第30話 シクの決意……

 「──ッアトス、逃げるぞ!」

 「あ、あぁ!」


 目が覚めたら、小型が目の前にいた。

 クソ! 俺のせいだ……。俺が居眠りなんてしなかったら……。


 「──ッ何をボーッとしている!」

 

 シクは俺の襟首を引っ張って逃げ出す。

 だが、ここまで近づかれるとシクはともかく、俺は体力が尽きた時点で食われるだろ……。

 だが、俺は諦めずに逃げる。


 今までの訓練のお陰か、モンスター相手でも、先読みが出来そうだ!

 俺の先読みはモンスターが通るルートが光るのだ。なので光っている所とは別の方向に逃げる。


 「アトス、どうだ? 先読みは出来そうか?」

 「大丈夫だ! 問題無く出来ている。だけど、俺の体力が尽きたら追いつかれる!」

 「……」


 シクは苦虫を潰した様な顔をする、


 今回の小型は、なんだか早い様な気がするし、今までの小型よりも大きく見えるな……。


 そんな事を考えながら、俺はどうにかして逃げ切れないか考える。


 「アトス、私が小型の注意を惹きつけてみる」

 

 そういうと、シクは拳に炎を纏わせて小型の死角に回り込み攻撃を試みた。


 ドス!


 鈍い音が鳴ったが、小型は全く効いてない様だ。

 だが、シクが攻撃した後はシクに狙いを定め追ってくる様になった。


 クソ! またシクに迷惑を掛けている……。

 自分の不甲斐無さに怒りを覚えつつも、なんの力も無い為逃げるしか方法が無い。


 それから、しばらく逃げ続けているが、小型はずっと追い続けてきている。俺自身、そろそろ体力が限界だ……。


 「はぁはぁ」

 「アトス、平気か?」

 「はぁはぁ……、大丈夫だ……」

 「……」


 シクが思いつめた顔でこちらを見ている。

 俺が居なかったら、シクは小型を巻いて逃げ切れている。

 だが、俺がいる事によってシクは置いていけないのが現状だ……。

 

 俺は決心する。


 「シク! 俺が小型を惹きつけて逃げるから、シクは全力で別の方向に逃げてくれよ! シク一人なら逃げ切れるだろ!」


 今まで大切に育ててくれたシクだけは絶対守りたい!


 「まったく……。お前って子は。本当に立派に育ってくれて誇りに思うよ。」


 シクが笑った!?


 俺はシクが笑ったのを始めて見た。そして、こんな状況にも拘わらず凄い綺麗だと思ってしまった……。


 「アトス、お前は私の宝だ。あった時から。そしてこれからも」


 シクは慈愛に満ちた顔で俺の方に向きながら言う。


 「お前と過ごしたこの十年間は本当に幸せだった。出来る事ならずっと見ていきたかったが、どうやらここまでのようだな……」


 な、何を言っているんだ?


 「アトス、これからも訓練を続けろ。そして、誰よりも幸せに生きてくれよ……」


 シクは最後に笑ってから、いつもの様に鋭い表情になり、小型に向かって逆走した。

 そしてシクが拳に炎を纏わせて小型を殴る。シクの纏う炎は今まで見たどの炎より大きく熱かった。


 「小型風情が! 私の宝物を傷つけるんじゃない! こっちに来い!」


 そう言って、シクは俺とは別方向に向かって、小型を引き連れながら逃げた。


 「──ッシ、シク! 待ってくれ! 置いていかないでくれ!」

 「アトス。私の宝物。幸せになれ……」


 最後に言葉を残しシクと小型の姿が見えなくなった。

 俺は全力でシクを追いかけたが、体力の限界などもあり追いつけず、気づいたら足が止まっていた。


 クソ……。俺が弱いから! シクは自分を犠牲にして小型を引き連れて逃げた。


 いつのまにか、俺は泣いていた……。


 「ヒック……。クソ……。シク……弱くてゴメンな……」


 いつまで経っても涙が止まらない。

 自分の弱さ、不甲斐無さ、そして自分の親との別れ……。


 俺は諦め切れず、シクが逃げていった方向に向かい歩き出す。

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