第74話 チルの行動 2
またまた、アトス様と姉さんが寝ている事を確認して、私はソッとベッドを抜け出す。
ベッドを抜け出し二人の様子を見る。姉さんは、口を開けてヨダレを垂らしながらアトス様の腕にくっ付き寝ている。アトス様は今日の姉さんのスキルの影響で倒れてしまい、そのまま眠っている。
「アトス様大丈夫かな?」
私は二人が起きない様にアトス様の様子を見たが顔色は良さそうに見える。ディングが医療に心得のある村人を呼んでくれて、アトス様を見てくれたが、何の異常も無いので安心して良いとの事だ。
アトス様が倒れた時、私達姉妹は大慌てで駆け寄り、急いでディング宅まで運んだ。自分のスキルが原因でアトス様が倒れてしまい姉さんには珍しく泣きながら必死にアトス様を運んでいたのが印象的だった。
「アトス様、姉さん、今日もリガスの所にいってきます……ごめんなさい」
私は小声で二人に謝り部屋を後にする。
前回同様、夜中の為辺り一帯は真っ暗で村人達は寝静まっているようだ。食料を大量に詰めたカバンを持ちながら、気配を消してリガスが囚われている建物に向かう。
村の外れに向かって進んでいくと見張りが見えてきた。今日も眠いのか頭が上下に動き舟を漕いでいる様だ。
「これは、もう見張りとは言わないと思う……」
心の声が漏れてしまうくらいには、この村の見張りに呆れてしまった。
「私としては侵入しやすいからいいけど」
難なく侵入に成功しリガスが居る牢屋に向かう。
牢屋の目の前に行くとリガスが地面に倒れている。
「大丈夫?」
「おや? 誰かと思ったらお嬢さんでしたか。これは弱っている演技なので大丈夫です」
「良かった」
リガスはどうやら体調が回復した事を隠す為に弱っているフリをしていたらしい。
「今日も食料持ってきたよ」
私はカバンから大量のサンドウィッチと飲み物を取り出して全て牢屋の中に入れてあげる。
「これはこれは、本当にありがとうございます。前と言い今と言いお嬢さんは私の命の恩人です」
「気にしないで。私がしたいと思ってしているだけだから」
「本当に私に何かして欲しい事はありませんか?」
リガスは年寄りって言うのもあるのか義理堅い。
だけど、私としては本当に何かして欲しいって言うのは無い。
「特に無い。今日でスキル儀式も終わったから、リガスはいつでも逃げていいよ」
「お嬢さんは、何のスキルを得たんですか?」
見た目はどう見ても、スマートな老人なのだが、リガスは老齢を感じさせない笑顔で聞いてきた。
「身体強化だった」
私は首にぶら下げていたプレートをリガスに見せた。
身体強化(部位:腕 Bランク)
「ほうほう。Bランクとは凄いですね」
「本当は武器強化が良かった」
「ほっほっほ。Bランクを得たなら、そこら辺の武器強化より強いと思いますよ?」
「そうなの?」
リガスは目を細くして笑いながら言う。
「どんなスキルでも要は使い方次第です」
「うん、アトス様も言っていた」
「アトス様とは?」
「私と姉を地獄から救ってくれた人!」
私は自分でも分かるくらい、アトス様の話をすると表情が変わると思う。
「ほっほっほ。お嬢さんは、そのアトス殿が好きなんですね」
「好きなんて言葉では表現出来ない! 崇拝しているの!」
「なるほど……。お嬢さんは一生を掛けて従える主君を見つけたんですね……」
リガスは悲哀感ある表情で呟く。
「その表現いい! そうか……私は生涯従える主君を見つけたのか……」
自分自身で呟き、言葉にしてみるとこれ程ピッタリな表現は無いと言える程自分がアトス様に思い描いている感情を言い表した言葉だと思った。
「リガス、ありがとう! 私の中で何かが整理されてスッキリした!」
「ほっほっほ。役に立てたなら良かったです」
これからは、このスキルを磨いて今以上にアトス様の役に立てるよう頑張ろう。
「そういえば、リガスのスキルは何?」
「……私はスキルが無いんですよ」
「スキルが無い?」
「ええ。十歳の時にスキル儀式を行ったのですがプレートには何も表示が無かったんです」
「そんな事ありえるの?」
「私も魔族なのでかなり長生きですが、やはり稀にあるらしいですな」
スキルが得られない……。想像しただけで怖くなってしまう……。
「ほっほっほ。まぁ私も魔族の端くれなので、スキルが無くても他の種族には負けた事はありませんでしたな」
リガスは過去の戦いを思い出したのか嘲笑う様に笑っていた。
やはり、魔族は相当強いのだろう。私みたいな獣人族は身体能力が高い為人間族と徒手空拳で戦った場合は多分勝てると思うが、魔族は獣人族以上に強いのだろう。
そんなこんなで、リガスと話しているとあっという間に時間が過ぎて、そろそろ戻らないとマズイので最後、リガスに挨拶して戻ろう。
「リガス、私はそろそろ戻るけど無事に逃げ切ってね」
「お嬢さん、今回は本当にありがとうございます」
「次は捕まっちゃダメだよ」
「ほっほっほ。仰る通りですな」
二人で笑い合っていると、何やら外が騒がしかった。
「なんか外が騒がしい?」
「そうですな……?」
私とリガスは顔を見合わせてお互いに首を傾げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます