第15話 同じスキル(ジークフリート視点)前編

流行病の件について詳しく聞こうと集まった周囲にその場を凍りつかせる「それってなんのことでしょう?」という爆弾を投下したシア。心配になって慌てて魔力を流すとどこにも異常は無かった。父である公爵の前で話をしたくなさそうなシアの為に…あくまでシアの為に、皆を追い出してから詳しく話を聞いた。忘れていたのは手紙を書いた前後の記憶だけだったらしく流行病の事は問題なさそうで安心した。いや、記憶無いとか全然良くないからそっちは全く安心出来ないんだけどね。


そしてこの冬来る流行病の件も片付く前に、次はべスティアで内乱が起こると、また爆弾をさらりと投下してきたシアに詳しく話を聞こうとしたが、突然、彼女の方から僕に流れてきて循環していた方の魔力に乱れを感じた。

慌ててシアを呼んだがそのまま眠るように倒れてしまった。


内乱については不明だが流行病については彼女から直接聞けたのでなんとかなりそうだ。真っ赤な彼女はとっても可愛いかったとだけ言っておく。白髪の初老の男―大臣であるあいつは信じてないようだったが、特効薬に関しては万能薬としてすぐに民たちに伝わるだろう。一般的な農民の家庭でも簡単に入手可能な上に色んな病に効く。平均寿命や健康人口も増えるかもしれない。元々公爵領の民からはものすごく人気のあるシアの名はこれで周辺諸国まで知れ渡る事になるだろう。早めに色々と手を打っておかないと面倒な事になりそうだとそこまで考えた所でシアと会ってから結果的にだが彼女に振り回され気味だと気がついた。


実は陛下を連れアリシアナの部屋を訪ねる直前にジークフリートの所に押しかけてきたアリシアナの父ヴィクトールから以前のアリシアナについてしつこいくらい聞かされていたのだが、その時は半信半疑だった。

なぜ半信半疑だったのかというと、昨日、流行病の件を教えてくれた手紙を持って来たマリアから聞いた話が原因だ。

ジークフリートは手紙を受け取るついでにその後のアリシアナの様子をマリアに聞いた。

マリア曰く、前の彼女は令嬢らしからぬ元気すぎる性格だったらしく『本や刺繍…いえ、文字の並びをご覧いただくだけで逃げ出し、完全無自覚で周りを振り回し、その過程であらゆる所から色んなものを引っ掛け、周囲を強制的に巻き込んでから大騒動を引き起こす。それはそれは元気な方だったのです。』と複雑そうな遠い目をして言った。そして今の彼女について聞くと『今のお嬢様は退屈してもベッドから抜け出さず暇つぶしで読書や刺繍を求め、静かに微笑む別人です。』とこれまた複雑そうな表情で教えてくれた。

そんな事があってジークフリートは今のアリシアナの事を深窓の令嬢の様なお淑やかな人物かと思っていたからだ。


話は戻ってシアが眠るように倒れた直後。

眠るように倒れていく彼女をスローモーションに感じながら公爵の話は大袈裟なことでは無いのかもしれないと思った。

そして慌てた父上がすぐに医者と魔法師団長に至急こちらに来るように伝えた。


その瞬間。


アリシアナが突然光出しその光がゆっくりと広がっていった。光が出た瞬間、大臣が咄嗟に父上を庇うように間に入る。


アリシアナから出た光の膜はジークフリートも包んで広がっていき、アリシアナとジークフリートの2人をすっぽりと包んだ後落ち着いて止まった。



そして今、僕は眠ったシアと手を繋いだまま、ベットの上、光の玉の中でふよふよ浮いている。


「………これは、1か月前の謎の光の玉…でもなんで今回は僕ごと?」


思わず呟いた僕の言葉を聞いて父上が言った。


「ではこれが以前報告にあった、魔法師団長の言っていたくだんの謎の光の玉か…。」


僕の呟きを聞いた父上が興味深そうに見ているのを見て、1か月前の事を知らない大臣がひとまず危険はなさそうだと警戒を解く。


「これはひと月前にお嬢様を見つけた時と同じ光の玉です、光が出る時の様子も殿下がいらっしゃる以外は前回と全く一緒です…。私が眠っているお嬢様に近づくとこんな感じでいきなり光が広がっていきました。」


マリアが公爵に青い顔で報告している所で、場にそぐわない呑気な声が響いた。伝達魔法で要件を聞き転移魔法でやって来た魔法馬鹿もとい、レイン魔法師団長の声だ。


「殿下、中はどんな感じですか?暑かったり寒かったりしますか?浮いていますが魔力消費量は?」


相変わらずの質問攻めに自分の時を思い出し呆れていると大臣がそれを咎めた。

これはもういつもの流れだ。僕の時もそうだった。


「レイン師団長殿、相変わらずこういう時、だ、け、は、早いですな。」


「殿下、そこから出る事は出来ますか?」


そんな大臣を無視するのもいつもの事だ。僕の時もそうだった。

この状態のレインに何を言っても無駄なのはもうわかっているのでため息をつきつつ出れるかを試してみる。

シアの左手と繋いでいる自分の右手は離さずに左手だけを伸ばして、手を光の膜の方に近づけてみる。

すると僕が手を伸ばした分だけ光の玉が大きくなった。


「あー、レイン無理そうだ。質問には答えた。もういいな、僕今ちょっと忙しいから。」


僕が『めんどくさいから話しかけるな』と言うのをあからさまに隠さずにそう答えるとレインはすっかりいじけて部屋の隅で黙ってしまった。そしてレイン以外からは呆れられた。


「ジーク、気持ちはよくわかるがさすがにそれではレインが可哀想ではないか?」


「そんな事より殿下はいつまで娘の手を握っているおつもりですかな?殿下であれば手を離せばそこから出られるのではないですか?」


父上がさすがに見かねたのかレインに助け舟を出す。公爵も……いや、公爵の方は単純に『娘と離れろこのクソガキ』と言いたいだけだな。笑顔の頬が引きつり、こめかみがピクピクしている。


「父上、公爵、それとものすごく不本意だけどついでにレイン。結論から言うとそれは出来ません。確かに公爵の言う通りシアの手を両方離せば僕はここから出れる…と言うより追い出されるでしょう。中にいると以前よりので色々と解りました。だからこそ、それは実行出来ません。父上、公爵、今少しまずい状況ですので少し時間をください。詳しくは後でお話し致しますので。」


僕はスキルで光を探りつつ、早口でそれだけ伝えると光の奥のさらに奥に居るシアの方に集中した。


なんとか中に入り込んですぐ。


僕はその光景に圧倒された。


(シアから聞いていた謎空間とはここの事か…。シア曰く宇宙空間もどきだったか。)


神話に出てくる惑星と宇宙。それらはこの世界で絵や文章でしか記録が残っていない。誰も元を見たことが無かったのでアリシアナからの事前情報がなければジークフリートはこの空間が宇宙空間とは気づけなかっただろう。空間に入ってすぐ、ジークフリートはおろおろしているアリシアナを見つけた。

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