第703話 激戦
☆亜美視点☆
奈々ちゃんと遥ちゃんのチームの試合は続いている。
一旦、遥ちゃんのいる羽山がリードして流れを掴むかに見えたけど、そこから奈々ちゃんがサービスエースを決めたりして流れを持っていかれる前に追いついたりと、今のところ互角の展開を見せているよ。
「奈々美も熱くならずに冷静にプレーしてるわね」
「うん。 自分が囮になる事で、他のチームメンバーが攻撃を通しやすくなるってわかってるみたい」
「この試合、いつ動くんだろう?」
希望ちゃんは首を傾げた。
たしかにここまでは互角の展開を見せる良チーム。
きっかけさえあれば、どちらかが一気に流れを持っていけると思われる。
で、そのきっかけになりそうなプレーは今までに何度かあったにはあったけど、お互い流れを持っていかれる前に出鼻を挫いて防いでいる。
これはかなり大きなきっかけが必要そうである。
「結局並んだまま最初のテクニカルタイムアウトに入ったわね」
「うん」
7ー8でまずは最初のテクニカルタイムアウトに入ったようである。
まだまだ序盤とはいえ、激戦の予感がしてきたよ。
◆◇◆◇◆◇
☆奈々美視点☆
ここまで良チームとも流れを掴めないままきているわ。
中々気の抜けない展開になってきた。
「それにしても遥の奴強いわね」
正直に言うと、私なら遥のブロックはどうにでも出来ると思っていた。 だけど、実際には遥1人に落とされたりして、中々自分の仕事をさせてもらえていない。
囮も仕事の内と言われたら知らないけどね。
「ここまでで、かなり藍沢さんを囮に使ったし、ブロックもばらけてきたわ。 タイムアウト明け、いきなりいくからね?」
「はい」
よし、ここでどでかいの一発決めて流れを七星に引き寄せてやるわ。
コートへ戻り、お相手さんのサーブをリベロの先輩が拾う。 すぐにセッターの先輩がセットアップする。
私は一度下がり助走距離を稼ぐ。 先輩からの長いトスが上がり、タイミングよく助走を開始してジャンプ。
「遥!」
「来な!」
遥はキッチリとストレートを締めてブロックに来た。 隣に先輩も跳んでいてブロック2枚。
クロスもフォローされているわ。
それならブロックアウトを誘う。
「っ!」
パァンッ!
「読んでたよ!」
私が狙った遥の手の平の側面の位置に手をずらしてくる遥。 上手く角度を付けて落とされる。
「くっ! この!」
足を上手く動かしてボールを掬い上げつつ着地する事に成功。
でも、私のスパイクがあっさり止められてるわね。
「ナイスフォロー!」
「はい!」
着地した反動でバックステップを踏み、もう一度走る為に距離を稼ぐ。
「もっかいお願い!」
そんな私に再び託されたボール。
「はあっ!」
ここで今大会始めて出す、体の捻りを加えた必殺スパイクで勝負よ。
「いけっ!」
スパァンッ!
もう一度遥の手に当たるもボールの勢いを殺せず、ボールは遥の胸元に吸い込まれる。
「くおお!」
しかし、遥も負けじと足で拾ってきた。
運動神経良すぎでしょ!
「このラリー、取った方が流れに乗れる!」
ここは何としても取りたいポイントだわ。
私は遥のスパイクを警戒。
遥はもう助走に入っている。
「クイック?! させないわよ!」
クイックが見えたのでコミットブロックに跳び、遥を止めにいく。
「残念! 時間差攻撃だ!」
「げっ?!」
トスは遥のクイックに合わせたものではなく、その後衛から走ってくるもう1人のアタッカーに合わされたもの。 釣られた!
パァンッ!
「オーライー!」
抜かれたと思い振り返ると、先輩が気迫のダイビングレシーブを決めていた。
まだボールは生きてる!
「ナイスです先輩!」
私は三度スパイクを打つ為に、助走準備に入る。
次こそ決める! トス来い!
「頼むっ!」
「来た来た!!」
先輩は私に託してくれている。 三度目の正直。 これは決める!
「遥ぁっ!」
「奈々美ぃっ!」
まともに真っ直ぐ打てば、さっきのように叩き落とされかねない。 なら、指先を掠めるように打ってワンタッチアウトを狙ってやるわ。
そう決めて、浅い角度でアウトになる様な軌道のスパイクを打とうと思ったその時。
遥のブロックの手が、ボールを避けるように開かれたのが目に入った。
読まれた!?
ダメ! このまま打ったらノータッチでアウトにされる! 軌道を変えて……もう間に合わない!
スパァンッ!
ピッ!
「アウト!」
「しゃい! どうだい奈々美! 何も止めるだけがブロックじゃないってな!」
「くぅー……やってくれるじゃないのよ」
遥の奴、今のラリー中私の狙いを完全に読んできていた。 何かわかりやすい癖でもあるのかしら……。
◆◇◆◇◆◇
☆亜美視点☆
「視線だね」
「視線?」
「なるほど……」
さっきのラリー、遥ちゃんは奈々ちゃんのブロックアウト狙いのスパイクを2つとも防いでみせた。
完全に読み切っていた動きである。
「どんなプレーヤーでも、スパイクを打つ時は無意識に狙ったコースに視線が向くものだよ。 空きスペースを探したり、決まりそうな場所を探したりね。 遥ちゃんはそれを見逃さなかった」
「だから奈々ちゃんのあのスパイクを、あえて触らずにスルー出来たってこと?」
「うん。 しかも、そう打つようにここまでのプレーで誘導しているよ。 駆け引き上手だね」
「えぇっ?! 誘導?!」
「序盤で奈々美のスパイクを完璧にシャットアウトした場面がありましたわよね? 奈々美の頭の中にはあのシーンがこびりついていた。 何としても取りたいここのポイント、同じように打ってシャットアウトされるのだけは避けたいっていう気持ちが働いた結果、奈々美はブロックアウトを取りに行くプレーを選んだ。 どこまでが遥の描いたシナリオかは知らないけど、ここは遥が上を行ったというのは間違いありませんわ」
「はぅー。 力比べかと思ったら、ちゃんと駆け引きもしてるんだね」
それについては私も同感である。 単なる力比べではなかったらしい。
「さて、大きな1ポイント。 試合が動くよ」
そこからは、攻撃を止められた奈々ちゃん以外にトスを回す七星大学だけど、遥ちゃんを始めとした前衛選手のブロックに阻まれ、中々得点に結びつかない。
逆に羽山体育大学は強豪の名に恥じない実力を見せ少しずつ点差を開いていき、気付けば第1セットを先取していた。
流れを掴んで一気にいったね。
「完全に羽山ペースですわね」
「奈々美ちゃん、大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。 奈々ちゃんはメンタル強いから。 でも、このまま流れを取り戻せないと次のセットで終わっちゃうね」
「奈々美はこの後が大事ね」
「遥ちゃんもね」
◆◇◆◇◆◇
☆奈々美視点☆
ふぅ……やられたやられた。
まさか私のスパイクが遥に通用しないとは。
「藍沢さん。 スパイク打つ時って視線はどこ向いてる?」
「え? 視線ですか? それはもちろん狙ってるコース……を……あっ」
そういう事か。 遥の奴、私の目を見てコースを読んだんだわ。 憎いことしてくれるわね……。
「ありがとうございます先輩。 次は決めてみせます」
次のセットでリベンジしてやるわよ。
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