第265話 帰国
☆亜美視点☆
私達日本ユースは、世界選手権を制して、晴れて世界一に輝いた。
閉会式も終えて、私達はホテルに戻りゆっくり休憩中。
特に、希望ちゃんはかなりギリギリの状態だったらしく、シャワーを浴び終えた後は泥のように眠りについた。
「すぅ……すぅ……」
「爆睡ね」
「1セット目からゾーンに入っちゃってたもの、そりゃ疲れるでしょ」
と、奈央ちゃん。
希望ちゃんは、この選手権で大きな成長を遂げていた。
今までも優秀なリベロだったけど、アメリカに来てからは今まで以上に活躍していた。
日本では間違いなく最高のリベロ、世界的に見てももしかしたら……。
「んー……夕也くん……私頑張ったよぅ……むにゃ……」
「……」
「寝言でも夕也の事を呼んでるわよ」
「好きねぇ」
「あ、あはは」
希望ちゃんの夕ちゃん好きは筋金入りだ。
そんなことは良く知っている。
そういえば、奈々ちゃんに訊きたいことがあったんだった……。
「ねぇねぇ奈々ちゃん?」
「ん? 何よ?」
「あの新技は何? いつの間にあんなのを使えるようになったの?」
「あー、あれ? いつって、大会前の合宿の時ね。 練習自体は結構前からしてたんだけど」
「知らなかったなぁ」
奈々ちゃんの新技、跳び上がったあと、空中でいつも以上に腰を横に捻りつつ、大きく背中を反り腰の回転と上体を起こす動作を利用した超パワーパイク。
柔らかい筋肉とボディーバランスを要求されそうな、高等な技だよあれは。
「あんたや弥生、宮下さんには負けてられないからさぁ。 何か武器を持とうと思ってね」
「うんうん。 凄かったよあの威力。 どっちが化け物だか」
「あんたでしょ。 女子歴代最高到達点記録塗り替えちゃってさぁ」
「ほんとそれ」
奈々ちゃんと奈央ちゃんが、呆れた顔をしてそう言った。
試合の後に、号外新聞が早々に出回った。
その新聞には、私が3セット目終盤に跳んだ時の最高到達点の推定値が考察されていたんだけど。
ネットの高さと私の指先の位置と、写真のの角度や縮尺から導き出された私の最高到達点は、推定342cmとなっており、歴代記録を塗り替えている可能性が示唆されていた。
「身長160ちょっとでしょあんた? テナガザルか何かなわけ?」
「人間だよ!」
「実は手が伸びるんでしょ?」
「伸びないよ!?」
とまあ、こんな感じで奈々ちゃんと奈央ちゃんに弄られるのだった。
◆◇◆◇◆◇
時間は経って夕食時。
いつものレストランへ行くと、何やら雰囲気がいつもと違う。
「どうしたんやろうな?」
「うん」
「まあいいじゃない、店はやってるみたいだし入りましょ」
「そやそや。 私腹減ってんねん」
「妹さん頑張ってたもんね」
不思議には思いつつも、皆でレストランの扉を潜ると……。
パンッパンッ!
