第43話 スラム街での出来事 3

「うーん……、朝か……」


 昨日は結局、獣人少女二人に追いつけなくて諦めてスラム街から帰った。


「よし! 今日もあの姉妹を探しに行くか!」


 何故こんなに、あの獣人姉妹に執着しているかと言うと、恐らくシクと重ねてしまっているからだと思う。

 

「今日も見つかればいいけど」


 でも、仮に見つけたとしても昨日みたいに逃げられたら追いつけないな……。


「とりあえず、スラム街行くか」


 俺は準備してスラム街に向かった。


「なんだか、スラム街の雰囲気も慣れてきたな」


 そんな事を言ったが、ガラ悪い奴に注目されるとやはり怖い。目を付けられないように、さっさと進もう……。


 「まずは昨日見つけた場所を見てみるか」


 昨日の場所に行って見たが獣人の少女達は居なかった。多分俺が声掛けちゃったから住処を移動したのかな……。

 俺は他の場所を探す事にした。


 スラム街は、面積自体は狭い為か建物が密集している為迷路の様になっている。奥まで行ったら確実に戻ってこれないな。

 結局その日は見つからず、獣人姉妹を次に見つけたのは、それから三日後だった。




 

 あれから三日経って、今日もまたスラム街で探し回っていたら、獣人の姉を見つけた!

 だが、またあの変な奴と歩いているのが見える。


「おい、ロピ今日は妹来ねーのか?」

「……」

「ッチ、愛想ねぇー奴だな。まぁいいかこれからはお楽しみだしな」


 ガラの悪い男は汚らしい笑みを浮かべて、ロピの事を上から下まで舐める様に見回していた。


「報酬を上げて欲しい」

「あ? なんでだよ」

「妹に、もっとご飯を食べさせてあげたい」

「カーー! 妹思いの良い姉だねー! よしゃ、いいだろ! だが分かっているよな……?」

「……」


 ロピはコクンと首だけ上下に振る。


「よしよし。俺をいつも以上に愉しませてくれれば、いつもより多く払ってやるよ」

「約束」

「もちろんだ。俺は嘘をつかないからな、ギャハハ!」

「……」


 ロピと男は暗がりに歩いて行く。

 クソ! どうする? また助けに行くか……?


 ……行くしかないよな!


 俺は再度全力疾走して男の背中を蹴った。


「うぉ!?」


 男はヨロけたが転びはしなかった。

 クソ! 俺の攻撃全然効いてねぇ?!


 「あん? またお前かガキ!!」

 「うるせ!! この子に手を出すんじゃねぇ!」


 俺はロピを背中に男から守る様な立ち位置を取る。


 「だから言ってんだろ! お互いwin-winの関係なんだよ! なぁ?!」


 男はロピに向けて確認するが、ロピは表情を歪めたが、すぐ表情を戻しコクンと頷くのであった。


「あー。今日はやる気しなくなったからお前殴って帰るわ」


 そう言って、男は俺を散々蹴ったり、殴ったりして帰っていく。


「いてて……」

「……大丈夫?」


 心配そうに俺の方を見てくるロピ。当たり前だが警戒して一定距離を取っている。


「大丈夫。君は?」

「私は大丈夫」

「なら、良かった。昨日はいきなり声かけてごめんね」

「あー。昨日の人はお兄さんだった?」

「あはは、そうだよ」

「ビックリしたの。何か用事だった?」

「ちょっと気になってね。なんで君達みたいな子供がスラム街で二人で暮らしているの?」

「他に生きていける場所ないからかな……」


 先程とは違ってロピはニコニコしている。だが、無理矢理笑っている様に俺は見えた。


「お兄さんも、私みたいな獣人に興味がある人?」

「……いやそうでは無いよ。君とお友達になりたくて!」

「お友達……?」


 ニコニコしていた表情が一瞬ポカンとした顔になっている。そんな表情を見てなんだか口元が緩んで笑ってしまう。


 ロピは俺が笑っているのに気づき、またニコニコした表情に戻ってしまった。


「まず、君の名前を教えて貰ってもいい? ちなみに俺の名前はアトス」

「ロピだよー」

「ロピだね、よろしくね」

「お兄さんもよろしく!」


 そこからしばらく俺とロピは話し、簡単にだが、何故ロピ達がスラム街に住んでいるのかも聞いた。


「あ、もうこんな時間ー。早く帰らないとチルちゃんが心配する……」

「妹さん?」

「そうー。私の大事な妹ー。とても可愛い!」


 ロピは先程の昔話を聞いていた時もそうだが、よっぽど妹が好きなのが伝わってくる。


「そうか。ならまた遊ぼう!」

「うん、いいよー。お兄さんは人間族だけど、なんか不思議と嫌悪感が無いし!」

「なら明日またここで」

「明日は無理かもー。今日出来なかったから明日は仕事しないと……」

「大丈夫。昨日驚かせちゃったお詫びとして明日はご飯奢らせてよ」

「ほんとー? 助かる! チルちゃんも一緒でいい?」

「もちろん。明日は朝にここ集合でいい?」

「分かった。じゃ、私帰るねー。お兄さん、バイバイ!」


 そう言って、ロピは小走りで妹の所へ帰っていく。

 よし! とりあえず姉のロピとは友達になれた。後は妹のチルとも知り合って、二人の現状を良い方向に変えていきたいな。


 とりあえず、明日は妹のチルと会うし仲良くなれればいいな。

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