第50話 員数不足が出るから話しかけ禁止

これを書いている現在、員数不足の不良が発生したため、リアルに対策を考えております。

小説程簡単にはいきませんね。

それでは本編いってみましょう。




 ここはどこかの会議室?

 何故俺はこんなところに居るんだろうか。

 ホワイトボードに書いてある文字は


「新規立ち上げ準備会議?」


 査問会議の様な雰囲気で、俺とシルビアが並んでおり、その相向かいに役員や部長クラスがずらりと並んでいる。

 その中の一人が俺に訊く。


「アルト君、君はどう思う?」

「立ち上げから遠退くと楽観主義が現実に取って代る。そして最高意思決定の場では、現実なるものはしばしば存在しない。立ち上げに失敗している時は特にそうだ」


 そう答えた。


「何の話だ。少なくともまだ新立ちなど始まってはおらん」

「始まってますよとっくに。気付くのが遅過ぎた。ノミネーションレターがこの会社に送られてくる前、いやその遥か以前から立ち上げは始まっていたんだ。突然ですがあなた方には愛想が尽き果てました。自分もシルビアと行動を共に致します」

「アルト君。君はもう少し利口な男だと思っていたがな」

「二人とも連れて行け」


 俺はシルビアと共に部屋から出されそうになる。


「……たった今、作業者の誤操作により、新しく購入した1000トンプレスが!」

「……!!!」


 ざわつく会議室。


「だから!遅過ぎたと言ってるんだ!」


 と、俺が叫んだところで目が覚めた。


「相談に乗ってもらえますか」


 そう、相談者に言われて目が覚めたのである。

 相談窓口に来たのは、久々のスターレットだ。

 既に初心者ではないのに、どうしたというのだろうか。


「討伐の証拠の数が足りなくて、クエスト失敗してしまいました」

「なんで?」

「迷宮のゴブリン討伐だったのですが、30体討伐するはずが、持ち帰った耳が28体分しか無かったんですよ」

「途中で落としたのか」

「いいえ、数え間違いです」


 30ともなると数え間違いもあるのだろうか。

 となると、10個の枠がある治具を作る対策かな。

 因みに、この世界も基本は10進法だ。

 2進法や16進法が標準の世界じゃなくて良かった。


「数え間違いの原因はわかっている?」


 念の為間違えた理由をわかっているのか確認してみた。


「数を数えている時に、時間を聞かれたので間違ったのだと思います。13個まで数えた時に時間を聞かれて15時と答えて、次に16からカウントアップしていったのだと思います」

「時そばか!」

「時そば?」


 俺は思わず叫んだが、スターレットは時そばを知らなかった。

 まあ、この世界に落語はないので仕方がない。

 時そばっていうのは落語の演目で、代金を払う時に時間を訪ねて、貨幣の支払い枚数をごまかす噺だ。

 それをリアルに再現する人が居るとは驚きだな。

 スターレットの話では、討伐したゴブリンから切り取った耳を確認している時に、仲間から時間を聞かれたのだという。

 賢者の学院で発売されている腕時計というマジックアイテムは、魔力を注ぎ込むことによって正確な時間を知ることができる。

 パーティーではスターレットしか持っておらず、途中で時計を見て時間を答えてから、再び耳の数を数えて間違えたというのだ。

 ゴブリンの耳を数えながら、袋に詰めていったので、袋の中の数は見た目ではわからない。


「数え間違いが発生した理由は、途中で時間を聞かれた事。そして、それを見逃してしまったのは、並べ検査をしなかったことだな」

「並べ検査?」


 本来の並べ検査は、並べて誤組、欠品、逆付けが無いかを確認する検査なのだが、あわせて員数確認をすることにも使っている。

 SNPと照らし合わせて区切りの良い数字になるように、枠取りをした並べ検査台を作成してそこに製品を並べれば、カウントミスを防げるというわけである。

 ゴブリンの耳とオークの耳を間違う可能性もあるし、並べ検査は必要だろう。


「今回のことを例にするなら、10個並べたら袋に入れるんだよ。それを3回繰り返せば30個だろう。一つずつ袋に入れるよりも、数え間違いが起こりにくいんだ」


 そういうことで、今回の対策は数えている最中は話しかけない、話しかけられても作業を止めない。

 そして、10個の枠がついた治具を作ること。

 この治具は10個バージョンと5個バージョンを作って、冒険者ギルドで販売しよう。

 9個とか8個の倍数を数えたいなら、その分枠を塞げるような蓋も付属でつければいい。


「流石アルトね」

「まあ、こういうのはありがちなミスだからね」


 スターレットには、治具が完成したら連絡をすると約束をした。

 早速この治具をギルド長に相談して商品化だ。


「成程、そういうものがあるといいね。早速手配しよう」


 ギルド長はあっさりと承認してくれた。


「これなら数え間違いしなさそうです」


 スターレットに使い方を説明した。

 彼女はこれで同じ間違いはしないと喜んでくれている。


「ま、これだけでは員数間違いは止まらなくて、もっとごっつい設備を作ることになるんだけどね」

「何?」

「いや、ちょっと昔を思い出していてね」


 俺は前世での流出不良を思い出して苦笑いした。

 員数不足を再発させた時は、並べ検査台にセンサーを設置して、在席確認をさせた上に、重量計まで使ったポカヨケをつくる羽目になりました。

 あまりの豪華さに対策を確認しに来たお客様も、思わず苦笑いしておりましたが、そこまでやらないと不良は止まらなかったんだよね。

 ほろ苦い思い出です。



※作者の独り言

員数不足の原因はやっぱり、ルール無視でしたか。

カウンターとのズレは無かったけど、完成品をばらして端数出荷をしようとして、箱から抜く製品の数を間違えたとか。

異常作業を勝手に作業者がやっているんですよね。

困ったもんです。

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