第28話 シクの思い……

 今日、私の大事な宝物であるアトスが十歳になった。

 私はアトスと出会ってからは心の底から毎日が楽しいと思う様になっていた。


 私は10歳の頃にスキルの弱さ故にジャングルに捨てられた。今となっては、そんな最低な親など、どうでも良いと思っているが当時の私は哀しみ、憎んだ。


 こんな親など私の方からゴメンだッ! と心の中で唱えた日は数え切れない程ある。


 ただ、そんな私にも一つ心残りがあった。


 それは……妹の存在だ。


 私には一つ下の妹がおり、とても可愛がっていた事を覚えている。

 歳も近い為、周りからは双子の様に似ていると口を揃えて言われていた。


 そんな妹に会えなくなった事だけは唯一の心残りと言えるだろう……


 私はポケットから紅い玉を取り出す。この紅玉は私と妹を結ぶ物であり、セットで買った物だ。


 真っ赤な色合いの玉はとても綺麗で私達姉妹はいつだって持ち歩いていた。

 私と妹の繋がりは、もうこの紅玉しか無いが、妹は私なんて、もう忘れているだろうな……


 悲しい気持ちに一瞬だけなるが、私は首を横に振る。

 いかんいかん、今の私には可愛いアトスが居るでは無いか。


 アトスは本当に可愛い。知能が高いのか偶に自分より歳上と話している気さえするが、なんだかんだ抜けた所があり、やっぱり可愛いのである。


 アトスを育てて十年間の月日が経った。

 アトスにこの世界で生き抜いて欲しい為五歳くらいから訓練を始めた。

 厳しい訓練の筈だがアトスは文句を言いながらもついてきたし、自ら工夫をして私が思う以上に早い成長をしてくれたと思う。


 アトス自身人間族の為、体力やスピードには限界が有り、小型と遭遇した場合、少し早い小型だと追いつかれて食われる可能性があった。

 心配した私はアトスに先読みをしてモンスター達の追ってくるルートを的確に読み、そのルートとは逆方向に逃げる様訓練した。


 最初はダメ元で行った訓練だが、アトスには才能があった。

 私がアトスを追いかけた際、最初の内は直ぐにアトスに追いついたが、今ではアトスを捕まえる事が出来ない。アトスの体力が切れた時に追いつけるくらいだ。


 アトスに聞いた所、どうやら目視出来る相手だと、どこのルートを通るかが分かるらしい。

 アトス曰く、何か光の道が見えるらしく、相手はその光の道を遅れて通るとの事だ。


 もちろん、私はそんな事出来ないし、他に出来た人が居るとも聞いた事が無い。

 アトス自身の才能と努力によるものだろう。


 ここ最近モンスターの気配を多く察知する為、住処を移すことにした。

 ちょうど、アトスが十歳になる為、一度人間族の住処でスキル儀式をしてから新しい住処を探そうと思っている。


 願わくば、アトスには身体強化 部位:足を取得して欲しいと思っている。

 そうすれば、人間族のアトスでもモンスター相手に逃げ切れるし、アトスの先読みと組み合わせれば中型相手でさえ逃げ切れるはずと私は思っている。


 今回、人間族の住処を目指して行動している時に、アトスは私に迷惑を掛けたくないらしく、弱音を一切吐かない。

 私は慣れているから、直ぐ寝られるがアトスは睡眠がうまく取れていないらしい。

 だが、それをバレないようにするアトスが、とても可愛く私はアトスが見てない時はついつい表情が崩れて笑顔になってしまう。

 今日もアトスが私の料理を褒めてくれた為、可愛くてアトスの後ろに回り抱きしめてしまう。

 アトスは恥ずかしがっており、しばらくしたら耐えきれなくなったのか、私に先に眠るよう言ってきた。

 私はアトスが前に居て見えない事を良いことに笑いながら、先に眠ることを言い、眠りに就いた。


 アトス、私の宝物…。これからも私に面倒を見させておくれ。

 そして、この過酷な場所でも立派に生きてくれ……。


 今日も幸せな気分で寝られそうだ……。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る