第499話 夢に向かって

 ☆紗希視点☆


 11月になったわけで、私達3年生にとって残る大きなイベントは大学受験と卒業式となった。

 そんな私は今、休日である今日、とある場所へと向かっている。

 皆との受験勉強会をお休みしての小旅行。 結構遠出になる

 その行先というのは……。


「京都ー京都ー」


 そう、京都。

 大学を京都の芸大にした私は、受験前に一応下見を済ませておこうと思ったわけである。

 もちろん、大学入試共通テストでボーダーをきっちり越えないといけないわけだけど。

 まあ、亜美ちゃんが教えてくれてるおかげで、成績は上々。 自信ありなわけよ。


 京都に着いたところで、改札を出てキョロキョロと辺りを見回す。


「こっちやでー」

「おーいたいた」


 今日1日お世話になる予定の地元人、月島弥生がそこにいた。

 つい最近まで麻疹で苦しんでいたらしいけど。今は元通り元気みたい。


「いやいや、つい先月『また来年』とか言っておきながらこんな再会が早くなっちゃって。 なんかハズイわね」

「せやな」


 月島さんと合流して、少し歩きながら話をする。

 

「雪村さんは大丈夫やった?」

「亜美ちゃんが言うにはかなり参ってたみたいよ。 今はピンピンしてるけど」

「さよか。 いやー、まさかウチが保菌者になってるとはなー」

「仕方ないわよ」


 バス停でバスを待つ。

 京都の町はよくわからない。 上空から見たら碁盤の目みたいになってるって聞くけど。

 そんな右も左もわからない京都の案内役を買って出てくれたのが月島さんってわけね。 連絡したら2つ返事で快諾してくれたわ。

 修学旅行で来た時もこの駅で弥生と合流したっけ?


「芸大やんな?」

「ええ。 明日オープンキャンパスなのよ」

「了解や。 ウチに任しとき」


 胸をポンっと叩いてアピールする月島さん。 この地では彼女を頼るしかない。

 心強いわね。


「バス来たで。 途中で降りて別路線に乗り換えがあるから覚えときなはれや?」

「いえっさー」


 ということで、スマホにメモリながらバスに乗り込む。


「にしても、月島さんと2人きりって何か新鮮ね」

「せやね。 いつもはあの集団と行動しとるさかいな」

「集団……たしかに多いわよね」

「異常やであの人数は」

「亜美ちゃんとこのグループが麻美も入れて6人でしょ? うちらが3人とも彼氏入れると6人。 そこに渚も入ると合計13人。 異常ね」

「はぇー……とんでもないな」

「もう慣れたけどね。 私達はずっと仲間だもの」

「ええなぁ、そういうの。 せやのに何で皆と離れて京都の大学へ行くんや?」

「私の知り合いにデザイナーやってるお姉さんがいるの。 その人が京都の芸大卒でね。 おすすめしてくれたのよ」

「へぇ。 そういうことかいな。 で、デザイナーって何のデザイナー目指すんや? 色々あるやん?」

「私はキャラクターデザイナー志望よ。 アニメとかゲームのキャラクターデザインをしたりするんだけど、私はマスコットとかぬいぐるみのデザインを手掛けたいって思ってるの」

「ほほぅ、具体的やな」

「まあね。 自分のデザインした可愛いぬいぐるみ達に囲まれるのが夢よ」

「でもデザイナーと製作は別やろ?」

「そうよ。 デザイナーはあくまでもデザインを手掛けるだけ。 実際そのデザインを基に作るのは別の人。 希望ちゃんのハムスターの飼育ゲージ入れてるバッグ。 あれは私がデザインして希望ちゃんが作った物よ。 私の初仕事ね」

「へぇ。 楽しみやな。 神崎さんのデザインしたキャラクターが世に出るの待ってるで」

「ふふん。 すぐに大物デザイナーになってやるわー」

「ちなみに、そのお姉さんって人は?」

「同じキャラクターデザインよ。 若いのにもう独立して自分のアトリエを持ってる凄い人なんだから。 有名なゲームのデザインも手掛けてるわ」

「凄い人が師匠なんやな」

「そゆこと」


 本当に良い人と知り合いになれたものだわ。


「お、ここで一旦降りるで」

「あいよー」

 

