第304話 小説完成
☆亜美視点☆
お正月である。 希望ちゃんは東北の祖父母の家に行ってしまった。
なので、家の中は私と夕ちゃんだけ。
イチャイチャしても誰も文句を言わない。
今日は2日。 出掛けても特に何も無いし、家でゆっくりしているつもりだ。
そして私は、夕ちゃんとイチャつく事も無く、テレビに釘付けになっている。
そう。 今日と明日は箱根駅伝の日だ。
駅伝を題材にした小説を書いている私は、参考にする為に視聴している。
「……亜美、駅伝に興味あったっけか?」
「んー? 今書いてる小説の題材なんだよ」
「そういやお前、小説書いてるって言ってたな。 音羽奏だっけ? 調べてみたら、凄い作家みたいだな」
「どうなんだろうね。 あれはたまたまヒットしただけだと思ってるよ」
テレビから目を離さずに、夕ちゃんと会話を続ける。
実況解説の話や、コースの雰囲気、選手の表情まで細かいところを見て、気になる事はメモしていく。
現地取材に行く時間なんか無いから、出来る事を出来るレベルでやっていく。
「そんな本格的にやるんだな」
「プロはそれこそ現地取材とかもやってるよ」
「お前、何か楽しそうだな」
夕ちゃんがそう言ったのを聞いて、私は夕ちゃんの方に目を向ける。
たしかに書いてて楽しい。 でも、人から見ても楽しそうに見えるほど、私は楽しそうにしているのだろうか?
「楽しいよ」
笑顔でそう答え、テレビに視線を戻す。
駅伝はまだまだ序盤も序盤。 にも関わらず、先頭数名とそれ以下では結構な差が出来始めていた。
やっぱり、優勝候補と呼ばれるところは強いんだね。
私の作品のそういうチームは、主人公チームを目立たせる為に、少し弱く描き過ぎたかもしれない。
要修正である。
「これは、邪魔しちゃ悪いな」
「……え? 邪魔じゃないよ?」
「そうか? 何ていうか、プロの顔つきしてるから」
「そうかなぁ? まだまだ素人だよ、私」
「それはそうなんだけどな、真剣味ってのかねー。 本気が伝わってくるんだ」
書くからには良い物を書くつもりでいる。
だから真剣にもなっているのだ。
あぁ、そっか……その真剣な姿勢がプロっぽく見えるのか。
「向いてるんじゃねーか? 小説家」
「まだわかんないよ。 でも楽しいし、なってみたいって思えるようになってきたかな」
ようやく、自分のやりたい事を見つけられた。 そんな気がするよ。
奈央ちゃんのお手伝いについても、真剣に考えてはいるつもりだ。
大学を奈央ちゃんと同じとこにして、色々学んで奈央ちゃんの助けになる。 それも悪くないと思う。
◆◇◆◇◆◇
駅伝の1日目を視終えた後、私は部屋に戻ってメモを参考にしながら修正や加筆などを行う。
特に、相手のチームを強く設定し直した事で、色々と直しが増えてしまう。
でも、読み直しながら修正を入れていくのも、これまた楽しい。
カタカタ……
「んー……ここの表現はこっちの方が……」
カタカタ……
陸上部の子に聞いた話しや、先程視た駅伝の内容を思い出しながら、読み直しては修正を繰り返す。
集中して何時間もパソコンに向かっていた。そして……。
カタカタ……
「……で、出来たー……疲れたよぉ〜」
ついに、私の2作目の小説「繋ぐ想い」が完成した。
最後の追い込みは疲れたよ。
締め切りに追われる作家さんって、こんな感じなんだろうか。
一息休憩を入れて、麻美ちゃんに完成の報告をする為に、ゲームにログインする。
「麻美ちゃんなら、どうせゲームやってるだろうし……」
ゲームの世界に入りフレンド欄を開くと、案の定麻美ちゃんのキャラクターの横にログイン中の文字が。
早速フレンドチャットを送る。
「小説完成したよー」
しばらくすると……。
「マジー?! 明日見に行って良い?」
と、返事が返ってきた。
最初に見せる約束もあるしもちろんOKだと返事をすると、麻美ちゃんは大喜びした。
