第348話 遥のデート

 ☆遥視点☆


 今井達が家に来てホワイトデーの返しをして帰ったあと、私は部屋に戻り出掛ける準備を始める。

 着替えや慣れないメイクをして、着飾っていく。


「……服もアクセサリーも皆に選んでもらって、美容院まで……」


 ここまでやってもらって「デート上手くいきませんでした」ってわけにはいかないわな。

 正直まだ自分の気持ちが恋なのかどうかってのはわからないけど、今日のデートなんとか1つの答えを出したいところだ。

 時間は14時30分、待ち合わせは16時。 まだ少し時間があるな。


「そういえば、今井から貰った髪留めも着けないとな」


 袋から出して髪に着け鏡で確認する。

 うむ、中々似合ってるんじゃないだろうか。


「今井にしてはセンス良いじゃないかってのは失礼か」


 ふとスマホに目を向けると、メッセージがいくつか届いていた。

 どれも見知った友人達からだ。


「まったく皆心配症だなぁ」


 内容はどれも「頑張って来い」だの「上手くやんなさい」だの「ホテルヘゴー」だのという応援メッセージばかりだ。


「……わかってんよ」


 皆から勇気を貰って、準備万端。 


「よし……」



 ◆◇◆◇◆◇



 時間は15時半。 そろそろ出発しよう。

 皆から選んでもらったバッグを持って、財布やら何やら……紗希から渡されたこんどーさんとやらも一応入れておく。


「母さん、出掛けてくる。 夕飯は食べてくるから」

「はいよー。 頑張って来なよ我が娘」

「ったく……行ってきます」


 母さんのにまでイジられてしまったが、適当に流して家を出た。 目指すは駅前だ。


「……なんか緊張するな」


 去年最初にイメチェンさせられた後に初めてジムへ行く時も同じぐらい緊張したのを覚えている。

 今では慣れたものだけど、今回のデートは今までにないぐらい女らしく改造されてしまっている。

 神山先輩、今の私を見てどんな反応を見せるだろう? どう思うだろう?

 以前の私の方が私らしいとか言われたりしないだろうか?


「ふ、不安だ……」


 だけど、皆が協力してオシャレにしてくれたんだ。


「自信を持て遥!」


 頬を叩いて、自分に気合を入れる。

 駅前に着いたのは待ち合わせの15分前。 まだ神山先輩は来ていないようだ。

 そういえば今日は大学の合格発表だって言ってったっけか?

 も、もしかして受かってなくてショックで来れないとかじゃ……。

 いやいや、先輩なら受かってるさ。


「……受かってるよな?」


 自分の事じゃないのに、私まで心配になるのだった。

 

「……」


 にしてもさっきから人の視線が気になる。 私は女だてらに身長が高いから、どうしても目立っちまうんだよなぁ。

 しかし、視線はどちらかというと、男性からのものが多いように感じる。

 ふむ……まさか見惚れてるのか?

 などと、思い上がっていた時である。


「蒼井さん?」

「!? はい!」

「あぁ、良かった」


 神山先輩が待ち合わせ場所にやって来た。

 何故か安心したような表情を見せる。


「良かった……?」

「そうそう。 いつもと全然違うから、別人だったらどうしようかと思って声掛けたんだ」


 と、話してくれた。 いつもと全然違う……どうやら、皆の改造作戦は大成功したという事らしい。


「ど、どうです?」

「オシャレでなんていうか綺麗だね。 また友達にやられたの?」

「ま、まあそんなとこです。 今日神山先輩と出掛けるって言ったら、皆張り切っちゃって……」

「ははは、似合ってるし良いんじゃないかな」


 先輩は「はははは」と明るく笑い飛ばしながらそう言った

 なんか妙に明るく取り繕って……はっ?! まさか、大学落ちてたんじゃ?!


「あ、あの先輩」

「なんだい?」

「ま、まだ来年がありますよ! 頑張って夢叶えましょう!」

「んん?」


 ……。


 …………。


「はははは! なるほど、大学落ちたと思ったのか」

「うう、すいません」

「いやいや、気にしててくれたんだな。 ありがとう」


 どうやら、志望の大学には無事に合格出来たらしい。

 近くにある体育大学だったね。

 私のやりたいスポーツインストラクターも、体育大学を出るのが近道である。

 体を動かすのは得意だけど、勉強は苦手な私……ちゃんと大学に受かれるだろうか。


「蒼井さんも将来はスポーツに関わる仕事したいんだっけ?」

「はい」

「じゃあやっぱ体育大学?」

「の、つもりですけど、私頭が悪いから……」

「大丈夫大丈夫。 今からでも間に合うさ。 頑張って」

「は、はい」


 ……よし、頑張るぞ。 頭が悪いぐらいで将来やりたい事が出来なくなってたまるかってんだ。

 目指すは神山先輩が受けた大学。 実家から通えて、頑張れば手の届くレベルの大学はそこしかない。


「さて、そろそろ行こうか。 映画の時間は決まってるから」

「はい」


 映画館のある市内へは電車で3駅走ったところ。 約10分で着く距離だ。

 電車に乗り込んで、空いている席に腰掛ける。


「今日見る映画ってどんなのですか?」

「あー、うん。 恋愛物だよ。 今話題の奴」

「ほう……」


 神山先輩ってそういう作品とか見るんだ。

 私はてっきりカンフー映画とかスポーツ映画とかそう言ったものだと思ってたけど。

 って、どんだけ脳筋だと思ってんだ私は……失礼じゃん。


「蒼井さんはそういうのどう?」

「私はドラマとかではそう言うの視ますね。 映画はそもそも普段あまり行かないですよ。 テレビ放映待つかBlu-ray借りるかです」

「なるほど。 視ないって言われたらどうしようかと」 

「そんなこと言いませんって……」


 神山先輩も案外心配性なんだなー。


「楽しみですねー」

「そうだね」


 今日は珍しく、どちらも筋トレの話やスポーツの話を切り出さない辺り、空気を読んでいるんだろうか?

 そんなことを考えていたら、電車はあっという間に目的地へ到着。 下車して映画館へ向かう。


「それにしても2人して身長高いですよね、私達」

「んーそうだなー。 蒼井さんいくつ?」

「今185です」

「じゃあ僕の方が5cm高いな」


 やっぱり私よりちょっと高いのか。 私が同じ目線の高さで会話できる男性はまあそんなに多くは無い。 貴重な男性である。


「2人並ぶと目立ちますね」

「そうだね」


 話しながら映画館に到着。 だいぶ緊張も解けてきて、いつも通り会話できている。

 変に意識しなければ大丈夫だ。


「あと15分で開始だ。 席は隣で良いよね」

「はい」


 2人で隣の席を確保して、時間まで時間を潰す。 10分前になったのでシアターが開場したため、券を見せて入っていく。 恋愛映画、ホワイトデーということもあってカップル連れの客が多い。

 わ、私達もそういう風に見えるのか?


「カップル多いなー」

「そ、そそ、そうですね」


 うおおおお、意識するんじゃないー。 落ち着け私。


「お、そろそろ始まるみたいだ」

「はは、はい」


 周囲が暗くなり、映画が始まる。

 集中打集中……映画に集中するんだ私。 ゾーンだ、ゾーンに入れ。


「……」

「……?」


 集中して映画を見ることにしたが、これは恋愛映画だという事を失念していた。

 そう、色々とアレなシーンがあるのだという事に、頭が回っていなかったのだ。

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