第527話 せっかくだし
☆亜美視点☆
今日は火曜日。 まだもうちょっと東京に滞在することになる私。
お母さんも退院して家でゆっくりしているし、お父さんは朝からお仕事だ。
朝の家事を済ませてお母さんにお昼を作った私は、今のところ暇である。
「暇である!」
と、独り言のように叫んだ私は、せっかく東京に来ているのだからちょっとショッピングでもしに行こうと思い立つ。
「東京かぁ。 何度か来てるけど、まだまだ見ていない所だらけだね」
まずはスマホで周辺を検索。
ふむ、この辺はあまり見られる場所が無さそうだ。
電車に乗ってちょっと足を伸ばして……。
「都姫女子高等学校?」
マップを見ていると、それが目に飛び込んで来た。
都姫女子ってあの、宮下さんのいる学校だよね?
二駅先にあるんだ。
「今授業中かなぁ?」
時計を見ると11時前。 まだお昼休みにもなっていない。
「うーむ」
お昼ぐらいにメールしてみようかな。
「とりあえずお出かけしよ」
私はお母さんに一言告げてから、いざ東京ショッピングへ。
「じゃあ行ってくるね。 夕飯の支度は私がやるから、お母さんはまだ無理しないでね」
「はいはい。 気を付けてね」
家を出た私は、いまいち土地勘の無い街を駅目指してひた歩く事にした。
近くのスーパーぐらいにしか出かけてなかったから、何もかも新鮮だ。
◆◇◆◇◆◇
「んと、都姫女子高等学校があるのはこっち方面だね。 切符ヨシ!!」
無駄に指差確認を行い、いざいざ電車に乗り込む。
宮下さん、びっくりするかなぁ?
時計を見ると11時20分。 まだお昼休みには早そうだ。
「私もお昼食べないとね。 何か良いお店あるかなぁ?」
とりあえずは電車を降りてから考えよう。
最近は受験勉強に家事と少し頑張りすぎてたし、今日ぐらいは私も羽を伸ばさないとね、
「夕ちゃん達はどうしてるかな? 今頃は学園で勉強中かな?」
皆が一生懸命勉強している中、私は1人のんびりと東京ショッピング。
ちょっと良い気分である。
「○○ー○○です。 お降りの方は……」
「おお、着いたねぇ」
と、誰に言うでもない独り言を呟きながら電車を降りる。 お昼だと乗客も疎らだし動きやすいね。
これがラッシュ時だと凄いんだろうなぁ。
等と感想しながら改札を抜けて見知らぬ街へ。
「うん。 右も左もわからないよ」
と、そんな時の為のマップアプリである。
私はスマホをササッと操作してアプリを起動する。
「お腹すいたし、都姫女子を見に行く前にお昼を食べに行きたいね。 んーと……おお、鰻が食べられるのかぁ」
どうやら美味しい鰻重が食べられるお店があるらしい。
ふふふー、今日は日頃頑張ってる自分へのご褒美だよ。 贅沢に特上鰻重を食べちゃお。
そう決めたら更にお腹がすいてくるのであった。
◆◇◆◇◆◇
「いらっしゃいませー、1名様でしょうか?」
「はい」
件の鰻屋さんに入った私は店員さんに連れられて席に座る。
うんうん、良い匂いが漂ってくるよ。
既に注文を決めている私は、すぐに店員さんを呼ぶ。
「ご注文お決まりでしょうか?」
「特上鰻重と麦茶お願いします」
「特上と麦茶ですね。 少々お待ちください」
店員さんがメニューを持って去っていく。 鰻重楽しみだねぇ。 そういえば最近食べてなかったし、今日はたらふく食べるよ。
スマホをいじりながら時間を潰し、鰻重がやって来るのをゆっくりと待つ。
「お?」
私はニュースサイトでとある一文に目を止めた。
そこには「音羽奏 待望の新作! 12月12日発売!」と書かれている。
「そか、もうすぐだね」
私の書いた駅伝の物語である「繋ぐ思い」が、いよいよ発売である。 世間からはどんな評価をされるのか、ヒヤヒヤドキドキだよ。
大学に合格したら、新作も書かないとね。
「他に目ぼしいニュースは……特に無しだね」
芸能人の誰々が結婚したとかそう言うのばかりである。
「お待たせしました。 特上鰻重と麦茶お持ちしました」
「あ、はい」
来ましたよ来ましたよ。
おー、特上なだけあってかなり大きい重箱である。
「どれどれ」
私は早速重箱の蓋を取り、中の鰻さんとご対面する。
「おお、美味しそう」
熱々の白ごはんの上にタレのたっぷりとかけられた鰻の蒲焼が5切れほど入っている。 これはかなりのボリュームだ。
「いただきます」
手を合わせていただく事にするよ。
お箸で鰻を少し切り、白ごはんに乗っけて一口。
「んむんむ」
美味である。 鰻の身はすごく柔らかく、タレも良く染み込んでいて、丁度良い甘辛さだ。 ご飯にもタレが染みていて食が捗るよ。
「んむんむ。 千葉に帰る前にもう一度食べに来よう」
食べ始めたばかりなのに、早くもそう決めた私なのでした。
◆◇◆◇◆◇
さて、お昼も堪能して時計を見ると、そろそろ学生達はお昼休みの時間かな?
私は都姫女子高等学校がある方角へ向かいながら、宮下さんにメールを入れてみる。
「今、都姫女子の近くまで来てるんだけど会えるかな? と」
メールを送信すると、もの凄い早さで返事が来る。
「マジ? 何処何処?」
凄い食いつきである。 私はわかりやすい建物を適当に見つけて、その建物の名前を伝える。
「すんごい近くじゃん! 校門まで出るからそこで!」
と、文章からも元気なのが伝わってくる。 私は苦笑しながら「らじゃだよ」と返信して、都姫女子の校門を目指した。
綺麗な校舎が見えてくると、私はぐるりと周り校門を見つける。
そこには何やら菓子パンを頬張りながら、キョロキョロとする女子の姿が。
もちろん宮下さんだ。
「んん?! ほんふぉひひよひふふぁんふぁ!」
パンを咥えたまま喋っているので何を言ってるのかわからない。
「んぐ! 本当に清水さんだ!」
「わざわざ言い直してくれたんだね」
「何でここにいるの?」
と、最もな疑問を投げかけてきた。
私は、平日の真っ昼間に何故東京にいるのかを説明する。
「そっか、お母さんがね。 一回会ったことあるけど、優しくて面白い両親よね」
「まあね。 お昼休みあとどれくらいある?」
「あと20分ぐらいかな?」
「そっか。 あんま長くは話してられないねぇ」
「ふむ……東京にはいつまでいるの?」
「日曜日には戻るよ」
「んじゃじゃー土曜日遊びに行こうよ」
と、宮下さんから思わぬ提案をされた。 中々に魅力的なお誘いだ。
私は考えるまでもなく「OK」と言っていた。
せっかくだもんね。 東京で宮下さんと遊ぶ機会なんてそうそう無いし。
「決まりね。 詳細は放課後にまたメールするわ」
「うん、楽しみにしてるよ」
東京に来て思わぬ楽しみが増えた。 これは土曜日が待ち遠しいよ。
「じゃあ、また土曜日に!」
「うん、またね!」
お昼休みがもうすぐ終わってしまうという宮下さんは、元気に走って戻っていった。
「さーて、私もショッピング始めちゃおっかな」
都姫女子高等学校の校門を後にして、周辺のショッピングモールなどを物色して楽しむ私なのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます