第2話 皇太子

大広間は熱気に溢れており、在学生は新入生を今か今かと待ちわびていた。

扉が開き新入生が入場を始めると、在校生は皆一様に振り返り、目一杯の拍手と歓迎の言葉で迎え入れた。


「合格おめでとう!」

「ようこそ、ウルカルム士官学校へ!」


そんな歓迎の言葉が一斉に叫ばれ、大広間はまるでパレードのような祝福のムードに包まれた。


一方で在校生たちは、注意深く新入生を観察していた。喜びを噛み締め笑顔を振りまく者、目を伏せ気恥ずかしそうにする者、周りを見ずにひたすら真っ直ぐ列を歩く者...。そんな様子をみながら一部の在学生の間では新入生についての色々な噂が飛び交った。


「おい聞いたか、今年は女子の合格者が例年より少ないらしいぜ」

「皇族の人間が受験したって噂だけど入学できたのかな」

「学校が入校を拒否できるわけないだろ。どんな出来損ないでも入ってくるさ皇族なら」

「皇族の人間なんか入って来たら大変だな。下手なことしたら言いがかりつけられて退学させられそうだ」

「あいつ見ろよ、貧弱そうな体型で騎士のクラスの列にいるぞ」


ありとあらゆる情報が囁かれる中、リオンは緊張しながら周りを見回していた。


この大広間には部屋の装飾として様々な骨董品が置かれており、過去の戦争で実際に使われていた鎧、歴代の大司祭の杖、一流の作家が残した絵画...。そしてここで皇族が暮らしていた時に使用していたであろう机や椅子と言った日常の一部もまだ学校の備品として使われている。


(興味深いな。この骨董品の数々全ての記憶を探っていたら、到底卒業までに間に合わない膨大な量だ。)


「生徒のみなさん、静粛に。これより皇帝陛下よりお言葉を頂戴いたします」


新入生を引率していた教員がそう伝えるや否や、大広間は先ほどの賑やかさが嘘のように静まり返った。


大広間の突き当たり、士官学校の教員たちや帝国のお偉いさんたちが来賓として着席している席の中央で、この国を統べる男がゆっくりと立ち上がった。


彼こそがこの帝国7代目皇帝、ウィリアム・デロ・ウルカ陛下である。


「諸君、この歴史ある帝国一の士官学校へまずは入学おめでとうと言っておこう。諸君らは今日よりこの学校の生徒として、次世代の帝国を担う者になるという志を高く持って欲しい。我が国は今、より強大な国への成長の足掛かりとして隣国へ攻め入ろうとしている。しかし、長年続く戦争に兵も疲弊し早急な人員確保が必要とされており、諸君らが優秀な戦力となり戦場で活躍できる日が1日でも早くなるよう期待している。励みたまえ」


そう短くいい終えると、皇帝は大広間を後にした。リオンにとって彼は奴隷という身分から解放してくれた恩人でもあり、自分の父を失うきっかけである戦争を起こしている仇でもある複雑な存在だった。


「次に、新入生を代表し誓いの言葉を述べて頂きます。代表者は前へ」


新入生の列の最前にいた生徒が教員たちの机の前に立った。


(代表が小さすぎて見えないな...)

どうやら代表の生徒は体格が小さいのか、後方のレオンから姿は見えない。しかし、レオンにはこの声に聞き覚えがあった。つい先程まで耳にしていた確かな聞き覚えが…。


「私たち新入生は、生まれ育ったこの国に誓い、学問に励み立派な士官になる事を宣言します」


「おいアレって噂の皇族の...。」

生徒たちがざわつく。


「以上、新入生代表誓いの言葉、代表、アーサー・デロ・ウルカ」


レオンは思い出した。

この国の次期皇帝となる皇太子の名を。

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