第796話 新作の進捗

 ☆亜美視点☆


 パァンッ!


「ナイスー」


 今日も練習練習。 皆かなり良い動きになってきた。

 特に麻美ちゃん。 夕方の練習時だけ参加しているけど、それ以外の日も独自に特訓をしているみたいだ。


「うぇーい!」

「ナイスブロックー!」

「ええやん藍沢妹!」

「なはは!」


 弥生ちゃんは麻美ちゃんにかなり期待しているみたい。 それに釣られて渚ちゃんの動きも良くなってきたし良い傾向だ。



 ◆◇◆◇◆◇



 練習の後、今日は午前中に夕ちゃんの家のお掃除を済ませたので時間もあるということで、音羽奏としてのお仕事をする事に。


「小説の新作書くよー」


 パソコンを立ち上げて作業開始。 最近はパソコンの扱いにも慣れてきて、作業スピードも上がってきた。


 カタカタ……


 そして、こうやって集中して作業していると、来客にも気づかないものである。


「なは」


 ……?


「なはは」

「うわわ?! 麻美ちゃん?!」


 このように。 


 どうやら麻美ちゃんが部屋にやって来ていたみたいだけど、全然気付かなかったよ。


「アシスタント麻美参上!」

「あ、あはは」


 麻美ちゃんは今のところ作品の執筆も無く連載分も仕上がっているので、たまに私のアシスタント的な事をしに来てくれている。 と、言ってもお茶や食べ物を用意してくれるとかそんな感じだけど。

 今もジュースとドーナツを持って来てくれたみたいである。


「でも、今日作業するなんて教えてなかったのに良くわかったね?」

「何となくそんな気がしたー」


 出た。 麻美ちゃんの謎の嗅覚。 バレーボール以外でも発揮されるらしい。 せっかくアシスタントが持って来てくれたし、ここは少し休憩する事にしよう。

 パソコンデスクからテーブルへ移動して、2人してドーナツを頬張る。


「んぐんぐ。 進捗はどうー?」

「うん。 順調に進んでるよ。 物語的には中盤に差し掛かる所だね。 ここから本格的に試合描写が増えてくるとこだよ」

「おー! 腕の見せ所だねー」


 そうなのだ。 文字だけで野球の臨場感を伝えなければいけない為、これが中々難しそうなのである。 かと言って、長々とした地の文を並べても読者は嫌になる。 このバランスが難しいと思われる。

 程よい文章量で、最大限女子野球という物を表現しなければならないのだ。


「亜美姉。 いや、音羽奏ならできるよー!」

「あはは、頑張るよ」


 麻美ちゃんから元気をもらい、再度パソコンの前に座る。


 カタカタ……


 ちなみに私が執筆している間、麻美ちゃんはマロンの相手をしてくれているよ。 部屋で放し飼い状態にしてあるんだけど、意外と私のお仕事の邪魔とかはしない賢い猫である。


 カタカタ……


「うーん」

「ほへ? 亜美姉どしたのー?」

「ん? ちょっと言葉選びに迷ってね」

「あーわかるー。 言い回しとかをどうしたらいいかってよく迷うー」


 この辺は作家同士でしかわからない感覚なのかもしれない。 希望ちゃんが部屋にいる時に同じ話をしても「はぅ? よくわかんないけどそれでよくない?」と適当に返事されてしまったことがある。 悲しいよ私は。


「ほむほむ。 この感じだとこの方が良いんじゃないー?」

「ふむふむ。 うむ、たしかに収まりがいいね」


 麻美ちゃんの案を採用。 さっすが麻美ちゃんである。 アシスタントとしてとても優秀である。

 よーしペース上げるよぉ。


 カタカタ……


「そういえば麻美ちゃんは次の作品どうするか考えてるの?」

「うーん、今のところはまだー。 次はどうしようかなー?」


 麻美ちゃんの前作は麻美ちゃんには珍しい悲恋モノ。 ただ連載版の方は非常に好評で、文庫版の出版はまだかまだかと待っているファンは多いようだ。 麻美ちゃんの作家としての任期は非常に高いのである。


