第70話 スキル儀式

「アトス様、起きてください朝になりました」


 身体を優しく揺さぶられて俺は目を覚めした。

 今日はチルが一番の早起きの様だ。


「チルおはよう。朝早いんだな」

「え、ええ。おはようございます」


 何故か焦った感じの様子で挨拶をされた後に目を逸らされた。


 どうしたんだろ……?


「姉さん、起きて」


 チルは姉を起こす為に身体を揺さぶっていた。

 だが、俺とは対応が違うらしく、凄い勢いで揺さぶっている。


「うーん。まだ眠いよ……」

「もう。朝だよ!」

「チルちゃんも、まだ一緒に寝ようよ……」


 ロピはまだ眠り足りないのか、チルを巻き込んで眠ろうとしている。


「……」


 チルはロピにイラッとしたのか、無言でロピをベットから落とした。


「いたっ!」

「姉さん、起きた?」

「いたた、起きたけど何で私落ちたの?」

「寝相が悪かったんだね」


 ロピは、チルが落とした事に気付いてないみたいで、首を傾げている。

 そして、チルは何事も無かった様にロピを心配している雰囲気を出す……。


「姉さん、どこか身体ぶつけてない?」

「チルちゃーん、腕ぶつけた~」


 ロピは少し涙目でぶつけた腕を押さえながら、チルの胸に顔を埋めた。

 チルはロピの頭を優しく撫でてあげている。


「不憫だ……」


 俺は無意識に呟いてしまった。


 そんなやり取りをしていたら、食事の用意が出来たと呼ばれ、食堂に行き朝ごはんを食べた。




「よし、アトスよ! 今日はモンスターも居ないらしいから、スキル儀式でもしようでは無いか!」

「あぁ、頼む」

「グダよ、準備は出来ているのか?」


 先程ご飯中にグダがディング宅に訪ねて来たので、そのまま儀式を行う場所まで一緒に向かっている。


「えぇ。滞りなく整っております」

「良くやった。アトスよ散々待たせな」


 しばらく歩き、村で一番古めかしい建物の前に着いた。


「ここだ。俺とグダは村の見回りに行く。二人ともいいスキルを得られればいいな!」


 ロピとチルは言葉は交わさずに、お辞儀だけして、ディングに感謝を伝えた。


「よし、二人とも中入ろうか」

「「はい」」


 二人はとうとうスキルを得る事が出来るのが嬉しいのか、先程からニマニマが止まらないようだ。


 建物の中に入ると、薄暗かった。俺の時もそうだったが、やはり雰囲気作りが大事って事か?

 建物の中に入り、しばらく中の様子を見ていたら奥の方から女性が歩いてきた。顔は薄い布で隠されていて表情が読み取れない。


「ようこそ。皆様方。ディング様からお話は伺っております」

「この二人のスキル儀式なんだけど俺も中で見てはダメか?」

「本当は駄目ですがディング様からは宜しくと言われておりますので、今回は特別に許可致します」


 よっしゃ! ダメ元でも言ってみるものだな!


「アトス様も一緒だと安心します」

「だよねー。お兄さん見ててね! 私凄いスキル出しちゃうんだから!」


 二人は良いスキルが出るように願って、意気込んでいるようだ。


「では、こちらにお越しください」


 女の人を先頭に俺達は部屋に案内された。これまた、俺の時と同じく大きい水晶玉が二つ置かれていた。


「それでは、部屋の隅まで移動して見学して下さい」

「二人とも頑張れよー」

「「はい!」」


 俺は部屋の隅まで移動する。

 なんだか、俺の事じゃないのに緊張してきた……。どんなスキルでも良いと思うが二人がモンスターから逃げられるスキルが出ればベストだ!


「では、二人とも水晶玉の前に座って下さい」


 ロピとチルはそれぞれ水晶玉の前に座る。


「目を瞑って水晶玉に手を置いてください」


 俺の時と同じく二人は水晶玉に手を置く。俺の時は手を置いた場所が熱くなって、もう無理だと思った時に水晶玉が壊れたっけな……。


 二人は集中しながら目を瞑っている。そして俺の理解出来ない言葉を女の人が呟き始めた。

 女の人が何やら唱えていると、二人の表情が少しずつ険しくなってきた。恐らく俺と同じで手の平が熱いのだろう。


 少しすると、水晶玉がそれぞれ光ったり消えたりを繰り返す様になってきた。最初は光って消える間隔が長かったが時間が経つに連れて点滅するスピードが早くなり、最後には水晶玉が光り続け光量も多くなり始めた。


 そして、光が一瞬最大限に大きくなり視界が光で埋め尽くされて目を瞑ってしまう。

 しばらく光り続けてから徐々に光が収まっていく。

 少しして、やっと目が開けられる様になり儀式の様子を見ると、俺の時とは違い、水晶玉は無事だった。


 ふぅ……良かった。


「お二人とも目を開けて大丈夫です。これで儀式は終わりました」


 二人はゆっくり目を開け、お互いを見ていた。


「儀式中、水晶玉が凄い熱かった! チルちゃんは?」

「私も熱かったよ! これは普通なの?」


 二人は前回の俺と同じく手の平が熱かったらしい。


「二人とも、それは水晶玉が貴方方のスキルを読み取っていた証拠になります」

「そうなんだー」

「……スキル」

「それでは、ここで少しお待ち下さい」


 そう言って部屋の更に奥に向かっていく。恐らくプレートを取りに行ったのだろう。


「二人ともおつかれ。どうだった?」

「うーん、よく分からなかったー」

「私もです」

「あはは。今スキルの結果を持ってきてくれるから待ってようか」

「「楽しみー!」」


 俺も実は楽しみだ……!

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