第261話 ライバル
☆亜美視点☆
私は、全力最大のジャンプでスパイクを決めた。
空中では、オリヴィアさんが驚いた様な表情を見せていた。
こんな小さな相手に、上を抜かれた経験なんて無いだろうから当然だろう。
「っしゃ! さすがやで亜美ちゃん! やっぱあんさんは世界一や」
「うわわ……」
皆に囲まれて、ポカポカと叩かれる。
1回決めただけなのに……。
宮下さんが結構本気入ってないこれ?
とにかく6ー8でテクニカルタイムアウトだ。
一度ベンチへ戻って1分間のインターバル。
「よーし、中々良いペースだ。 清水、無理はするなよ。 取れるとこは黛姉妹で取っていけ」
「はい」
「月島はさっきみたいに臆せず打て。 お前なら、あのブロックも抜ける」
「はい」
監督さんは、普段あまり頼りにならないけど、大事な場面ではしっかり頼りになる人だ。
まだ2点リード。 あのブロックとパワーが相手となると、まだまだ安心は出来ない。
せめて希望ちゃんがコートに戻って来てくれれば……。
私は、横目に希望ちゃんの様子を伺ってみた。
「ん?」
「あ……」
ゾーン状態が……き、切れてる?
と、とはいえ、素の状態でも希望ちゃんの守備はかなり頼りになる。
「希望ちゃん、疲れは出てない? 大丈夫?」
「うん。 ベンチに戻ってきた時に一旦切り替えたから」
「切り替えた……って?」
「うん」
まさか希望ちゃんも、自分からゾーンに入れるようになったりしたのかな?
「ははは……そかそか。 なるほど」
「コートに入ったら、ちゃんと集中するから安心してね」
「うん」
タイムアウトは終わり、コートへ向かう。
そのまま2点リードを死守しつつ、第1セットをもぎ取る事に成功した。
希望ちゃんの安定感が抜群で、今日は落とさないんじゃないかと思える程だ。
失点の主な要因は、オリヴィアさんのブロックや、ブロックアウトプレー。
後ろに抜かれた攻撃は、全部希望ちゃんが拾っているのだ。
ベンチに戻った時はリラックスモードに切り替えているようで、消耗もそこまで激しくはない。
こうなってくると、攻撃面をもう少し何とかしないといけない。
今のところは、私の全力のジャンプと、黛姉妹を使った揺さぶりで点を取れてはいるものの、私は1試合通じて全力では跳べないし、黛姉妹の連携も少しずつ対応し始めている。
もう1枚……通せるカードが欲しい。
「ウチがやらなあかんのに、なんやすまんな」
今日はまだ、オリヴィアさんに勝てていない弥生ちゃんが口を開く。
「まだまだわかんないわよ。 調子は良さそうじゃない」
「せやねんけどなぁ。 実際は完全にシャットアウトされとるわけやし」
「私と奈々美はまだ温存ですので、あと1セットは意地でも取ってくださいね」
奈央ちゃんがそう言った。
切り札なのだそうだ。
勝負を一気に決めたい時に出て来るのだろう。
一体何があるのかは、私達は知らされていない。
「ライバルが世界一の壁を越えたんや……ウチかて負けてられんわ」
「弥生ちゃん……」
「その意気だ。 2セット目は月島の攻撃が肝だ。 頼むぞ月島」
「はい!」
そして2セット目が始まる。
私達スタメンは、コートに入ってポジションにつく。
「んん?」
何やらオリヴィアさんが、私の方をずっと見ている。
どうやら彼女も負けず嫌いなようだ。
私に対抗心を燃やしているようだけど、日本チームのOHは私だけじゃない。
私にばかり気を取られていたら、弥生ちゃんと黛のお姉さんが、どんどん点を取っちゃうよ。
「妹ナイスサーブ」
2セット目は日本サーブから開始。
黛の妹さんからだ。
「よっ!」
ジャンプフローターサーブで、相手守備を崩す作戦だが、1セット目からこのフローターサーブは完璧に対処されている。
かなり練習してきたのだろう。
今回もリベロが上手く拾っている。
綺麗にボールが上がったため、セッターも余裕を持って落下点に入り、ジャンピングバックトスを上げてきた。
その先にはオリヴィアさんが待ち構えている。
「止めるよ! せーの!」
倉橋先輩と一緒にブロックに跳ぶも──。
パァンッ!