「でもそうだなー。 私も何かスポーツものかいてみよーかなー? それこそバレーボールとかー?」

「おお、いいねぇそれ」


 私達に最も近しいスポーツ、バレーボールを題材とした作品。 私は敢えてそれを避けたけど、全然ありだと思う。


「まだ決めるわけじゃないけど、候補に入れるー」

「うんうん」


 カタカタ……


「亜美姉、話しながらタイピング凄いー」

「あはは。 いつの間にか出来るようになったねぇ」


 最初は指1本で打っていたのに、今じゃブラインドタッチも余裕だし。 人間慣れれば何でも出来るものである。


 そのまましばらく、麻美ちゃんと雑談しながら執筆を進めて行くのでした。



 ◆◇◆◇◆◇



「ん! 今日はここまで!」

「お疲れ様ー! なはは」


 キリの良いとこまで進んだので、無理せず今日はここで切る。 こういうのも大事大事。


「麻美ちゃん、お風呂入るけど一緒に入る?」

「おー、入るー」


 時間は深夜0時を回ったところ。 麻美ちゃん、明日は学校だろうにこんな時間までアシスタントしてくれて感謝である。


 2人で浴室へ向かうと、浴室からは紗希ちゃんと奈々ちゃんの話し声が聞こえて来た。 どうやら入浴中のようだ。

 麻美ちゃんは更に嬉しそうな笑顔になり、浴室へと乱入していく。


「お姉ちゃん発見ー」

「あら、麻美。 あんた明日学校じゃないの?」

「ぬあっはっはっは。 大丈夫ー」

「何が大丈夫なのよ……あんた私が起こさなきゃ寝坊するくせに」

「だから大丈夫なんだよー」

「人を頼りにすな……」


 ふむ。 どうやら麻美ちゃんは奈々ちゃんに起こしてもらう事が多いみたいだね。 やっぱり早めに寝かせてあげた方が良かったかもしれない。


「こんな時間まで何してたのよ?」

「亜美姉のアシスタントー」

「アシスタント? あー、小説? 亜美ちゃん新しいの書いてんの?」


 と、紗希ちゃん。 私は頷き答える。


「楽しみね。 出たら必ず買うわ」

「あはは、ありがとう」

「お姉ちゃんは何してたのー?」

「私は紗希の仕事を見学よ」

「おー。 デザインー?」

「ええ。 今度開かれるゆるキャラコンテストのゆるキャラデザインを一般公募で決めるみたいだから、そのデザインをね」


 ゆるキャラかぁ。 紗希ちゃんのデザインしたキャラが人気になったりしたら嬉しいねぇ。

 どんなデザインにしたのか今度見せてもらお。


「亜美も紗希も、ついでに麻美も。 もう自分の仕事見つけて始めてるなんて凄いわよね。 私なんて大学でダラダラ過ごすだけの日々よ?」

「バイトしてるじゃん?」

「あんなのは小遣い稼ぎみたいなもんよ。 あんた達のとは違う」

「バレーボールで食べてくんだよね?」

「まあそのつもりだけど」

「だったらお姉ちゃんだって自分のやる事やってるよー? ずっとバレーボールしてるー」

「んー? そんなんで良いのかしらね?」

「良いんじゃないの? あんたがやりたいなら」

「そうだよ」

「私がやりたいならねー……」

「?」


 奈々ちゃんは天井を見上げて何かを考えるような表情を見せた。 何かに悩んでいるような、そんな表情だ。

 プロの選手を目指す事に何か迷いがあるんだろうか?

 気にはなるけど、私が訊いて良いものか少し迷っている。

 それは麻美ちゃんや紗希ちゃんも同じらしく。 首を傾げながら奈々ちゃんを見つめるのだった。

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