第525話 三つ巴
☆夕也視点☆
夕飯中は今日の部屋割りで揉めていたと思ったら、次は明日の買い出しで揉めていた。
俺の体保ってくれー。
「どう考えても私やないですか?」
「いやいやー! ここはジャンケンだよー!」
「そぅだよ渚ちゃん! チャンスは公平に!」
バチバチバチバチ……
「な、奈々美は良いのか?」
「私は今日行ったし別に」
との事らしい。 奈々美は俺争奪戦には加わる気はないようだが、それなりのポジションを獲得しようとは考えているようだ。
曰く愛人ポジで良いらしい。 それはそれでまた困るんだが。
「ジャンケン! ポン!」
「よっしゃ! やっぱり私や!」
「ぐぬぬー」
「次こそはー」
平和に買い出し出来るなら誰でも良いんだが。
とりあえず渚ちゃんに決まったようで、明日は渚ちゃんと夕飯の買い出しへ行く事になった。
◆◇◆◇◆◇
夕飯後、部屋で勉強をしていると亜美から通話がかかってきた。
「ふ、寂しがり屋め」
等と独り言を呟きながら応答をタップする。
「あ、もしもーし。 夕ちゃん今大丈夫?」
「あぁ。 飯も食ったし、風呂まで勉強してるとこだ」
「おー、感心だねぇ。 こっちはお母さんも帰ってきてゆっくりしてもらってるよ」
「そうか。 ちゃんと休ませてやれよ?」
「その為に滞在するんだもんね。 そっちはどう?」
「聞いてくれるか? 希望と麻美ちゃんと渚ちゃんが火花バチバチで大変なんだ。 皆泊まりに来て毎日バトルだぜ」
「あはは、予想通りだよ。 私っていう1番の邪魔者がいない今のうちに色々アタックしてくるのはわかってたし。 だから奈々ちゃんに色々とお願いしたんだよ」
「でもなぁ、その奈々美もだな」
「聞いてるよ」
と、やけにあっさりとそう言う亜美。 聞いてるって本人が喋ったってことかよ。
「まあ、夕ちゃんのガードのお駄賃みたいなもんだよ。 怒ってないから安心せよだよ」
「そ、そうなのか……」
亜美の中ではそれぐらいの事で済んでしまうようだ。
亜美の奈々美に対する絶対の信頼は、一体どこからやってくるのだろうか?
「でも大変そうだね。 帰れるのは日曜日の夕方とかになりそうだし、それまでは頑張るんだよ」
「頑張るんだよって言われてもだなぁ。 早く帰ってきてくれよマジで」
「あはは。 私も早く夕ちゃんの顔を見たいとは思うんだけど、まだお母さん休ませてあげたいからね」
亜美は「自分も寂しいけど頑張る」とそう言った。
「しかしあれだな。 お前、今回の件でもかなり色々手回ししてるよな」
「そかな? 全部奈々ちゃんに丸投げぽい〜っだよ? 奈々ちゃんに、希望ちゃんのフォローと夕ちゃんのガードよろしくって伝えただけだし」
それをあっさりと了解する奈々美も奈々美だな。
2人の関係は何というか、固い絆で結ばれてるんだな。
男の俺でも嫉妬するぜ奈々美さんよ。
「さて、夕ちゃんの声を聞いて元気回復したし、お風呂入って寝よかなぁ」
「そうだな。 んじゃ、おやすみ」
「おやすみー」
通話を切りスマホを布団の上に放る。 風呂はそろそろ空いたかね?
