第519話 奈々美の気持ち

 ☆奈々美視点☆


 さて、亜美が東京の両親の所へ言ってしまったので、帰って来るまでは希望が1人で夕也の世話やらをしなくてはならない。

 それを心配した亜美から、昨夜電話があり「希望ちゃんのフォローよろしく」と頼まれたわけ。

 というわけで、今日は今井家に泊まりで手伝いに来たわよ。

 亜美から言われたって事は希望には話してないけど別に言わなくて良いわよね?

 大体、お願いされなくても手伝いに来るつもりだったし。

 ついでに賑やかし要員で麻美も連れて来た。

 この子がいれば3人増えたのと変わらないぐらい賑やかになる事間違い無し。


 現在私達は各部屋の掃除を終えて、家事の分担に入った。

 私は洗濯物を畳んで片付ける係り。 希望と麻美は夕食係りに回っているわ。


「あら、希望ったら胸大きくなったのかしら?」


 洗濯物のサイズを見て気付く。 まあ、私よりは小さいけど。


「何言ってんだお前」


 私が洗濯物を畳む姿をボーッと見ていた夕也が口を出してきた。


「ほら、希望のブラ」

「何見せてんだよ……本人が見たら泣くぞ」

「泣かないでしょさすがに」


 いくらあの子が泣き虫でもそんな事ぐらいで泣くわけないじゃない。

 まあ、バカな事はやめてさっさと片付けちゃいましょ。


「何かわりぃな」

「何がよ?」


 突然謝られて意味がわからないわ。


「希望1人だと大変だからって手伝いに来てくれて、あいつも助かると思う」

「あぁ、そういう事。 別にあんたが気にする事じゃないわよ」

「そうでもないぞ。 俺が手伝ってやれれば、どれだけ亜美や希望の負担を減らしてやれることか」

「へぇ、わかってんじゃん。 簡単な事から出来るようになれば良いじゃないの。 ほら、洗濯物の畳み方教えて上げるからこっち来なさい」


 やる気あるみたいだし、洗濯物を畳むぐらいの事はいくらなんでも出来るでしょ。

 私は夕也を隣に座らせて丁寧に畳みながら教えてみる。


「ふむ。 簡単だな」


 夕也はそう言って、自分の服を手に取り畳み始めた。


「……」

「こ、このっ! くそ!」


 何で? 何で服を畳むのにそんな苦戦してんのこいつ? てか、何それ? あやとりか何かしてるの?

 どうやったら服がそんな風にもつれるの?


