第724話 新拠点お泊り会②

 ☆奈々美視点☆


 今日は新拠点で泊まることになっているわ。 私が提案したんだけどね。

 遥と渚は用事で来れていないけど、また今度改めて皆で泊まろうという事になったわ。

 何せ家からほど近い駅前に出来た新拠点だもの、いつでもできるわ。


 さて現在はバーベキューの真っ最中。 とんでもないことに、裏庭には小川が流れており、川のせせらぎを聞きながらバーベキューを楽しめるようになっている。 奈央がやることはいちいちぶっ飛んでいるわね。


「あはは! カニさんいるぞー」

「ほぉ、どこから来たんだろうなぁ」

「ふふふ、近くの川から来たんでしょうね」

「凄いねぇ」


 野生の生き物が来るような環境って地味に凄いわねこの川。

 

「んぐんぐ……川もだけど、周りの小森林も凄いよね」

「そうだな」


 川が流れる裏庭には、小規模ではあるが森林まである。 もうやりたい放題だわ。


「しかしよー、かなり前からここの建設してたよな?」

「ですわね。 2年前くらいからですわよ」


 2年前っていえば、私達はまだ高2だった頃ね。 皆で旅行とかは行ったけど、共同生活まではしたことなかった。 それなのに奈央は共同生活する事を考えた拠点作りを、その頃からしていたのね。


「まあ、皆用の部屋やキッチンはあった方が何かと便利かと思っただけよ」

「まあ、たしかに便利は便利ね」


 亜美なんかは仕事で集中したい時に使うと言っているし、結構需要はあるのかもしれないわね。

 私もたまには来てのんびりしたいし。

 麻美は渚と遊びに来たり、受験勉強にも使いたいと言っていたわ。 遥はトレーニングルームを使いに来るみたいだし、皆なんだかんだ言って使いそう。

 


 ◆◇◆◇◆◇



 バーベキューを終えた私達は後片付けを済ませて自由に過ごしている。

 私はリビングのソファーに座りながら、亜美が連れて来たマロンと遊んでいるわ。 可愛いわね、こいつ。


「みゃう、みゃー」

「よしよし、お前は人懐っこいわねー」

「そうだよねぇ。 猫さんってそんなに人懐っこいイメージ無いんだけど、マロンは凄く人懐っこいんだよね」


 隣に座る亜美が「何でだろね」と首を傾げながらマロンに訊ねている。 もちろん通じるわけもなく、無視されている。


「可愛いから良いけどさ」

「うんうん。 私の可愛い愛娘だよ」

「猫が娘で良いの?」

「良いんだよー」


 元々猫好きな亜美は、マロンを溺愛している。

 いずれはお見合いさせて子猫を産ませるつもりでいると教えてくれたわ。

 夕也にはまだ話していないらしい。 まあ、ダメとは言わないでしょうけど。


「マロンーおいでー」

「みゃー」


 亜美に呼ばれて膝から膝へ飛び移る。 言葉を理解してるわけじゃないとは思うけど、亜美の言う事は割と良く聞いているわね。


「よしよし、良い子良い子」

「ごろごろ」


 顎をくすぐられて幸せそうな顔をするマロン。 それを見てデレデレな亜美。 どっちも可愛いわね。

 そんな亜美とマロンを眺めていると、騒がしいのがリビングへとやって来た。


「ねーねー! お風呂入ろうよー!」


 我が妹の麻美である。 自分の部屋でパソコンをいじっていたはずだが、お風呂に入るために降りて来たらしい。 しかし、そろそろ時間も時間だから、お風呂に入るのは賛成ね。


「そうね、入りますか」

「だね。 マロンはケージに入れておいて……」


 亜美はマロンを連れて一度自室へと戻った。

 私と麻美はその間に脱衣所へ向かう。 途中で希望と奈央も合流して女子皆で入浴する事になった。



 ◆◇◆◇◆◇



「ふぅ、生き返るわねー」


 ポカリ……


「痛い……奈々ちゃん、私まだ何も言ってないよ?」

「どうせまた『年寄り臭い』って言うと思って」

「言う前に叩かなくても……」

「あはは! お姉ちゃんは乱暴だからねー」

「ほっといてよ」


 妹に乱暴者扱いされてしまった。 気を付けてはいるんだけど、ついつい手がね?

