第209話 気持ちを伝える事
☆亜美視点☆
今日は、紗希ちゃん、柏原君と一緒に勉強することになっている。
せっかくなので皆に声をかけてみた結果、奈央ちゃんの家で集まってやろうという事になった。
確かに、それだけの人数が集まるなら図書館だと迷惑になりかねない。
参加者は2年生皆と、麻美ちゃんと渚ちゃんの1年生2人。
つまりフルメンバーである。
私は基本的に柏原君のサポートをするつもりだけど、彼の成績なら私に頼らなくても問題ないかもしれない。
ただ、これ以上成績が落ちると、紗希ちゃんと別れさせられかねないという状況。
私としてもそんなことにはさせたくないので、2人の為に一肌も二肌も脱ぐよ。
私達いつもの6人は、一度駅前に集合して渚ちゃんを回収してから奈央ちゃんの家へ向かう。
紗希ちゃん、遥ちゃん、柏原君は先に奈央ちゃんの家に向かっている。
「想像は出来てると思うけど、奈央ちゃんの家凄いからね?」
まだ奈央ちゃんの家に行ったことのない麻美ちゃんと渚ちゃんに、ちゃんと先に教えてあげる。
「想像以上かもしれないから覚悟しときます」
「そうだね!」
そうして、奈央ちゃんの家の前にやって来た私達。
「はぇー……」
「あ、ありえへんやろ……」
「だから言ったじゃない」
案の定、呆然としていた。
先に忠告しておいてこれだから、何も言ってなかったら泡吹いて倒れてたんじゃないかな?
インターホンを鳴らすと、奈央ちゃんの部屋に繋いでくれて、少し待つと奈央ちゃんが迎えに来てくれた。
「いらっしゃい。 柏原君達はもう勉強始めてるわよ」
「うん」
私達も急いで奈央ちゃんの部屋へ向かう。
奈央ちゃんの部屋に着くと、その広さに後輩達が目を回していた。
さらに3万円のクッションでトドメ。
「あ、亜美ちゃん。 今日はありがとう」
「ううん。 2人の為だからね」
「助かるよ」
「私で役に立てるかどうか……」
「亜美ちゃんなら余裕だよ」
希望ちゃんにそう言われるけど、私ってそんなパーフェクト人間じゃないよ?
虹高のレベルがどうかは知らないけど、私でもなんとかなればいいけど。
私は、自分の勉強用の参考書や問題集を並べつつ柏原君の隣に座り、更に反対側の隣に宏ちゃんを座らせる。
せっかくなので、私達の中で一番の問題児である宏ちゃんも一緒にということだ。
「柏原君も宏ちゃんも、わからないところは遠慮なく聞いてね」
「私も亜美ちゃんにはいつも負けてるけど、成績は良いから聞いてね」
と、奈央ちゃんも皆に向かって言ってくれた。
今日は私と奈央ちゃんのダブルかてきょーだ。
私としてもこれは助かる。
皆、黙々と勉強中。
「清水さん、これなんだけど」
「うん?」
しばらくすると、柏原君が私にわからない問題を訊いてきた。
うんうん、聞くは一時の恥ってやつだよ。
「これね」
月学ではまだここまで進んではいないね。 やっぱり有数の進学校だけあってペースが速いみたいだ。
「これは一見してややこしく見える式だけど、これをこういう風にすれば──」
「おお、これは見たことある形に……」
「うんうん。 応用問題だねぇ」
「凄い……こんなの私達習ってないじゃん。 亜美ちゃんなんでそれが出来るの?」
と、信じられないものでも見るかのように紗希ちゃんが驚く。
「私はまあ……参考書とか問題集ひたすら見てるから」
「それでも凄いって……」
それを言ったら奈央ちゃんだって凄いと思う。
多分英才教育を受けてきたんだろうけど……今は部活とかもやってて時間があるのかわからないけど。
「またわからない事あったら訊いてね」
「ありがとう」
そうしてまた自分の勉強に戻る。
それにしても、この分なら成績が下がったって言っても微々たる物のはず。
虹高ってそんなに成績主義なのだろうか?
