第730話 夕也の相談

 ☆夕也視点☆


 さて、皆で夕食のカニ玉をいただきながら各々で雑談を楽しんでいる。 何せ、紗希ちゃんが京都へ行って以来久しぶりに全員が集合しているのだ。 話も弾むというものだ。


「麻美と渚はそろそろインターハイっしょー? どうなの? 県大会とかで躓いてない?」


 そう言えばもうすぐそんな時期か。 麻美ちゃんと渚ちゃんはまだ高校生せあり、3年生だ。

 つまりこの夏が高校最後の大会となる。


「バッチリ! 本戦出場決めてるよー。 マリアが凄いんだよー」


 マリアというのは今年2年生になった子だっけな? 亜美にやたらとライバル心燃やしてるって噂の。

 亜美をして天才プレーヤーと言わしめるほどの子らしい。


「あの子は元から凄いでしょ?」

「そうなんだけどねぇ。 次期キャプテンにももう決まってて、後輩達にもしっかり指導してるし。 県大会とかでの活躍も凄くて、千葉県大会最大得点記録出したんだよー」

「おお! 凄いねぇ! あれ?」

「渚、あんたエースよね?」

「うっ……いや、あの子ここんとこ急成長しとって、正直私なんかよりよっぽど上手いんですわ」

「いやまあ、あの子は天才的だけど」

「きゃはは、3年の意地見せなさいよー?」

「が、頑張ります」


 渚ちゃんはどうやらバレー部のエースという事の様だ。 しかしマリアって子の方が凄いみたいだぞ。

 あまり言うと渚ちゃんを傷付けそうだから俺は何も言わないようにしよう。 特に、渚ちゃんから好意を寄せられている俺が失言しようものなら深く傷つけかねない。 俺、なんて気づかいのできる男なんだ。


「渚ちゃんならインハイで大活躍するさ! な?」

「もちろんです!」


 よし、ナイスコミュニケーション。


「応援してるわよ。 私達の築いた無敗記録、絶やすんじゃないわよ?」

「プレッシャーかけんといてくださいよ……先輩達の化け物大集合世代やないんですから」

「人間だよ!」


 と、亜美が即座に反応する。 相変わらずにその言葉には敏感なようだ。


「わはははー。 我ら月ノ木に死角は無ーい」


 こっちの麻美ちゃんはプレッシャーを感じている様子はないようだ。 この子は本当に凄い子だ。 

 亜美曰くだが、麻美ちゃんも異質なタイプの天才だという。 たしかになんでも出来る器用さもあるし納得だ。


「むわっはははー」


 ちょっと自信過剰な気もするが……。



 ◆◇◆◇◆◇



 さて、風呂上りの今、皆はそれぞれ好き勝手に過ごしている。 俺は部屋でのんびりしているところではあるのだが、これはとある人物から連絡を待っているからである。

 その人物はこの拠点に来ているのだが、誰にもバレずに会いたいと思っているから、人がある程度寝静まってからこっそりと会おう魂胆なのだ。


 ピロンッ!


