第287話 共同生活

 ☆亜美視点☆


 来年の4月、お父さんの転勤が決まったらしく、東京へと引っ越すことになってしまった私と希望ちゃん……だったのだけど、私と希望ちゃんは当然それを拒否。

 もっと何か言われるものだと思っていたら、あっさり承諾されてしまった。

 それどころか先に夕ちゃんに話をつけて、住む家まで確保してあるとのこと。

 完全に両親の掌の上であった。

 私は恥ずかしい秘密まで暴露したというのに……。

 で、今日は12月6日の日曜日。

 夕ちゃんを清水家に招いて夕ご飯をいただいている。

 もちろん、話し合いを兼ねているのは言うまでもない。


「で、夕ちゃんはいつから知ってたの?」

「いや、俺も知ったのは金曜日の夜でなぁ」


 知らない間にお父さんに呼ばれて、知らない間に話しをされていたらしい。

 お父さん恐るべし。


「夕也君は本当に良いのかい? 2人とも預かっても」

「あー、はい。 家の事をやってくれる人がいないと困るし」

「私と希望ちゃんって家事手伝い要員?!」

「夕也くんひどい!」

「いやいや、違う! それもあるが2人が残るって言うなら力になりたいと思っただけだよ」

「……それだけ?」


 私がそう訊くと、恥ずかしそうに言った。


「俺だって、お前達と離れるのは嫌だしな」

「夕也くん……」

「そっかそっか」


 私はそれを訊けて満足するのだった。

 

「それでだな」


 私達のやり取りを傍観していたお父さんが、口を開く。

 そして、これまたびっくりするような事を言い出した。


「早速明日から3人で共同生活を始めてもらうぞぉ」


 しばしの間が空いて……。


「あ、明日からぁ?!」

「はぅーっ! 急過ぎるよぅ!」

「おじさん、それはさすがに……」

「今の内に、3人でちゃんとやれるかを見定めておかんとな。 ダメそうなら考え直さねばならん」

「あぅ……」


 やはり父親としては、娘2人を置いていくのは心配なのだろう。

 それでも、私達の気持ちを優先して、今回のような形を取ってくれたのだ。

 なら、私達もちゃんと大丈夫だよってとこを見せて、安心させてあげないといけない。


「わかったよ。 明日からだね」

「が、頑張るよっ!」

「うむ。 夕也くん。 改めて2人をよろしく頼む」「はい」


 その後は、いつも通りに和気藹々と冗談等を言いながら、時間は過ぎていった。



 ◆◇◆◇◆◇



 翌日──


「共同生活?!」

「うん」

「亜美姉と希望姉が、夕也兄ぃの家に暮らすの?」

「そだよ」


 登校中に、奈々ちゃん達に簡単な説明をする。

 また変な展開になってると、奈々ちゃんは呆れていた。


「にしても、よく残る事を選んだな? 俺達の事を選んでくれたのは良いが、言うて両親だって大切な人だろ?」

「そうだね。 でも、最初から決めてたし。 皆と月ノ木学園を卒業するんだって」

「うんうん」


 卒業後にどうするかは、まだ考えてはいない。

 この街に残るのか、東京へ行くのか。

 それはいずれまた考える時が来る。


「とりあえず、今まで通りなんだよね?」


 麻美ちゃんの問いに、私は頷いた。

 そう、今まで通りだ。


 お昼には、皆にも話をしておいた。

 紗希ちゃんなんかは「良いなぁ! 私も共同生活したいなぁ!」と、羨ましがっていた。



 ◆◇◆◇◆◇



「お疲れー」


 部活を終えて、下校する。

 これから家に戻るのだけど、私は買い出しの為にスーパーへ寄る事に。

 希望ちゃんは先に帰り、掃除や洗濯係だよ。

 家事がてんでダメな夕ちゃんは、私についてきて荷物持ち。

 

「んと、これとこれと……」


 ぽいぽいっと、今日の夕飯の材料を籠に入れていく。

 今日はお鍋だよ、


「共同生活っても、大して今までと大差無いよな。 飯はいつも作りに来てくれるし、家事もやってくれてるし」

「そうだねぇ。 言われてみればたしかに」


 普段から共同生活みたいな事をしていた事に、今更気付くのであった。

 とはいえ、これからはずっと一緒なわけだ。

 朝から晩までずっと……。


「えへー」


 ついつい頰が緩むのだった。


「どうした、ニヤニヤして」

「ううん。 何でもないよー」


 買い物を終えて今井家に帰ってくると、希望ちゃんがせっせと掃除機をかけていた。

 最近は宏ちゃんの家にも掃除や洗濯をしに行っている希望ちゃん。

 無理してなければ良いけど。


「おかえりー」

「ただいまだよー」

「ただいま」


 よくよく見ると、リビングの一角に飼育ケースが鎮座している事に気付いた。

 希望ちゃんの大切なハムちゃん達である。

 どうやら彼等もお引越ししてきたらしい。


「さて、私はいったん帰って着替えてくるね。 その後夕飯の支度するから」

「あいよ」

「はーい」


 着替えも何着かこっちに持って来ておいた方が良さそうだね。

 そう考えた私は、自室のタンスと希望ちゃんの部屋のタンスから、何着か服を見繕い袋に入れていく。


「……部屋の家具どうしよ?」


 主人の居なくなる部屋の家具達を見て、ふとそう思う。

 小さな頃から使っている勉強机やタンス。

 模様変えして可愛らしくなったカーテンやカーペット等、大小様々な家具がある。


「……夕ちゃんに相談してみよう」



 ◆◇◆◇◆◇



「部屋割りかぁ……」

「うん」


 夕飯のお鍋をつつきながら、今井家での部屋割りを決める流れとなった。


「一部屋は春くんが使ってた部屋が空いてるよね?」

「そうだな」


 元は物置みたいなっていた部屋を、去年の夏に春くんがホームステイする際に綺麗に片付けたのだ。

 問題はあと一部屋をどうするか


「はあ……しゃーねー。 ちと親父達に連絡してみる」


 そう言って、電話機の方へ向かった。

 しばらくの間様子を見ていると、電話を切った夕ちゃんが戻ってきた。


「親父達の部屋を好きに使って良いってよ」

「え、良いの? あの部屋使っても?」


 おじさんとおばさんの寝室には、多少家具が残ってはいるものの、ほとんどは海外転勤する際に廃棄してしまっている。

 少し片付けが必要だけど、綺麗にすれば使えるようになるだろう。

 2人がいつ帰ってきても大丈夫なように、いつも最低限の掃除はしているけど、どうやら私達の部屋として使わせてもらえるようだ。


「希望ちゃんはどっちの部屋が良い?」

「どっちでも大丈夫だよー」


 そういう事なら……。


「じゃあ私はおじさん達の部屋を片付けて使うよ」

「じゃあ、私は元物置部屋ね」

「決まりだね。 少しずつ片付けて、家具も家から持って来よう」

「うんっ」


 だんだんと、共同生活が始まるんだっていう実感が湧いてきた。

 いつかは3人で、家を借りて一緒に暮らしたい。

 そう思っていたけど、それがこんな早くに実現するとは思っていなかった。

 少なくとも高校を卒業するまでの間は、この3人で暮らしていくんだ。

 そう思ったら、何だかワクワクしてきた。


 夕飯を食べ終えて片付けを済ませた後は、入浴タイム。

 私は最後に入り、ゆっくりと疲れを取る。

 明日はパソコンを持って来よう。 執筆の続きをしなきゃいけないしね。


「んーっ! これからどんな毎日なるのかなぁ」


 これから始まる共同生活に、思いを馳せる私であった。

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