今日は最終風呂の俺は、女子達が上がって来るのを待っていたわけだ。
「風呂風呂ー」
着替えを持って脱衣所へ向かう。
リビングでは女子達が楽しそうに会話している声が聞こえて来る。
ふむ、平和そうだ。 基本的に俺が絡まなければ戦いには発展しないらしい。
「ずっとこうなら楽なんだがな」
そう思いつつ脱衣所の扉を開ける。
「……」
「……ありゃ」
麻美ちゃんが風呂から上がって来たところのようで、これ以上無い最悪のタイミングで脱衣所に入ってしまったらしい。
麻美ちゃんはゆっくりとバスタオルで体を隠した後で……。
「なははー、夕也兄ぃ覗きかー?」
「違うわい!」
普通の女の子なら悲鳴でも上げそうな場面だが、麻美ちゃんは笑いながらそう言ったかと思うと更に。
「一緒に入りたかったのー? しょーがないなー、もっかい入ろうかな」
と、本気か冗談かわからん事を言い出す。
俺は呆れて声も出せないまま脱衣所から出て扉を閉める。
扉の向こうからは「ありゃりゃ、逃げた」と聞こえてきていた。
恥ずかしくないのかねあの子は。
しばらく待っていると、可愛らしいパジャマに身を包んだ麻美ちゃんが脱衣所から出てきて、何食わぬ顔で「お待たせー、ごゆっくりー」と残してリビングへ消えていった。
な、何だかなぁ。
どっと疲れたのでゆっくり風呂に入って疲れを癒やすとするか。
◆◇◆◇◆◇
湯船に浸かりながら、先程の事を思い出す。
「ふむ……あの日は電気も消してて暗くてよく見えんかったが、明るいとこで見ると麻美ちゃんも中々健康的な……いやいや、何を思い出しながらニヤニヤしてんだ俺は」
あの日以来、妹のような存在から脱した麻美ちゃん。
結構……というかかなり積極的なアタックを仕掛けてくる事も多く、俺も気が気ではない。
今日あたりは特に要注意だ。
「どうしたもんか。 部屋の扉に鍵は無いから侵入が容易いんだよなぁ。 どうする事も出来んか?」
意外と渚ちゃんが抑止力になってくれたりしないか、と期待はしてみるものの、少々頼りない。
「いかんいかん。 最近どうも浮気が過ぎるぞ」
さすがの亜美も呆れるんじゃないだろうか。 あいつは浮気なんかしないでいてくれてるのに。
「してないよな?」
あいつの事だから大丈夫だろうとは思うが。
「とにかく日曜日まで……何とか凌ぐぞ!」
そう決意するのだった。
◆◇◆◇◆◇
風呂から出てリビングへ行くと、希望と奈々美が勉強に勤しんでいた。
いや、希望の方は半分寝ぼけている。 たまに頭がガクンッとなっては「はぅ」と頭を振って眠気を飛ばしていた。
「眠たいなら寝ろよ?」
「うー、もうちょっと」
「無理は良くないわよ。 私ももう切り上げるから、今日は寝ましょ」
希望の限界を見てとった奈々美は、問題集をさっと閉じて立ち上がる。
「ほら、立ちなさい」
「すー……」
「って、寝ちゃってるじゃない」
「寝ると決めたら秒で落ちるのが希望の特技だからな。 良いよ、俺が部屋まで抱いて上がるから」
「そう? じゃ希望をお願い」
先に寝室へ向かう奈々美の後を、希望を抱えながらついていく。
しかし軽いなぁ。
「すー」
一度寝ると多少の事では起きないのも希望の特技である。
「よっと」
「ご苦労様」
希望をベッドに横たえて布団を掛けてやる。
しかし可愛らしい寝顔だな。
「じゃ、おやすみ」
「ええ、おやすみ」
希望の部屋から出ていき自分の寝室へ向かう。
途中、麻美ちゃんと渚ちゃんがいる亜美の部屋の前を通ったが、やけに静かであった。
「もう寝たのか?」
それなら警戒しなくて良さそうだ。
そう思い、自室の扉を開ける。
部屋の中を見た瞬間に、俺は自分の考えが浅はかであった事を思い知る。
「なははー」
「あ、あはは」
何故か2人は俺の部屋に入りこんで、ちゃっかり布団まで敷いていた。
渚ちゃんは抑止力になるどころか、麻美ちゃんの案に乗っかったようだ。
ど、どうすればいいんだ? 教えてくれ。
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