「はぅっ?!」
「うわわ?!」
店内に入った瞬間に、破裂音のようなものが聞こえてきた。
何事かと思って周囲を見渡してみると、常連さんや店員さんがクラッカー片手に笑顔でこちらを見ていた。
そう、私達の優勝を祝ってくれているのだ。
母国アメリカチームは負けてしまったというのに、なんて寛大な……。
「Congratulations!」
私達は、呆然と立ち尽くしながら日本メンバーと顔を見合わせたあと「Thank you!」と返すのでやっとであった。
どうやらこのお店の人達は、元々アメリカチームの応援をしていたらしいのだけど、大会で小さな私達が活躍している様を見て応援したくなったのだとか。
お店を毎日利用していたのも、理由の1つなのだそうだ。
なんと、今日は優勝祝いのお料理を作ってくれていたらしく、それらをタダで振る舞ってくれると言うのだ。
す、すごい国だよ……。
私達は、せっかくなのでありがたくいただくことにした。
「美味しいー」
「なんや、ええ国やな」
「言葉はさっぱりわかんないけどね!」
宮下さんはもうちょっと英語覚えようね……。
基本の「This is a pen」ですら「ちっすいすえーぺん」と読んでいたことから、壊滅的な英語力であることが窺える。
尚、訳も「ちーっす、えーぺんさん」だった。
「それにしても、世界ってのは凄いもんやね。 あれでまだ私達と同世代の選手なんやろ? ワールドカップやオリンピックの正代表ってどんなレベルなんやろね」
と、眞鍋先輩がそう口にした。
ワールドカップにオリンピックか……。
正直言って、世界選手権で海外の人と対戦するまではさして興味も無かったけど、ミカエラさんやアンジェラさん、それにオリヴィアさんと対戦するうちに、少し興味が湧いてきたのだ。
もし、ここにいる皆でワールドカップやオリンピックを戦えるなら、ぜひ参加したいと思った。
「先輩、その前に日本で倒さなあかんのが目の前におるやんか」
「それもそやね」
と、皆の視線が私達月ノ木学園組に集中する。
今日の友は明日の敵?
この場にいる私達以外の全員が「打倒月ノ木学園」を掲げているのだ。
「覚悟やで月学さん。 春こそぶっ倒したる」
「あの1年ブロッカー潰したんねん」
と、物騒な事を口にするのは大阪銀光の黛姉妹。
「私ももっと強くなんないとねぇ」
宮下さんも私と奈々ちゃんをライバル視しているうちの1人である。
そんな視線を受ける私達だけど、奈々ちゃんがそれを一蹴する。
「ふふん。 かかってきなさい有象無象共! 全校まとめて蹴散らしてくれるわ!」
「うわ、ラスボスみたいなセリフやん……」
こうして私達日本ユースのメンバーは解散となり、各校代表に別れて罵り合うのだった。
◆◇◆◇◆◇
翌日──
「結局、まともに観光も出来なかったわね」
「仕方ないよ、遊びに来たわけじゃないんだから……」
「そうだね」
「なんなら、今度皆で来ましょうよ。 もちろん、遊びにね」
と、奈央ちゃん。
そんな経済的余裕があるのは奈央ちゃんだけだよ……。
「荷物の忘れ物は無いか?」
「はい!」
監督に確認されたので、問題無いことを告げる。
後はバスに乗り込んで空港まで行き、日本行きの飛行機に乗り込むだけである。
バスに乗り込んだ私達は、大会中の事を色々と思い出しながら、話に花を咲かせる。
粗方話を終えた後、次の話題は私と夕ちゃんについての事に移り変わった。
「でで、実際どうなの夕ちゃん君とは」
「宮下さん、興味津々だねぇ……」
「そりゃモチのロン」
「すんごいわよぉ。 週に2、3回はヤッてるって話よ」
「え、週2、3回!? 毎日じゃないんだ!?」
「ま、毎日って……」
「はぅ……」
「若い男女って盛りのついたサルみたいに毎日って聞いてたんだけどなぁ」
「あ、あはは……」
いくら私でもそこまで発情してないよ……。
その後も、根掘り葉掘り聞き出された私は、空港ににつく頃にはくたくたになっていた。
皆、なんで恋人作んないのかな? 皆可愛いのに……。
◆◇◆◇◆◇
長旅を終えて、日本に帰ってきた私達。
新幹線の駅で皆と別れて、千葉へ戻ってくる頃にはもう夕方であった。
見慣れた駅に帰ってくると、もう何か月も帰ってきてないような気さえした。
「やっぱ地元の空気はいいわねぇ」
「うん」
「さっきまで違う国にいたんだよね」
「そうね」
改札を出ると、そこには見慣れた顔が並んでいた。
紗希ちゃんと遥ちゃんである。
「もう、迎はいらないって言ったのに」
「だってさー! 世界一だよ世界一! 早くお祝い言いたいじゃん」
「おめでとう皆!」
「えへへ、ありがと」
せっかくなので、皆で緑風へ行き、プチ祝勝会を行うのだった。
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