「なぁ、難しいんだが?」

「そっちの方が難しいわ!」


 私は夕也の頭をポカリと叩く。 夕也は大袈裟に頭を押さえながら転げ回っている。

 軽く小突いただけなのにそんな痛いわけないじゃないのまったく。


「ぐおぉ……」

「はぁ、しょうがないわね。 ちょっと後ろ良い?」


 私は尚も転げ回る夕也の背後に移動して、ぴったりと体をくっつける。

 そのまま手首を握り、いわゆる二人羽織の状態になる。


「ほら、私が手を動かして上げるからやってみなさい」

「お、おう。 当たってるんだが?」

「何がよ?」

「柔らかいモノが背中に」


 何を今更。


「気にしないからさっさと服を掴みなさい」

「お、おう」


 夕也が服を掴んだのを確認して、私は手を動かしていく。

 まるで子供に教えてるみたいだわ。

 1つ1つゆっくりと動かしていき、1着の服を畳む。


「おお! 畳めたぞ奈々美! はっ、余裕じゃないか」

「私があんたの手を取って動かしてたんだから当たり前でしょうが。 今のを自分でやってみなさいよ」


 私は手を離して夕也から少し離れる。

 まったく手の掛かる奴ね。


「……おー、でけたぞ」

「うむ。 上出来上出来。 やれば出来るじゃないの」


 まだちょっと手付きは怪しいけど、一応形にはなったようだ。

 このまま少し続けさせればちゃんと出来るようになるでしょ。


「ご褒美にキスしてあげるわ」

「は? ん!?」

「ふぅ。 ほら、ちゃっちゃと畳む畳む」

「お、お前なぁ……」


 夕也は困ったような顔でこちらを向く。

 ふむ、そうかそうか。


「キスだけじゃ足りないって?」

「いやいや、そうじゃなくてな? お前もいい加減に俺との行き過ぎたスキンシップを控えろよ?」


 夕也は私に真剣な表情でそう言う。


「ふむ。 別に良いじゃないの」


 私は特に悪い事だとは思っていない。 幼馴染だし多少のスキンシップは別にいいと思うんだけど。


「俺達は別に付き合ってるわけでもないんだぞ? いくら好意があるって言っても限度ってもんがあるだろう?」

「そうかしらねぇ? 好きなら別に良くない? 私達5人ってさ、恋人だとか友達だとか、そういう次元の外側にいると思うのよね。 だから付き合ってるだとか付き合ってないだとかっていうのは些細な事なのよ」

「な、何言ってるんだよお前は」


 夕也は頭を抱えるような仕草を見せる。 どうやら本気で困ってるようである。

 嫌がられるって結構ショックね。 私達の仲は特別な関係だと思ってたんだけど、こいつは一般的な幼馴染程度にしか思ってないって事なのかしら。


「……」

「2人ともー、ご飯できたよー」


 そこへ麻美がやって来て夕飯が出来たことを伝えに来た。 私はいつも通りの表情に戻って返事をし、ダイニングへと向かった。

 


 ◆◇◆◇◆◇



 ザバーン………


「ふぅ……」


 夕食後にゆっくりと寛いだ後で順番にお風呂へ入って行く。 私は2番目に入っているところ。

 先程の夕也とのやり取りを思い返していた。


「夕也め。 私を傷付けるなんていい度胸してるじゃないの。 にしても、そんなにいけないことかしらね? 昔からスキンシップはかなり多かったと思うけど……」


 昔のことを色々と思い出してみる。

 幼稚園にいた頃や小学生の頃なんかは当たり前の様に抱きついたりしてたものね。

 中学生の頃だって普通にくっついて座ったり手を繋ぐ事もあったし。


「やっぱ彼女の存在かしら?」

「なはははー。 お姉ちゃんどったのー?」


 考え事をしていると、麻美がいきなり浴室へ入ってきた。


「別に何でもないわよ」

「そー? 何か考え事をしてるみたいだったけどー?」

「何でもないってーの」

「ぶー! 隠す事ないじゃーん!」


 シャーッ!


 ちょっと不機嫌になった麻美がシャワーをこちらへ向けて放水してくる。


「ちょっと何すんのよ!」

「何で隠すのさー!」

「別にあんたに話さなきゃいけない事でもないからよ」

「むーっ! 教えろー!」


 更にシャワーの水を私目掛けて放ってくる麻美。

 今日はやけにしつこいわね。


「あーもう! わかったわよ!」


 今回は珍しく私の方が敗北宣言。

 本当に面倒臭い子ねぇ、我が妹ながら。


「わかればよい! それで、何を考え込んでたの?」

「はぁ。 実は今日ね、行き過ぎたスキンシップを控えろって言われたのよ」


 と、麻美に掻い摘んで話すと……。


「んー……お姉ちゃんの場合、宏太兄ぃに対するあれはスキンシップというか純粋な暴力だからねー……。 そりゃ控えてほしいって言うと思うよ?」


 と、麻美なりの感想を聞かせてくれた。

 ちょっと気になる言い方をされたような気もするけど、問題はそこじゃなく……。


「いや、宏太じゃなくてね」


 麻美は宏太との事だと思っているようだ。 たしかに誰に言われたとは言わなかったけど。

 麻美は「ほへ?」と首を傾げる。


「誰に言われたのー?」

「夕也よ」

「あーそっか。 夕也兄ぃにかー……えーっ?!」


 麻美は何故か大声で驚いたのだった。

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