第267話 幼馴染の間では
☆亜美視点☆
私がバレー部のキャプテンになってから数日後の放課後である。
「はーい! 今日はここまでだよー! ネットとボール片付けて帰ってねー!」
「はいっ!」
キャプテンとしてはまだまだ新米な私だけど、一応部を仕切っている。
「何だかんだやれてるじゃないの」
「いやいや……まだまだだよ」
「気を張らずにいつも通りやってれば良いんですのよ」
「そーそー」
「お堅いキャプテンとか嫌だしなー」
と、2年生メンバー達はフォローしてくれる。
いつも通りだと、私は皆を放ったらかして夕ちゃんのとこへ行っちゃうよ。
「あんた、この後宏太と打ち合わせでしょ? 先に着替えてきたら?」
「うん。 ありがとう」
実はこの後、宏ちゃんと緑風へ行く事になっている。
もちろん浮気とかじゃない。
バスケ部とバレー部の体育館を全面使用する日取りを月毎に打ち合わせなければならないのだ。
普通、こういうのって顧問同士がやる事だと思うんだけど、どちらもお飾りだからねぇ。
「じゃあ、あとよろしくー」
私はお言葉に甘えて、先に上がる事にした。
◆◇◆◇◆◇
「宏ちゃんお待たせー」
着替えを終えて校門前にやってくると、既に宏ちゃんが待っていた。
バスケ部はバレー部より15分ぐらい早く終わっていたし、結構待たせちゃったかも。
「ん、おー。 1時間も待ったぞ! 今日は亜美ちゃんの奢りな」
「嘘ばっかり……嘘ついたから宏ちゃんの奢りだよ」
「悪かったって。 自分持ちな?」
「あはは。 しょうがないなぁ」
とまあ、私と宏ちゃんはこんな感じである。
はたから見れば、多分恋人同士に見える事であろう。
手を繋いだりすれば更にそう見えるだろうけど、さすがの私も宏ちゃんを勘違いさせるような事はしない。
まあ、勘違いなんかしないと思うけど。
「それにしても面倒くさいよな。 こんなもん顧問同士でやれっての」
「あはは。 そうだよね。 前キャプテン達も文句言いながらやってたよ」
「抗議とかしなかったのかねぇ」
「完全にお飾りだからね、うちらの顧問」
その後も、2人でグチグチ言い合いながら緑風を目指す。
「でもまあ、月1で亜美ちゃんと放課後デート出来ると考えりゃ悪くないか」
「うわわ……奈々ちゃんに言いつけるよ?」
「あいつだって今更そんなことで怒らねーよ」
「そうかなぁ? ボコボコにされそうだよ?」
「しねーだろ……。 俺達幼馴染の間で何が起きてもおかしくはないって、あいつはそう思ってるさ」
「……ふーん。 例えば?」
「そうだなー。 例えば急に俺が亜美ちゃんを襲ってしまったりとか?」
「うわぁ……」
「例えばだって言ってんだろ!」
例えばかぁ……。
でも1つ違えば、私と宏ちゃんはそういう関係になっていたかもしれない。
1度とはいえ、苦しみから解放されたい一心で、宏ちゃんに助けを求めた事もあったぐらいだ。
あの時、宏ちゃんが私を受け入れていたらどうなっていたんだろう?