私には合わなさそうだ。
この日は、皆でみっちりと勉強に励んだ。
最近は、宏ちゃんも復習したりしているのか、パッと見た感じ不安は無さそうだ。
さすがに懲りたのかな?
◆◇◆◇◆◇
私達は夕方には解散し、それぞれの家に戻った。
と言っても、渚ちゃんは私達について来て夕ちゃんの家に来ているのだけど。
今は、今井家のキッチンで夕飯の準備中。
渚ちゃんも、随分手際が良くなった。
「それにしても清水先輩、バレーだけやなくて勉強まで完璧なんですね?」
「渚ちゃんそうじゃなくて、あらゆる事柄が完璧なんだよ」
すぐさま、希望ちゃんが訂正を入れる。
「またそうやって人を化け物みたいに……」
「でも、ほんまに色々完璧やないですか? スポーツ、勉学、家事、容姿も」
「んー、容姿は希望ちゃんや渚ちゃんだって……」
というか、私の周りの子達は皆一定水準以上の容姿をしていると思うけど。
それこそ希望ちゃんは私より可愛いし、奈々ちゃんは私より美人だし。
「私はそないな事ありませんよ……」
「渚ちゃんは可愛いと思うよ? モテるでしょ?」
「ど、どうなんでしょう……」
人気あると思うけどなぁ。
と、そういえば。
「渚ちゃんさ、夕ちゃんの事気になってるって本当?」
「へっ?! な、なんでそんな事を?! そんな素振り見せてました?!」
顔を赤くして狼狽る渚ちゃん。
とても可愛い。
「修学旅行で京都へ行った時に、月島さん……渚ちゃんのお姉さんが、そうなんじゃないかって言ってたんだよ。 電話してきたと思ったら夕也くんの話ばっかりだったって」
「~っ」
渚ちゃんは更に顔を赤くしながら小さな声で「お姉ちゃんのアホ」と呟くのだった。
「で、告白とかしないの?」
「す、するわけないやないですか?! 今井先輩は清水先輩の彼氏なんですから」
「まあそうだけど」
んふー、改まって言われると凄く嬉しいねぇ。
じゃなくて。
「でもやっぱり気持ちは伝えた方が良いよ?」
「そうだよぅ」
麻美ちゃんもだけど、夕ちゃんの事を最初から諦めてる節があるんだよね。
「そう言われましても、フラれるんわかってて告白するのはやっぱ嫌というか……」
「それは……」
これに対して、夕ちゃんの彼女である私が何を言っても勝者の余裕にしか聞こえないかもしれない。
「そもそも、夕ちゃんの事をなんで好きに」
とりあえず話題を少し変えてみる。
「入学式の日、正門前で麻美と話してるのを見てて……かっこええ人やなぁっと……」
またまた顔が赤くなる。
なんて初々しい。 お姉さんの弥生ちゃんはどちらかと言うと厚かましいというか何というか……。
顔は似てるけど、性格は違うんだね。
「一目惚れってこと?」
希望ちゃんがそう訊くと、渚ちゃんは小さく頷く。
可愛い。
「フラれちゃうかもしれないけど、せっかく好きになった気持ちを気付いてもらえないままって悔しくない?」
「え……」
希望ちゃんが、真剣な顔でそう言った。
「私もね、夕也くんに長い間片想いしてて、告白したのだって去年の夏だったんだよ。 その間、色々アピールもしてみたけど、夕也くん全然気付いてくれてなかったみたいで、悔しかったよ」
「……」
希望ちゃんは、自分の経験を元にそうアドバイスする。
私はそんな希望ちゃんから、夕ちゃんを奪っちゃったんだね。
胸がズキズキと痛む。
何か、償いをしないといけないかもしれない。
「……少し、考えてみます」
「うん。 フラれるってわかってるなら、むしろ開き直ってガツンと行っちゃえばいいんだよぅ」
希望ちゃん、他人事だと思ってめちゃくちゃ言ってないこれ?
さて、どうするかは渚ちゃん次第。
あと、麻美ちゃん。
あの子は小さな頃から夕ちゃんにべったり懐いてたっけ。
麻美ちゃんが、夕ちゃんを好きなのも知っていた。
いつの間にか、あきらめ諦めてしまっている事も。
恋愛って難しいね。
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