「お、来たか」


 どうやら今がチャンスなようである。 部屋に来いという連絡が入ったので、俺は静かに廊下へ出てその人物の部屋へと向かうのだった。


 コンコン……


 ガチャ……


「むふふ、おいでませ今井君ー。 どぞどぞ」

「わりぃな紗希ちゃん」

「気にしない気にしない」


 そう、紗希ちゃんである。 今日は折り入って彼女に相談があり、話を聞いてもらう事にした。

 まあ、紗希ちゃんと2人になるというのは結構危険なのだが、真剣な話をする時は真剣に聞いてくれる子だ。 まぁ、今はちょっとお色気モード入ってるが。


「まま、座って座って」

「よっと」


 俺は紗希ちゃんが置いてくれたクッションに座り一旦落ち着く。 紗希ちゃんは何故か服を脱ごうとしているが。


「何してんの?」

「え? するんじゃないの?」

「しないが……」

「きゃはは、ごめんごめん。 相談があるんだっけ? 今までいろいろ相談に乗ってもらったし、今回は私が今井君の役に立って見せようではないか」

「お、おう、頼む」

「うむ。 さて相談ってのは何? お金はちょっとゴメンちょー。 生活費とか考えると結構きつくて」

「いや、金は大丈夫……てわけでもないか。 今回の相談はある意味金も関係してる」

「ほう? 何じゃらほい?」


 俺は、家から持ってきた色々な資料なんかをテーブルに並べて紗希ちゃんに見せる。


「む? これ全部指輪じゃない? 何々……エンゲージ……リングゥ?!」


 書いてある文字を読み上げながら、急に大声を上げた。 紗希ちゃんは、紙と俺の顔を交互に見ながら

、ふとこんな事を言い出した。


「いやいや、紗希さん困っちゃうなぁ。 たしかに嬉しいんだけどさー。 私も今井君も、パートナーいるじゃんー?」


 どうやら自分が貰う対象だと勘違いしたようである。 上げる対象に指輪の資料見せて「どれが良い?」と聞くほど間抜けじゃないんだが。


「紗希ちゃんにじゃないぞ?」

「あ、やっぱり? そうよねー。 つまり、亜美ちゃんに渡す指輪がどんなのが良いか相談に乗れってこと?」

「そうだ」


 紗希ちゃんは、今度は真剣な顔をであれこれと資料を見ていく。


「まあ、相談に乗るのは構わないけど……決めるのは今井君が自分で決めるのよ?」

「わかってる」

「うむ、よし。 んじゃ色々と検討していきますか」


 と、2人で資料に目を通しながら、まず基本的な事から確認していくことに。


「まずは今井君の予算ね。 どれぐらいの物を想定してるのかしら?」

「予定では20万前後……にしたいと思うんだが、バイトの先輩からは金額より気持ちが大事だと聞いてな。 そこんとこを紗希ちゃんにも聞いてみたくて相談に乗ってもらったんだ。 物自体はダイヤの指輪にしたいとは思う」

「ふむ。 亜美ちゃんは4月産まれだものね。 ダイヤが誕生石か。 そのセンスはアリだわ」


 と、紗希ちゃんに褒められてしまった。

 我ながら、自分のセンスの良さが怖い。


「そうねー。 そのバイトの先輩さんの言う通り、そういうのは金額もだけど、何より気持ちが大事よん。 先輩さんよくわかってるわ」

「やっぱりそうなのか」

「でも、やっぱりそれなりの物でダイヤとなるとそれなりの予算はあった方が良いのも事実かしらね。 20万は良い線いってるわ。 お金は?」

「バイト代から少しずつ貯金していくつもりだ。 だから、実際買えるのは相当先になるだろうが」

「まあ良いんじゃないの? どうせ結婚だって大学卒業するまではしないでしょ?」


 紗希ちゃんの言う通りであり、結婚するにしても大学を出て働き出してからだ。 それに、あいつがプロポーズを受けるかどうかもまだわからない。


「ふーん。 色々あるのね」


 カタログを見ながら目を輝かせている。 やっぱり紗希ちゃんもこういう物には憧れたりするものなんだろう。


「うん? オリジナルリング……ねーねー、こういうのありなんじゃない?」

「オリジナル……?」

「うん。 これなら予算内で収めつつ気持ちも込められて、今井君の好きな指輪を上げられるわよ?」

「お、おう、なるほど。 しかしな、俺にはそういったセンスやデザイン力も無いぞ」

「きゃはは! 今井君は今誰に相談していると思っているのかしら? 未来の超有名デザイナー紗希ちゃんよ?」


 と、その豊満な胸を反らして威張る。


「私が協力してあげるわよん!」


 胸を叩いて力強くそう言うのであった。

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