ブロックアウトにされてしまう。
「一々上手いMBね。 OHなんじゃないのあれ」
「あはは……」
1セット目の中盤ぐらいから顕著になってきたのだけど、オリヴィアさんはスパイクの際、明らかにブロックの手に当てアウトを取る方針に切り替えてきた。
それが狙って出来るだけの技術を持っている選手だという事にもなる。
多分、希望ちゃんにただならぬプレッシャーを感じて、そういう方向に切り替えたのだ。
希望ちゃんには触らせないという事だろう。
「サーブ来るわよ」
アメリカサーブは、希望ちゃんが安定して拾ってくれている。
今の希望ちゃんの守備範囲は相当広いようだ。
レシーバーの時はボールがサーブされた瞬間には走り出している。
どんな目と反射神経しているんだろう。
「ほいっ」
黛妹さんのトスに合わせて跳ぶのは、私と弥生ちゃん、そして倉橋さんだ。
オリヴィアさんは私について来ている。
ダメだよ、私にばかり気を取られてちゃ。
「こっちやで!」
スパァン!
弥生ちゃんの方へ上がったトスを、力一杯に振り抜き、ブロック2枚を貫通した。
「あんさんらじゃ話にならんわ。 ウチを止めたかったら、オリヴィアがおらなあかんで」
と、明らかに挑発しているが、言葉が通じないので特に何も起きなかった。
とはいえ、名前を呼ばれたオリヴィアさんは反応を示したため、弥生ちゃんの方を向いた。
そして弥生ちゃんは、そのオリヴィアを見て──。
「かもーん」
と、挑発をするのだった。
オリヴィアさんはというと、冷静に「フッ」と鼻で笑う仕草で返す。
まるで「貴女との格付けはとっくに終わった」と言わんばかりの余裕の態度である。
「は、鼻で笑いよってからに……」
挑発を仕掛けた弥生ちゃんが、逆に挑発し返されて怒ってしまう。
何やってるんだか……。
そんな光景を見ながら、サーブを開始する。
真っ直ぐセッターの元へ運び拾わせる。
このチームは、正セッター以外はあまりトスが上手くない。
正セッターさえ封じてしまえば、攻撃力は幾分抑えられる可能性がある。
「返ってくるよ。 オリヴィアさんについて!」
「はいよ! せーの!」
弥生ちゃんと倉橋先輩がブロックに跳ぶが、やはりブロックアウトを狙ってくるオリヴィアさん。
タタタタ……
またブロックアウトかと思った矢先に、目の前を猛スピードで駆ける影が通り過ぎた。
「の、希望ちゃん?!」
気付いた時には、ダイビングして目一杯に腕を伸ばしていた。
拾う気だ。
「妹さん! セットアップの準備!」
「ほいよっ」
希望ちゃんは、ギリギリでアウトになるボールを拾い、しかも完璧に黛妹さんの頭上に上げてみせた。
鳥肌が立つ程のスーパープレーだ。
決まったと思ったオリヴィアさんも、目を見開いている。
「ほれっ!」
黛妹さんがトスを上げたのは、弥生ちゃん。
我に返ったオリヴィアさんも、ブロックの準備に入っている。
「来た来た! 勝負やオリヴィア!」
弥生ちゃんの目がギラギラとしている。
純粋に勝負を楽しむような、そんな目だ。
「ウチのライバルが先に行ってもうたんや! 置いてかれるわけにはいかんねん!」
弥生ちゃんは、高々と跳び上がった。
「世界一は譲ってもうたけど、世界二はウチがもらうで! 踏み台になりや!」
パァンッ!!
弥生ちゃんのスパイクは、オリヴィアさんのブロックした手を弾き、大きくコート外へ飛んで行った。
「っしゃぁぁぁっ!!」
弥生ちゃんの歓喜の咆哮が、コート内に響き渡るのであった。
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