第6話 初めての感覚(ジークフリート視点)
これまでの経緯を話す前に、僕はアリシアナ嬢にどこまで覚えているかを聞いた。
だが結論から言うと彼女はほとんど何も覚えていなかった。
話を聞いていると、記憶があるのは不思議な空間での出来事だけだと言う。
その割に、ボクの名前はわかったのはなぜかと聞くと『夢に出てきたので…。』と言われどんな夢だったのかすごく気になったが、言っていて恥ずかしくなってきたのか照れている彼女を見ているとそれ以上は突っ込んで聞けなかった。
(…さっき泣きそうになられたから、てっきり嫌われたと思ってたのに……嫌われてるわけじゃあない?)
少しほっとした僕は、夢に関して、アリシアナ嬢が入っていたあの光の球と関係があると思うかをアリシアナ嬢自身にダメ元で聞くと、彼女は何かに少し驚いた後にこう言った。
「たぶん、その光?に居た時、殿下の夢も見ていたんじゃないかと思います。でも、正直あまり覚えてないです。」
思い出そうと頑張っていたアリシアナ嬢の顔が険しくなってきたところで、これ以上聞いても無駄だと思った僕は自分がわかる範囲で彼女の倒れるまでと倒れてからの経緯を話した。
ちなみにだが、もちろんその間も魔力循環は続けている。
目覚めた後も彼女が嫌がらないのでこれ幸いと続けている。
僕は魔力を流しながらこれまでの経緯を話す。
公爵から娘が目覚めなくなったと聞き、僕と魔法師団長が家に呼ばれた事。
謎の光の球の中にいる君に僕しか近づけなかった事。
アリシアナ嬢の魔法属性が珍しいタイプで、僕しか魔力欠乏症の治療が出来なかった事。
そして、その為に城まで連れてきたのでここがお城の僕の部屋の近くである事。
この部屋を使う関係で変に余計な噂が立たないようにアリシアナ嬢と僕が一時的にという公爵との約束で婚約した事などを話した。
大体の経緯を話終わり、最後に『―と言うわけでそれから1ヶ月、君はここにお妃教育を受けていることになっているから公式な場では話を合わせてね。』と言って話を締める。
すると、アリシアナはすごく焦り出す。
「えっ、い、1ヶ月!?……まさか、その間ずっと殿下に…その…ご、ご迷惑を…。」
青い顔をして聞いてくる様子はとても可愛らしくて『こういう反応は新鮮だな』と思い、ついつい彼女に送る魔力の流れが揺らぐ。
彼女もそれを感じ取ったようでちょっとたじろぐ。
「っと、ごめんね…君が可愛らしくてつい。」
ジークフリートが謝るとアリシアナの頬がほんのりと桃色に染まる。
「か、可愛っ…それは両親とお世話をしてくれている方のお陰ですので私の力ではありませんので…って私ったら何を言っているのかしら…。」
見た目じゃなくて…いや、もちろん見た目も可愛いけど、表情がコロコロ変わるところとか素直な所とかが可愛くて褒めたんだけど外見だと勘違いされたみたいだ。
頬を染めて慌てている様子もとっても可愛い。
記憶が亡くなる前の彼女もこんな感じだったのだろうか…公爵が溺愛するのもわかる気がすると思った。
「本当は君が目を覚まして、落ち着いたら婚約は当たり障りない理由をつけて君の方から破棄しましたってする予定だったんだけど……しばらくお城から君は出られないし、僕もなんだか手放したくなくなってきたし…今度正式に口説きに来るね。」
(と言いつつ破棄なんて初めからする気さらさらなかったけど)
この国では婚約する時に自分の色のアクセサリーを男性から女性に送る習慣がある。
今回は急だったこともあり、婚約はもう発表しているので、順番は前後するが、次に正式な場に出る前に彼女に送って結婚を申し込むのが礼儀だ。
「……………………………はい?……すみません…もう一度仰って頂けますか?」
僕のプロポーズに近い言葉に対して彼女は微かに口元を引き攣らせて聞き返してきた。
そういう反応は新鮮だなぁ…。
彼女は表情を隠してるつもりなんだろうけど……育った環境のせいか、そういうの僕はすぐ分かってしまう。
アリシアナ嬢が下手な訳では無い。
むしろ上手な方だと思う。
僕は彼女を見て、密かに長期戦を覚悟した。
「いいよ、何度でも言ってあげる。僕、君に一目惚れしたから、今度正式に口説きに来るね。それと、僕のことはジークって読んで、僕も君のこと何か愛称で呼んでもいい?」
僕は断る隙を与えないように続けて愛称呼びの許可を求める。
我ながら必死すぎてなんだか笑えてくる。
一方で呼び方を聞かれたアリシアナは、ゲームの時のアリシアナが"シア"と1度だけ呼ばれていたことを思い出した。
「………………では、"シア"とお呼びください。家族からもそう呼ばれていたようですので。」
「ん?呼ばれていた?」
やけに他人行儀な言い方に引っかかってついつい聞き返す。
「あっ…。」
………なぜバツの悪そうな顔をして顔をそらす。
そういうことをされると、とっても突っ込みたくなるんだけど。
けど、残念…そろそろ時間だ。
「…とっても気になるけど、そろそろ僕行かないと行けないから行くね。体調は…うん、大丈夫だね…シア、今度詳しく聞かせてね?」
僕はついつい楽しくなって笑顔になるのだった。
「は、はい…。」
誰かと離れたくないと思うのは初めてで僕は少し名残惜しく思いながら部屋を出た。
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