第2章

第32話 アトスの苦悩

 俺のせいだ……

 俺のせいだッ!

 俺のせいだッ!!

 

 シクは俺を守る為、自分自身が囮になって、小型を惹きつけて去った……。


 ──ックソ! 俺が弱いから。


 俺は遅いながらも、今出せる一番早いスピードでシクが去った後を追いかける。


 せっかくシクが俺の為に小型を惹きつけたのだから、シクの気持ちを汲み取るなら、ここは逆方向に逃げるべきである。


 しかし、頭で分かって居ても心が言う事を聞かない。

 

 こんなスピードでシクに追いつける筈もなく、大分走ったが結局、見つける事が出来なかった。


「はぁはぁ……、シク置いてかないでくれ……」


 頭の中では、早く逆方向に逃げろッ! シクの行動を無駄にする気か! と訴え掛けているが、やはり心は言う事を聞かない。


 ずっと走っていたが、とうとう体力の限界が来て足を止めてしまう。

 だが、心では走れ! 追いつけなくなるぞと騒いでいる様だ。


 それからも、必死に追いかけたが結局シクを見つける事が出来ずに夜になった。


 普段なら夜の移動は危険だが、今はそんな事を考えずにひたすら進む。


「はぁはぁ、シクどこだ……」


 ずっと走り続けて体力が尽き俺は気絶した……




「う……ん……」


 俺は目を開ける。


「気絶しちゃったのか」


 どれくらい寝ていたのか分からないが周りは明るい為、結構な時間気を失っていたらしい。


「流石に、もう追いつけないかな……」


 追いつけ無い事を理解しつつも、もしかしたら少し先にシクが居るかもしれないという思いから、先を歩き始める。


 そこから、何時間か歩いていると、先の草木から音が聞こえた。


 「──ッ!?」


 モンスターかッ?!


 俺は最大限の警戒をして、ゆっくり後ろに下がり、物音から距離を取る。


 音を立てながら、徐々にこちらに近づいて来る……

 モンスターだと思い警戒をしていたが、話し声みたいなのが聞こえて来た為、どうやらモンスターとは違うらしい。


「ベム、見つけたか?」

「まだ……。だけど私達の恩人の為に絶対見つけるべき……」

「その通りだ!」


 ふぅ……どうやら人間らしい。


 俺自身この世界に来てからシク以外の人間と話した事がない為、若干の緊張と警戒をする。

 

 だが、今の状況を少しでも好転する為にも多少危険そうではあるが、話してみるのも、いいかもしれない。


 人間と会うことによるメリットを考えていたら、前の茂みから二人の人間が現れた。

 一人は大柄の男で背中に自分の身丈程大きい剣を背負っている。

 二人目は小柄の少女である。下手したら俺より小さいかも?


 そんな二人は俺の事を見た瞬間驚いた顔をして、その後に笑顔になっていた。


 ……なんで笑顔?


「おいおい! ベム! あの少年はアトスか?!」

「うん。あの少年は私達の恩人の子供、アトス……」


 な、なんで、俺の名前を知っているんだ?!


「あの、どちら様でしょうか?」

「まぁ、なんて賢いお子さん……。デグとは大違い……」

「うるせ! だが、確かに利発で利巧 で利口そうな少年だ」


 なんなんだ? 初対面だから敬語を使っただけなのに……

 でも、十歳の少年が使う様な言葉遣いでもないか。


「いきなり悪かったな。君はアトス君か?」

「こんなに利発そうな少年はあのお方の子供で間違い無い……」

「ハイ、僕はアトスと言いますが、貴方方は?」

「俺たちは冒険者だ。俺はデグ、こっちの小さいのがベムだ。よろしくな!」

「小さいは余計……。私はベム、よろしく……」


 冒険者? なんで俺の名前を知っているんだ?


「実はアトスを探していた」

「探していた? 僕をですか?」

「そうだ。俺たちは昨日小型に追われていた所を獣人の女性に助けられた。それについて話したい事がある」

「獣人の女性!?」


 シクの事だ!!!!

 ここに来て、シクの情報が手に入りそうだ。 

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