第689話 渚ダウン
☆渚視点☆
今日は日曜日なんやけど……。
「あかん……熱下がらへん。 死んでまうんやないやろか」
私は先日から体調を崩している。 38度の高熱にうなされてまともに家事もでけへん。
病院でもらった解熱剤飲んで何とかしてるんやけど、それでもフラフラする。
「……こら明日は学校休まなあかんやろなぁ」
ベッドに寝転びながらそんなことを考えていると……。
コンコン……
「誰か来よったで……もしかしたら麻美か?」
実は昨日も様子を見に来てくれた私の親友の麻美。 お粥とか色々作って帰ってくれてほんま助かった。
「入るよー!」
一応一言断ってから部屋に入ってくる麻美。 普段はお構いなしに入って来よるけど、こういう時はちゃんと弁えとる。 恐らく素はめっちゃ常識人なんやろうな。 いつものあれはキャラ作りやと思う。
「おっすー。 大丈夫かー?」
「渚ちゃん大丈夫?」
と、今日は清水先輩も様子を見に来てくれはったみたいや。
手にエコバッグを持っていることから、昼ご飯を作りに来てくれたんやろか。
「おじゃまするよ。 あ、台所借りるね。 栄養のあるお粥作ってあげる」
「助かります」
「夕飯も作りに来るからー。 大人しくしてなよ渚ー」
「おおきにやでぇ……」
風邪治ったら2人にはお礼せなあかんな。 とりあえず今は安静にして早よう風邪治すことが先決や。
「亜美姉がお昼作るみたいだから、私は溜まってる洗濯物片付けてくるねー」
「頼むぅ……」
麻美は「任せろー」と力こぶを作るポーズをしながら洗濯を片付けに行った。
「渚ちゃん熱はどうなのー?」
「あー、38度ぐらいあります」
「うわわ、それはきつそうだねぇ」
「立ち上がったらフラフラしますねん……」
「寝てなきゃだめだよ」
「そうだぞー。 連絡くれたらいつでも駆けつけるよー」
洗濯機を回しに行った麻美の声が聞こえてくる。 持つべきものは友やな。 ほんまに困った時、もの凄く頼りになる。 麻美は普段は何考えてるかようわからんノーテンキやけど、しっかりする時はしっかりしとる頼れる人間や。
「おおきにやでぇ……」
ほんまに感謝しかない。
◆◇◆◇◆◇
清水先輩が作ってくれはったお粥をゆっくりと食べる。
栄養を考えて野菜や白身魚を解したものが混ざっててめっちゃ美味い。 さすが私と麻美の料理の先生や。
「お部屋の掃除完了ー」
「ふぅ、ゴミも集めておいたよぉ」
「何から何まで……」
結局溜まっていた家事を全て片付けてくれた2人。 お粥を食べた後の食器も片付けて、一旦帰るとの事。 清水先輩は夜は来れないという事やけど、麻美は夕飯を作りに来てくれるとの事。
それまでは大人しく寝てるとするか……。
2人が帰っていくのを見送り、私は少し眠りにつくことにした。
◆◇◆◇◆◇
「不用心やなぁ。 女の一人暮らしで鍵もかけんと……」
朦朧とする意識の中で、聞こえるはずのない声が何故か聞こえてくる。
あー、この声はお姉ちゃんの声や。 聞こえるわけあらへんのに。
「亜美ちゃんと藍沢妹が来て色々片付けてくれとるみたいやな。 ウチがやる事はなさそうや。 夕方には帰らなあかんし、晩ご飯も作ったれへんでな。 堪忍やで渚」
あれ……ほんまに近くからお姉ちゃんの声がする。 お姉ちゃんは東京におるはずやのに。
霞む目をゆっくりと開けて、目を凝らして部屋の中を見てみる。
「……お姉ちゃん?」
「お、起こしてもうたか?」
「何でお姉ちゃんがここにおるん?」
「んー? 昨日亜美ちゃんから連絡あってな。 渚が熱出して寝込んでる言うてな。 今日は練習も休みやったし様子見に来たんや」
「そうなんや」
清水先輩がお姉ちゃんに教えたらしい。 それを聞いて東京から来てくれたっちゅうことみたいや。
