第7話 それぞれの夢

アーサーはまだ訓練の余韻に浸っていた。


「リーーーオーーーンーーー!!」


「何だようるさいなあ」


「バルテス先生のあの動き見た!?彼女...魔法使いだと思えない身のこなしだったよ。コーザの全力で振り下ろした斧を片手で受けるなんて。あれは力だけで弾き返した訳じゃないんだきっと」


「ほう?」


リオンはアーサーの講評に多少興味を惹かれ耳を傾けた。今まで魔法の訓練に明け暮れていたリオンにとって、騎士を目指すアーサーの意見は貴重だった。


「僕はバルテス先生の斧を持つ手に一瞬だけ魔力を強く感じたんだ。アレはきっと相手に悟られない程の速度で斧と自分の腕に強化魔法をかけていたんだよ」


「なるほど、俺は先生の杖を持つ方の手に集中していて全く気づかなかった」


「アレもきっと相手を油断させて注意をそらせるために、わざと大きな動作で構えたんだと思う」


リオンは感心した。アーサーはただ先生の動きに見惚れていた訳ではなく、観察を怠っていなかった。


「お前凄いな。ただボーッと見惚れていただけかと思ってた」


「ひどいなあ。これでも夢は王国一の騎士なんだよ。他人の戦闘だって常に学べることは全部吸収したくて集中して見ているんだ」


「王国一の騎士?お前は皇帝の座を継がないといけないだろ?」


「そんなこと誰が決めたのさ。もし継ぐことになっても僕は常に戦闘の最前線にいるさ。それよりリオン聞いてよ!さっきの戦闘で気づいたんだけどーー」


アーサーの講演会はまだまだ長引きそうだった。


♢♢♢♢♢


次の日、リオンは図書室でとある本を探していた。


(昨日のアーサーの話が本当なら...)


リオンは『防衛術の基礎』と書かれた使い古された本を見つけると、目的のページを探した。


(防御の魔法は基礎中の基礎だ。それ故に一瞬でその力を体の一部に纏わせるには慣れと、何より実戦経験が必要だろう...あった)


リオンはお目当てのページを探し当て熟読した。もしアーサーの言う通りバルテスが片手にあの一瞬で防御魔法を纏ったなら、リオンが苦手としていた接近戦の克服をする重要なヒントだ。


(なるほど、一般的に魔法は詠唱を必要とするが技術が熟練すると無言での発動が可能となる。これは俺でも一部の魔法は出来るが、その効果を最小限にある1点に集中させるとなると少し練習が必要だな)


すると背後から突然アーサーの声がした。


「リオン、おはよ!今日は珍しく読書かい?」


「俺は人の前じゃあまり読まないけど、本はかなり好きだよ。それよりアーサー、昨日は為になる話をありがとう。お前のおかげで俺は戦いにおける相性にすごく興味が湧いたよ」


「バルテス先生みたいな事ができるようになれば、魔法を使える人たちはかなり戦闘においてアドバンテージを得られるよね。僕は逆に不安になっちゃった。魔法が使えなかったら戦いについていけるか不安だよ」


「騎士のお前が不得意な相手にも、きっとその差を埋める方法はある。俺と一緒に探してみよう。お前がこの国一の騎士で、俺がこの国一の魔法使いだ」


アーサーの顔が喜びに輝く。


「うん!」


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