第654話 久々の今井家

 ☆夕也視点☆


 明日希望と久しぶりにデートをする予定だ。

 希望が亜美に頼んで許しを得られたからなのだが、亜美も簡単に許したなぁ。


 で、明日のデートの行き先は東京という事になっている。 そしてなんと、希望がBリーグの試合のチケットを取ってくれており、明日は試合観戦デートとなっている。

 しかも神戸のチームには、あの兵庫青柳のエースだった佐田さんがいるのだ。

 久しぶりあの人のプレーが見られるのは中々楽しみだ。


「しかし、希望はバスケの事なんかあんま詳しくないだろうし、本当に楽しめるのか?」


 と、ふと考えてみる。

 希望は間違いなく俺が楽しめる為にバスケの試合の観戦をチョイスしてくれたんだろう。

 それならこっちはこっちで、あいつが喜ぶような場所にも寄ってやりたいよな。

 となると……。



 ◆◇◆◇◆◇



「で、私に相談に来たと」

「うむ」

「あのねぇ。 私は夕ちゃんの彼女なんだよ? どして他の女の子とデートするのに協力しろなんて言えるかなぁ?」

「いや、元はと言えばお前がデートの許可を出したからだなぁ」

「むーん……はぁ……たしかにそうだね。 せっかくだから希望ちゃんには楽しんでほしいから、今回は協力するよ」


 口調は渋々といった感じだが、顔はそうでもない様子だ。 


「希望ちゃんといえばやっぱりアレだよアレ」

「アレってなんだ?」

「ボケねこだよ」

「それ以外で何か無いかね?」


 たしかに希望は喜ぶだろうが、俺はアレとアレを目の前にしたハイテンション希望がどうにも苦手だ。

 ついていけないんだよなぁ。


「あのねぇ夕ちゃん。 希望ちゃんは大して詳しくないバスケの試合観戦をチョイスしてくれたんだよ? だったら対して好きでもないボケねこスポットに付き合って上げなきゃ対等じゃないよ」

「ぐ……」


 それを言われると弱いな。

 亜美の言う通り、希望が俺を楽しませるためのプランを立ててくれたんだ。

 俺も希望が楽しめるようなデートにしてやらないと可哀想だよな。


「そうだな。 東京の○○体育館周辺に無いか調べてみるか」

「それなら紗希ちゃんに訊けば良いね」


 ということで亜美が代わりに紗希ちゃんに訊いてくれるようだ。


「もしもーし、亜美でーす。 実は明日ね、夕ちゃんと希望ちゃんがデートするんだけど。 あはは、うん」


 早速本題に入る亜美。


「それでさ、明日○○体育館に行くみたいなんだけど、その辺にボケねこ関連の何かが無いかなって……」


 ……。


「ほう、ボケねこモール?」


 何だよそれ……。

 亜美が紗希ちゃんから聞いた話によると、ボケねこ関連の店舗やフードコート等が集まったショッピングモールがあるとの事だ。

 何て物があるんだよ。


「うん、ありがとねー!」


 と、通話を終えた亜美がこちらを向いてサムズアップする。


「頑張れ!」

「お、おう」


 ボケねこモールか……。 まあ、希望が喜んでくれるなら良いか。

 俺が希望にしてやれる事なんてそんなもんだよな。

 希望にした仕打ちを考えたら、これぐらいは。


「夕ちゃん、明日は希望ちゃんの事任せるよ」

「ん、おう」


 亜美の奴もこう言ってるし、今回は希望の為に1日使うとするか。

 


 ◆◇◆◇◆◇



 というわけで希望の部屋──


「はぅっ!? ボケねこモール!? 行ってくれるの?!」

「おう。 紗希ちゃんからそういうのがあるって聞いたんだ。 俺ばかり楽しんじゃ悪いから、希望が好きそうな場所にも行こうと思ってな」

「あ、ありがとぅ! 嬉しいよぅ!」


 めっちゃ嬉しそうに飛び跳ねて喜んでいる。

 相変わらず俺にはアレの良さがわからないが……。


「明日のデート凄く楽しみだよ」

「おう」


 それから2人で、出かける時間の打ち合わせやらをして明日に備えるのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