「家事とかは全部亜美ちゃんと藍沢妹がやってくれたんやろ?」
「うん。 正直助かってるわ。 夕飯も麻美が作りに来てくれるみたいやし」
「ええ友達やないの」
「そやね」
「せや。 プリン買うてきたで。 食うか?」
「食べる」
「待っとりや。 取って来るさかいな」
と、立ち上がり冷蔵庫からプリンを持ってくるお姉ちゃん。
「美味い」
「熱ある時はこういうあっさりしたもんがよう喉通るんや。 まだ冷蔵庫に入っとるさかい、欲しなったら食べてや」
「おおきにやで」
その後は少し熱も下がっていたという事で、麻美が来るまでの間話し相手になってくれたお姉ちゃん。
一応社宅に門限があるらしく、やってきた麻美と入れ替わりで帰っていった。
まさか来てくれるとは思わんかったから、めっちゃ嬉しいわ。 たまには風邪もひいてみるもんやな。
◆◇◆◇◆◇
「お姉さんわざわざ東京から様子見に来たんだねー]
「そやね。 ほんま心配性なんやから」
「嬉しかったくせにー」
と、あっさり見破られてしまう。
「でもさー、休みとはいえわざわざ東京から来てくれるなんていいお姉さんだねー」
「そやね」
「私のお姉ちゃんもねー、普段はあんな感じだけど私が弱ったりしてる時は凄く優しくなるんだよー」
と、麻美。 藍沢先輩はあれでとてもやさしい人だというのは見ていればわかるし、なんだかんだ言って麻美の事を大事にしているのもわかっている。 姉というのは存外そういうものなんかもしれんなぁ。
「さーて、夕飯作るかぁ。 お味噌汁とかどうー?」
「多分大丈夫や思う」
「ほいじゃあお味噌汁も作ろー。 待ってろーなははー」
と、笑いながら台所で調理を始める麻美。 私も麻美も清水先輩に料理を教わりそれなりに上達した。
麻美は家でもちょくちょく手伝いをしているらしく、上達速度はかなり早い。
何においても天才肌なのが麻美。 その逆で鈍臭くて何においても上達が遅いのが私。
結構正反対なんやな私らは。
「ぼぇー」
夕飯を作りながら急に歌い出す麻美。 何故か歌だけはめちゃくちゃ下手くそや。
そこはお姉さんの方が全て持っていきはったみたいや。
「渚、熱はどうなのさー?」
「だいぶ下がってるとは思うで……ちょっと測ってみるわ」
近くに置いてある体温計に手を伸ばし熱を測る。
「夕也兄ぃも来てくれたら良いのにねー。 あ、でも夕也兄ぃが看病したら逆に熱上がるかも?」
「ありそうやな……」
家事をしたら散らかるらしいからな。 看病されたら逆に熱が上がるぐらいの事はあるやもしれん。
ピピピッ!
「お、37度3分まで下がったわ」
「まだ微熱だー。 明日は休んだほうが良さげだねー」
「せやなあ。 そのつもりやよ」
明日1日は安静にしてるつもりや。 麻美は明日も様子を見に来ると言って帰っていった。
こうやって弱った時に力になってくれる人がいるってのはほんまにありがたいことや。
◆◇◆◇◆◇
2日後──
体調もすっかり良くなり、渚完全復活や。
「渚おはよー!」
ドカッ!
「痛いやんか! 何すんねん麻美のアホ!」
「なははは! いつもの渚戻って来たー!」
「普通に出来んのかあんたは……」
「これが私の普通だぞー」
「せやったな」
この間の優しい麻美はイレギュラーな麻美。
とは私は思わん。 あれも今の麻美もどっちも麻美の素なんや。
「あ、そだ。 昨日の授業のノート取っといたよ。 ほい」
と、ノートを数冊手渡される。 そこまでやってくれたんか。
ノートを開くと、授業内容や重要項目がわかりやすくまとめてある。
なるほど。 成績がええのも納得や。
「サンキューやで」
「なははは」
これは感謝してもしきれんな。 何かお返しせなあかんでこれは。
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