かって頭を下げる。そしてグインも無言でチルに対して頭を下げる。

「それじゃ、今日はゆっくり休んでくれ！　明日朝になったらまた来るからよ」

「わかった」

　グインとトッポは帰って行き俺達は建物の中に入った。

「わー。結構広ーい」

「そうだな、これならゆっくり休めそうだ」

「ほっほっほ。これなら見張りもいりませんな」

「私は明日から頑張る！」

　思い思いの感想を述べてその日はゆっくり過ごした。