第116話 親和図法でやな顔するな
王都での仕事を終えて、ステラの街に戻ってきた。
往復で2週間かかると考えると、毎月改善報告に行っているカイロン伯爵は大変だな。
みんなも監査で指摘を受けないように注意しよう!
そんなわけで、まずはエッセの工房に顔を出した。
「あら、お帰り」
俺を出迎えてくれたのはグレイスである。
俺がいなくてもリンスの生産販売はできるようなので、安心して22世紀に帰ることができそうだ。
未来の世界のネコ型ロボットじゃないけどさ。
「王都はどうだった?」
「ほとんど観光する時間がなくてね。銀五郎じゃなかった、コレオスっていう嫌な感じの鍛冶職人と、エッセの工房で修業したグランタっていうドワーフの工房を見て終わりだよ」
「結局仕事の延長みたいなもんじゃない」
「言われてみるとそうだな」
もはや職業病だな。
「エッセは?」
「奥にいるわよ」
そういうことで、工房の奥へと入りエッセにグランタの作ったグラスを渡した。
「昔ここで修業していたグランタの作品だ」
「へえ。前よりもよくなっているな」
「ところが、加工油の塗布量のばらつきが酷くてな」
「ああ、それは教えなかったからなー」
「なんでだよ」
「見て覚えるもんでしょ。それに独立したら商売敵なんだから、一から十までコツを教えるわけにはいきませんよ」
まったくもって正論だな。
大量生産の会社だったら、後輩にみっちりと教え込むのだが、個人事業主程度で十分なこの世界では、むしろコツを教えてしまうと自分の商売が危ない。
ここは大規模な会社を立ちあげて、大量生産を始めようかな。
会社名は「群馬東インド株式会社」とかにして。
そうだな、株式会社の概念を持ち込むのもいいかもしれない。
「アルト、そろそろ戻ってきて」
「あ、ごめんごめん」
ついつい上場して株式公開までの妄想をしてしまっていた。
エッセにお土産を渡したので、俺は冒険者ギルドへと出勤する。
2週間出張していたので、きっと仕事が溜まっているだろう。
「あ、アルト待ってたわよ」
そう言うのはスターレットだ。
「どうしたんだ?」
「カイエンとナイトロが方向性の違いで喧嘩して、カイエン隊が解散しそうなのよ」
「33歳になったんだっけ?」
「年齢のこと?それならまだまだよ」
「そうだよな」
坂本龍馬が亡くなった歳になったら解散とかいうわけじゃないのか。
てか、それなら相談なんかこないね。
まずは二人に話を聞いてみようじゃないか。
俺はスターレットと一緒にカイエン隊のホームに出向いた。
丁度いい具合に、カイエンとナイトロがいる。
「話は聞いた。方向性の違いで揉めているんだって」
「そうだ、ナイトロとは意見が合わない」
「俺だってカイエンとこれ以上やっていくのは無理だ」
「そうか、じゃあ解散して他のパーティに入ろうか」
俺のナイスアドバイスが炸裂する。
「ちょっと、まずは止めてよね」
「はい」
スターレットに怒られてしまった。
解散したいならすればいいじゃないと思うんだけどね。
この辺は転職を繰り返していた前世の記憶のせいかな。
あまり今のところに無理にいなくてもって思っちゃうんだよね。
すいません、メタ発言です。
「で、なにが合わないかを教えてほしい。お互いにどんな方向性を目指しているんだ?」
「俺は有名になりたいんだ。もっとランクを上げてこの街で一番有名な冒険者になりたい」
そうカイエンがこたえる。
「俺はもっと金を稼ぎたい。有名になっても贅沢できないんじゃ意味ないからな。だからカイエンみたいに難しいクエストに挑戦するよりも、簡単なクエストを何度もクリアーしていきたいんだ」
ナイトロはそういう。
「わかった。まずはお互いに自分の望むものをとにかくこの紙に書いてくれ」
俺は付箋ほどの小さな紙を数枚ずつ二人に手渡した。
「どうやって書けばいい?」
「そうだな。金が欲しければ『金が欲しい』と書く。名誉が欲しければ『名誉が欲しい』だな」
「わかったよ」
そうして10分くらい時間を与えて、お互いに自分の望むものを書かせる。
それを回収して、テーブルの上に並べた。
「カイエンは『名声』、『女』、『金等級』、『高難易度』か。ナイトロは『金』、『安全』、『効率』ねぇ」
俺はそれを眺めて少し考える。
今回使用するのは親和図法という新QC7つ道具だ。
これはメンバーに思いついたことをとにかく書き出してもらい、親和性のある物をまとめて解決の糸口を見つける手法だ。
今回はカイエンとナイトロの言っていることの親和性を理解させるために使う。
「名声、女、金、金等級は『成功』というくくりかな。クエストをクリアーすることで手に入れることができる。高難易度と安全は『難易度』だろうな。効率は『効率』でいいか。こうしてみるとカイエンとナイトロで話が合わないのは難易度だけだな。成功することで得られるものを目指すという意味では一緒だ。効率的なのは簡単なクエストをこなすことで、等級の昇進がしやすくなるっていうことだろうな。つまり、簡単なクエストを何度も繰り返すことで、だんだんと等級が上がっていき、いずれは金等級になって金も入ってくるし名声も上がるってことだ。高難易度のクエストはそれからだっていいんじゃないか?」
「言われてみればそうかな」
「こうしてみると、カイエンと考えていることがそんなに違っている訳じゃないな」
「だろ」
ちょろい。
本当はこんな適当なグループわけしないのだが、今回は説得できればいいのでこれでよい。
この世界にQCサークルが伝わっていたらやばかったな。
「ナイトロ、すまなかった。俺が焦りすぎていたみたいだ」
「いや、俺も熱くなりすぎた」
こうしてカイエンとナイトロは和解して、カイエン隊の解散危機は去った。
「どじょうの泥くささをゴボウが打ち消している。どじょうあってのゴボウ。ゴボウあってのどじょう」
「何それ?」
スターレットは山坂すべっ太・ころん太を知らないのか。
まったくもって残念だな。
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