せっかく私もゲームを始めたので、少し一緒に冒険する事したんだけど、気付いたらがっつり夜中まで遊んでいたのだった……。
「亜美姉、強くなったねー。 私は嬉しいよー」
「麻美ちゃんに比べたら、まだまだへなちょこだよ」
ログアウト前に、軽くチャットで会話する私達。
内容は小説の話に発展する。
「麻美ちゃんは、今書いてるの?」
「んー、今はネタ探し中だよー。 近い内に新作書き始めようかなーと思ってるよ」
「麻美ちゃんは、もう編集さんもついてる立派なプロなんだよね?」
「うん。 そだよー。 お仕事で会う時は、ちょっとこの辺から離れた場所で秘密裏にやってるけどね」
「もうプロとして活動してるなら、家族には話しても良くない?」
「そだねー……そろそろ隠すのも大変だし、頃合いかも」
きっと、おじさんもおばさんも、それに奈々ちゃんも応援してくれるはずである。
私も、皆に話す時が来たようだしね。
「亜美姉、新作書いてみてどぉ? プロになる気になったかな?」
そう訊いてくる麻美ちゃん。
私は正直に答える。
「書いてて凄く楽しかったし、夕ちゃんからも向いてるって言われたし。 少し考えてみるよ」
「おー! 決まったら是非是非教えてねー!」
「うん。 わかったよ」
「あ、そろそろ寝るねー! じゃあ明日見に行くからー。 おやすみー」
「うん、おやすみ」
麻美ちゃんがログアウトしたのを見送り、私も寝る為にログアウトする。
麻美ちゃん程では無いにしろ、私もゲームを楽しみつつあるなぁ。
◆◇◆◇◆◇
翌日──
お昼ご飯の後で、麻美ちゃんが家にやって来た。
私は、麻美ちゃんを部屋に招いてパソコンを立ち上げ、例の小説ファイルを開く。
「これだよ」
「ありがとう。 どれどれ……音羽奏の新作はどんなのかなー」
ちょこんと椅子に座り、真剣に読み始める麻美ちゃん。
さすがはプロ。 本に関しては真剣な姿勢を見せている。
黙々とページを送り、吟味するように読み耽る麻美ちゃん。
これは長くなりそうなので、おやつとジュースを用意した。
「これ、良かったらどうぞ」
「ありがとー」
麻美ちゃんの手元におやつとジュースを置くと、早速それをつまみながら、読書を続ける。
そうして、しばらくの間麻美ちゃんの邪魔をしないように、私も適当な本を読み時間を潰していると。
「うっ……ぐすっ……」
「え、麻美ちゃん? どしたの?」
「音羽奏だよぉ……紛れもなく、音羽奏の文章だよぉ……ぐすっ」
そりゃ、私は音羽奏なんだから、それは音羽奏の文章だけど……。
「私、ずっと待ってたんだよ。 音羽奏の復活を。 だから嬉しくてぇ……ぐすっ」
「あ、あはは……ありがと。 それで、どう?」
「ぐすっ……うん、凄く良いと思うよー! 登場人物それぞれに、色々な悩みや問題を抱えながらも、駅伝を通じて乗り越えていく人間ドラマだね。 心情の表現とかも細かいし、絵がなくても人物の表情まで思い浮かぶよ」
と、麻美ちゃんは絶賛してくれた。
ちゃんと、私が伝えたかった事が伝わっているようで安心した。
「亜美姉。 これは世に出すべき作品だよ!」
「あぅ……」
「今度、私が本を出してる出版社で素人作家大賞があるんだよ。 大賞に選ばれた作品には編集がついて、書籍化されるの。 これなら良い線いくよ亜美姉!」
麻美ちゃんは、真剣な表情でそう言った。
正直、まだ少し迷っている。 この作品を世に出すかどうか。
でも、麻美ちゃんがそう言うなら……。 それに、賞を獲れるかどうかもわからないし。
「わかったよ。 応募してみる」
「さっすが亜美姉! じゃあ、この住所宛に原稿を送ってね」
麻美ちゃんは、手早くパソコンに住所や応募要項などを入力してくれた。
「ありがとう。 明日にでも出してくるよ」
「うん! 大賞受賞するといいね!」
「あはは、そうだね」
私の書いた作品が、多くの人に読まれたら良いなぁ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます