第17話 知りたくなかった事実(ジークフリート視点)前編

空間から外に出て息をひとつ吐き出す。


あの空間は綺麗だとは思うが落ち着かない。それと、ずっと集中してスキルを制御しないといけないので疲れる。


落ち着いたところで辺りを見渡すと、ジト目が2名(公爵、魔法馬鹿魔法師団長)と生暖かい目が2名(父上、シアの侍女マリア)、それに疲れた顔した大臣が1名、不安そうな心配そうな視線が他多数(宮廷魔法医師団長、護衛達、アリシアナの兄リオン)といった内訳の色んな視線がこちらを見ていた。

僕があちら側に行っている間に父上に呼ばれた医者と知らせを聞いたのか元々来る予定だったのか分からないがシアの兄が増えていた。


「公爵、また時間があまりないので詳しいことはまだ言えないがひとつ聞きたい。シアの母もしくはその先祖に何か特別なスキルの継承者はいなかったか。」


「遺伝継承系のスキルですか?いえ、特に聞いておりませんが…。」


「そうか…。」


シアの父である公爵に聞けば何かわかるかと思っていたジークフリートは頭を抱えた。


「…恐れながら、その件でしたら私に心当たりがございます。それで…その…。」


八方塞がりかと思っていた所でリオンシアの兄が人払いを求めてきた。【原始創造スキル】は本来その一族の血縁者にしか伝えられないものでスキルによって差はあれど基本黙秘されるべきものである。せっかく来てもらったばかりで申し訳ないがリオンの希望通りに父上、公爵、マリアを残して他には退室してもらい医者は近くの部屋で待機してもらう事にした。


人払いが済むとジークフリートはすぐにリオンに心当たりについて聞いた。


「はい、生前母からお願いと言付けを預かっております。当時はよく意味が分かりませんでしたがようやく意味がわかりました。


伝えます、

『アリシアナの事はヴィクトール様とマリアに頼んだけど何かあったらあなたも助けてあげてね。あなたは男の子だから私のスキルを受け継げないけど魔力はアリシアナとよく似てるからいざと言う時はお願いね。手を握ってあげてね…アリシアナ達だけじゃ足りないみたいなの。本当は私が生きて教えられたらいいんだけどそれは出来ないから…。あぁ、それとその時助けてくれる子にひとつ伝えて欲しいの。アリシアナはちゃんとコントロール出来るようになるからそれまで助けてあげてね。あぁ、もうひとつヴィクトール様にも必要ね。あの人基本しっかりしているけどどこか抜けてるから。渡し忘れているお手紙をアリシアナの目が覚めたらちゃんと渡してあげてねじゃないとこの国滅ぶわよ。これでいいわね。……リオン大丈夫?紙に書いておく?』


ここまでが母の言付けです。最後の母上からの私への助言まで含めてその通りに伝えて欲しいと言われておりました。」


「なるほど、シアが未来を夢でみたと言っていたが母君も同じ力を持っておられたのですね。さて、渡し忘れているお手紙とやらの話を大至急聞きたいですね。」


僕が公爵にそう聞くと他の人も皆同じ気持ちだった様で、この国が滅ぶと聞いた皆の疑惑の目が公爵に集中する。


「い、いえ、忘れていた訳では無いのです。確かに『洗礼の儀が終わったら渡して欲しい』と頼まれていた手紙はあります。あの日の夜夕食の後に渡そうと準備していたのですがその前にアリシアナがあんなことになってしまったので落ち着いてからと思い保管しておりました。」


そういえば、アリシアナが最初に寝込むきっかけになった事件はアリシアナの洗礼の儀の直後だったなとジークフリートはこっそり思った。


「その手紙は?」


「こんな事になるとは思っておりませんでしたので流行病の件について話終わったあとに渡そうと手紙と一緒に渡すように頼まれていた形見と一緒に今持っております。」


公爵が持っている手紙と形見を視てみる。


「そうか…………手紙の方はシアにしか開けられないようだからその形見だけ少しこっちに貸して貰えないだろうか。それとリオンといったかシアの母君の言付けによると協力していただかないといけない事態になりそうなのだが…。」


公爵は形見のペンダントを僕に渡そうと近づく。


「公爵、おそらく貴方ではここまで来れないからリオン経由で持ってきて欲しい。ペンダントにそういう魔法がこめられているようだ。」


ジークフリートがそう言うとヴィクトールはリオンにペンダントを渡した。


「リオン、シーナが言っていたのなら悪いようにはならないとは思うがアリシアナを助けてやってくれ。というかそもそもシーナもそんな大事な手紙ならもっとちゃんと説明してから渡してくれれば私だってすぐに渡したのに…スキルの継承者なんて聞いてない…。」


後半はもはやただの愚痴だった。そんな公爵にリオンからトドメの一撃…と言うより、もはや死体蹴りとも言える一言が投下される。


「父上、母上からもう一言追加です。『そんなとこで泣きそうになってないでペンダント渡したら陛下の隣に座ってじっとしててください。』以上です。」


「………ここで言えと…言われておったのか?」


「はい。ペンダントは父上から私経由でアリシアナに渡すことになるからその時に父上に伝えて欲しいと言われておりました。」


「……………。」


公爵はそれを聞いて、リオン殿にペンダントを渡すと父上の隣の椅子に座ってすっかりしょぼくれてしまった。そんな公爵に父上が「ヴィクトールよ、シーナの事だ。全部わかった上でそなたをからかっておるのだ。諦めろ。」と言って慰めている。シアの母君は楽しい…で済ませていいかはわからないが素敵なお方だったようだ。


会ってみたかったなと少し残念に思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る