 そんな騒がしい私達を尻目に、希望と奈央は目を閉じてのんびりと湯に浸かっている。 あっちの方が年寄り臭いんじゃない?


「ところでさ、この拠点の掃除どうすんのよ? 日取り決めて定期的にやらないとダメでしょ?」

「そうねー。 週1回はやりたいわね」

「大変かも……」


 結構広いから全員でやっても数時間は掛かる。


「一週目はここ、ニ週目はここみたいに分割して順番にやるのはどう? いっぺんに全部はやっぱり大変だよ」

「それに賛成ー!」

「ですわね。 そうしましょう」


 と、あっさりと亜美の案が可決された。 ここにいない遥、渚、紗希と男子3人の意見は無視されたわけね。

 まあ、皆この案で納得すると思うけど。


「よーし亜美姉ー! 背中流し合いだー」

「らじゃだよー」


 2人は騒がしく湯船から上がり、背中の流し合いを始めた。


「あの2人も仲良いわよね?」


 奈央がそんな2人を眺めながら言う。

 麻美が亜美の背中を物凄い速さで洗っており、亜美はそれに対してもっとゆっくりでお願いと笑っている。

 麻美は私達とは1学年違うだけ。 だから亜美と過ごした時間も私と1年違うだけ。 家族ぐるみの付き合いが長い所為か、亜美の事も半ば本当の姉のように慕っている。 亜美も以前に本当の妹みたいなものだと言っていたし、あれぐらい仲が良いのは当然っちゃ当然ね。


 今度は麻美が背中を流してもらっているようだけど、亜美の力が弱いらしく、もっと力入れてやってくれと麻美が笑っている。


「あれで同じ男を取り合ってんだから不思議よね。 希望もだけど」

「はぅ。 私の場合は亜美ちゃんとは喧嘩できないだけだよぅ」

「した事ないわけ?」

「本気で喧嘩したことはないよぅ」


 まあたしかに、2人が喧嘩したなんて話は聞いたこと無いわね。 一緒に住んでんのに凄いわね。

 私と麻美はなんかしょっちゅう口喧嘩してるってのに。


「奈々美は亜美ちゃんと喧嘩するの?」

「する時はするわよ? あんまり無いけど」


 大喧嘩した事もあるにはあるけど、それも数える程だ。 翌日には普通に仲直りしてたりするし。


「あんまり聞かないよ? 亜美ちゃんと奈々美ちゃんの喧嘩の話」

「何のお話?」


 喧嘩の話で盛り上がっていると、背中の流し合いが終わったらしい亜美と麻美が湯船に戻ってきた。

 亜美の背中ちょっと赤くなってて面白いわね。


「亜美ちゃんと奈々美ちゃんの喧嘩のお話だよぅ。 あんまり聞かないなぁって」

「喧嘩? 最近はしてないねぇ。 昔はよくしてたけど」

「お互い大人になったって事かしらね」

「私とは良く喧嘩するくせにー」


 と、横から麻美が話に入ってくる。


「大体あんたが悪いんでしょうが……」

「何をー! 半分くらいはお姉ちゃんが原因だと思うよー」


 と、こんな風にどうでもいい事から簡単に言い争いに発展してしまうのが私達姉妹なのよね。

 仲が悪いってわけじゃないんだけども。


「まあまあ、落ち着いて落ち着いて」

「ぶー……」

「そんな怒んないの。 私も出来るだけ口には気を付けるから」

「むー、わかったー」


 今日のとこはこれにて鎮火。 亜美達はそんな私達を見て苦笑いするのだった。

 

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