 一旦バスを降りて、別の路線のバスに乗り換える。 バス停の名前と乗り換えるバスの路線をメモっておく。


「神崎さん、成績はええ方なん?」

「自慢じゃないけど成績は良いわよ?」


 クラスでも6番目。 学年でも20番以内には入っていたりする。

 まあ、亜美ちゃんと奈央が安定のワンツーなわけだけど。


「そういうそっちはどうなのよ?」

「ウチか? ま、まあ進級出来てる程度にはやで」

「察したわ」


 遥と似たようなレベルって感じかしら。 京都立華はレベル高そうではあるけど。


「亜美ちゃんはどないやのん? アメリカ行った時は英語ペラペラでイタリア語も話しとったで?」


 あ、やっぱり気になるんだ。 ってか知らなかったのねー。


「亜美ちゃんはもう人智を超えてるわよ。 100点しか取れないみたい」

「なんやそれ……あの子、頭も反則なんか」


 月島さんは「何やったらでけへんねん……」と、奈々美みたいな事を言い出す。

 そんな話で時間を潰していると、乗り換えのバスが到着。

 それに乗り込み、目的地となる芸大へ向かう。



 ◆◇◆◇◆◇



 ブロロロ……


 目的地に着いてバスを降りると、目の前が私の目指す芸大であった。


「ここやよ」

「うん」


 今目の前に、私の目指す道のスタート地点がある。

 来年は何としてもこの大学に合格して、夢に向かってスタートを切るのよ。


「……」

「オープンキャンパスは明日やけど、入れるんは入れるで」

「ううん。 明日ゆっくり見学する。 でも実際目で見るとこう、やる気が出てくるわね!」

「それは良かったで。 ほな、この辺ちょっと歩くか? 下見がてら」

「そうね。 案内よろしく」

「任しとき。 京都はウチの庭や」


 何とも心強い事ね。


 月島さんに案内してもらい、大学近くの美味しいお店や、手頃な価格でなんでも揃うお店。

 大学近くの安い部屋まで色々と下見させてもらった。


 一通り周辺の下見を終えた私達は、バスに乗り移動を開始。

 今日は私を泊める為にわざわざ実家へ帰る事にしてくれたらしい。

 ありがたい事である。


「普段は実家には?」

「まあ、そこそこ帰ってはいるで? 近いからな」

「そうなの。 渚は年2回ぐらい帰ってるぐらいよね」

「せやな。 盆と正月やな」

「私はこっちに来たら千葉に帰るのはどれぐらいになるかしらね」

「まあ、来てから考えたらええやん?」

「そうね」


 今考えても仕方ないし、大学合格してこっちに来てから考える事にしよ。


 バスに揺られて15分。

 下車して少し歩き、狭い路地に入ると古い感じの街並みが姿を現す。

 平屋が並ぶ一角に、月島の表札の掛かった家が建っていた。


「立派な家じゃん」

「西條さんの家に比べたら犬小屋みたいなもんやけど」

「あれと比べちゃダメでしょ……」

「せやな。 ほれ、遠慮せんと入りや。 両親には言うてあるさかいな」

「ありがとう」


 お言葉に甘えて、月島家におじゃますることにした。


「ワン! ワン!」

「うわっち」

「おー、アテナ元気やなー」


 そう言えば渚が犬飼ってるって言ってたわね。

 ポメラニアンのメスで名前はアテナ。

 たまに帰ると飛びついてくるとかなんとか。


「よしよし、ええ子やええ子」

「あら、ようお越しなさったねぇ。 狭い家やけど遠慮なくくつろいで行って下さい」

「はい、甘えさせていただきます」


 ぺこりと頭を下げて、家の中へ。

 渚が使っていた部屋に案内してもらうことになった。

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