 ☆希望視点☆


 夕食を食べて、食器の洗い物を亜美ちゃんと片付けています。


「ボケーねこのー♪」

「ご機嫌だね希望ちゃん」

「あ、あはは。 凄く楽しみなんだよ。 夕也くん、私の為にボケねこモールにも行こうって行ってくれるって言うんだよ。 夕也くん私の事が好きで仕方ないんだよ」

「それは無いでしょー」


 と、笑い飛ばす亜美ちゃん。 どうやら彼女の余裕というやつだね。

 でも余裕でいられるのも今のうちだよ。


「明日というチャンスを活かして、少し前進するよ」

「どうぞどうぞ。 精々頑張ってねぇ」


 よぅし、明日1日で奪うのはさすがに無理だけど、ちょっとぐらいは付き合ってた頃の雰囲気を思い出させて意識させないと。

 まずはもう一度チャンスを得ない事には話にならないからね。


 

 ◆◇◆◇◆◇



 ☆亜美視点☆


 1日の家事を終えてお風呂タイムです。

 昨日までは北海道の温泉に浸かっていたんだけどねぇ。


「んー、希望ちゃん今回は結構頑張るみたいだね。 あんまり余裕見せてると足元掬われるかなぁ? むぅ、4月に入ったら私も夕ちゃんをデートに誘うかぁ」


 私も最近は受験だ何だでデートしてなかったから、そろそろ1回ぐらいデートしたいね。


「亜美ちゃーん、私も入って良いー?」


 希望ちゃんの声が脱衣所から聞こえて来た。

 一緒に入ろうということみたいだ。


「どうぞー」


 呼ぶと、服を脱いでお風呂に入ってきた。


「亜美ちゃん、そういえばなんだけど、大学バレーはどうするか決めた?」

「あー……旅行中に決めようと思ってたんだけど、楽し過ぎて考えてなかったよ」

「あはは、そかそか、楽しかったもんね」

「でも、そろそろ考えないとね」


 バレーボールは大好きだ。 ただやっぱりそこには、皆と一緒にやるという言葉がついてくる。


「希望ちゃんは?」

「私はやってみようかなって」

「うわわ?! あの人見知りの希望ちゃんが、知り合いが1人もいないバレー部に?!」

「うん、だからこそだよ。 そういう場所に身を置く事で、自分の成長を促そうって思って」

「おお……希望ちゃんは強くなったねぇ」


 そっかそっか、希望ちゃんはバレーボールを続けるんだ。


「それに、奈々美ちゃんも言ってたけど、皆と真剣勝負もしてみたいなっていうのもあるんだよ」

「たしかにそれは魅力なんだよね」


 大学の大会で皆と真剣勝負っていうのは面白いと思う。

 私の行く大学には奈央ちゃんもいるので、私が入ったらちょっと強くなるかもしれないけど……。


「まだ時間もあるし、もうちょっと考えるよ」

「うんうん。 亜美ちゃんには小説の方もあるしゆっくり考えた方がいいよ」

「うん」


 バレーボールと小説に大学での勉強。 これら全てをこなすのはさすがに大変だろう。

 悩ましいよ。


「でも希望ちゃんがそこまで頑張るなんて思わなかったよ?」

「うん。 今まで亜美ちゃん達に協力してもらいながら少しずつマシにはなってきたし、もう一頑張りだと思うんだ。 だからこれからは出来るだけ自分だけでも頑張ろうと思って」

「うんうん。 私は姉として妹の成長が嬉しいよ。 よよよー」


 希望ちゃんがどんどん成長していくのを見ると、私ももっと頑張らないとなぁと思う。

 私も負けてられないねぇ。

 

 

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