「……」
「どうした?」
「ううん」
「何だ? 例えばになってみたいとかか?」
宏ちゃんは、意地悪そうな顔をしながら訊いてきた。
私に意地悪して楽しんでる顔だ。
「宏ちゃんこそ、私を襲いたいとか思ってたりするんじゃないの?」
だから私は、意地悪な顔でそう返した。
「ふうむ……そりゃ、亜美ちゃんみたいな可愛くてスタイル良くて魅力的な女子、襲いたいと思うに決まってんだろ」
「うわわ……ちょっと引いたよ」
まったく、宏ちゃんはスケベさんなんだから……。
そんなバカをやりながら歩いていると、いつの間に緑風に着いていた。
「ほれほれ、入るよ宏ちゃん」
「あいよ」
先程までの話は無かったかのように、いつも通りに戻る私達なのであった。
◆◇◆◇◆◇
「んむんむ……えーっと、じゃあこの日はバスケ部の練習試合で全面使うんだね?」
「あぁ。 わりぃな」
「別に悪くないよ。 バレー部だって練習試合あるんだし、お互い様だよ。 んむんむ」
私はフルーツパフェを頬張りながら、宏ちゃんと来月の体育館の全面使用日を詰めていた。
来月はお互いに練習試合が組まれているため、1日ずつ全面使用日がある。
明日、部員に通達しないといけないというわけだ。
「んむんむ」
「終わった終わった」
「んむんむ」
「……幸せそうだな」
「そりゃもう……」
「太るぞ」
「んむ……んむんむ。 女子にそういう事言っちゃダメだよ宏ちゃん。 私だから笑って済ますけど、奈々ちゃんだったらボコボコだよ」
「そうなんだよなぁ……」
あぁ、これはやらかしたことあるやつだね。
本当に空気読めないんだから……。
「いやー、亜美ちゃんが彼女だったらもうちょっと平和だったんだろうなー」
「……フッたのは宏ちゃんじゃん」
「最初にフッたのは亜美ちゃんだろー?」
「んー……それはそうだけど」
「それに、去年の夏は亜美ちゃんも切羽詰ってたし、俺の事はそんなに好きでもなかったろ?」
「そんなことはないよ……? 確かに夕ちゃんと希望ちゃんの事で随分参ってたけど、宏ちゃんの事好きじゃなかったらあんな風に付き合ってほしいなんて言わないよ」
「ふむ……じゃあ俺は選択肢を間違えたのかー……」
「あはは。 どうなんだろうね」
なんだかんだ言って、今の関係が一番しっくりくるんだよねぇ。
やっぱり、私と宏ちゃんはこの距離感が良いんだよ。
「なぁ? ちなみにさっきの話だけどな?」
「ん? さっきの話?」
はて、何の話だろうか?
「俺が亜美ちゃんを襲う襲わないの話な」
「まだその話引っ張るんだねぇ? そんなに襲いたいの?」
「いやいや。 俺に襲われたりするの嫌じゃないのか?」
「んー?」
ようするには宏ちゃんと肉体関係になるのが嫌じゃないかどうかってことだよね。
「そうだねぇ……別に嫌じゃないかなぁ? だからってそういう関係になりたいかと言われるとそうでもないけど」
「やっぱ今ぐらいの関係がちょうど良いってか」
「うんうん。 良き幼馴染って感じだね」
「なるほどなぁ」
「でもっさっき宏ちゃんは襲いたいって言ってたね」
「まあ、亜美ちゃん可愛いしなぁ」
「あはは、ありがとう。 そんな機会があればいいねぇ」
「ま、なさそうだけどなぁ」
「わかんないよぉ?」
実際何があるかはわからないものである。
数年後には私と夕ちゃんが別れてて、宏ちゃんと奈々ちゃんも別れてて……私と宏ちゃんがなんてことだって、私達の間ではあり得る。
さっき宏ちゃんも言ってたけど、私達幼馴染の間では何が起きてもおかしくないのだ。
「まぁ、そうなったらそん時は覚悟しとけよー?」
「はいはい」
そんな私と宏ちゃんは、話しを終えて緑風を出る。
辺りは暗くなっていたので、宏ちゃんが家まで送ってくれた。
こういうところは凄く良い男なんだよねぇ。
後はもうちょっと空気が読めれば言う事無しなんだけど。
まぁ、それが宏ちゃんが宏ちゃんたる所以だよね。
「送ってくれてありがとね、宏ちゃん」
「おう。 また明日な」
家の前まで来て宏ちゃんにお礼をする。
宏ちゃんは、手を振って振り返るとそのまま来た道を戻っていく。
「宏ちゃーん。 ちょっと屈んで」
「あん? 何でだ?」
「良いから良いから」
「ふむ……こうか」
「うんうん。 ちゅっ」
送ってくれたお礼にほっぺにチューをプレゼントして上げた。
これぐらいなら安い物である。
「じゃあ、また明日ね」
「おう」
ずっと仲良しの幼馴染でいてね、宏ちゃん。
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