第201話 嵐山観光

 ☆奈々美視点☆


 てなわけで私達は、バスと電車を乗り継いで嵐山へとやってきた。

 お昼をどうしようかと話していると、弥生が良いお店を知っていると言うのでそこで食べることに。


「こっちやで」

「おお」


 皆で弥生について行く。

 そこはうどんが美味しいらしい、楽しみね。


「と、その前に。 あれが渡月橋や。 テレビとかで良く見る角度はあの辺から見た角度やな」

「じゃあ、あとでそこに立って写真撮りましょー」


 紗希の提案には皆が賛成する。

 昨日今日で、随分と写真が増えたわね。 皆との思い出が増えるのは良い事だわ。


「せやけど、ウチが写真に入っとってほんまにええの?」

「良いの良いの。 気にしない気にしない」

「紗希の言う通り。 コート内では敵同士でも、コートを出たら友達よ」


 紗希と奈央のその言葉を聞いて、少し顔を赤くした弥生は「よ、ようそんな恥ずかしい事言えるわ」と、平静を装っていた。


 弥生オススメのお店に到着し、席に座る。

 通されたのは2階のお座敷。

 窓からは大きな川が流れているのが見える。


「桂川やで」

「へぇ」


 と言われてもあまりピンと来ないけど。

 さて、お品書きに目を通すと、確かにうどんがオススメのようだ。

 私は無難にきつねうどんを選択。

 他の皆も注文が決まったようで、店員さんを読んで注文を終えた。

 

「ほんで、実際のとこ亜美ちゃんと夕ちゃんはどないやの?」

「どないやのって訊かれても、順調だよとしか返せないよ?」

「そんなん見たらわかるわ。 どれくらいラブラブなんや」

「ラブラブって……」


 亜美は少し困った様に、頬を掻きながら苦笑いしている。

 しょうがないわね、まったく。


「話によると、週に2、3回は営んでるらしいわよ」

「な、奈々ちゃん?!」

「ほうほう、それは中々」


 弥生は亜美ちゃんと夕也を交互に見やり「家族計画はしっかり立てなあかんでぇ」と、ニヤニヤしながら言った。


「雪村さんはどないなん? まだ諦めてへんの?」

「う、うん一応は頑張ってみるつもり」


 とは言うものの、あまり自信は無いように見える。

 夕也はその辺の事を、どう思ってるのかしら?

 希望の前で訊くのは、少し憚られるわね。


「夕ちゃんは雪村さんの事はどう考えとるん?」


 そう考えた矢先に、弥生が遠慮無しにぶっ込んだ。


「弥生、貴女ね……」

「あ、まずかった?」


 私は小さく頷く。

 しかし、こうなってしまった以上は仕方ない。

 希望を始め、私や皆が夕也に注目する。


「希望の事は、今でも大事だよ。 それは一生変わらない」

「……夕也くん」

「希望が諦めたく無い、それでも辛く無いって言うなら、側にいて欲しいよ」

「うん、ずっと諦めない。 ずっと側にいる」


 希望は、力強くそう宣言した。

 亜美はそんな2人のやり取り、満足そうに眺める。

 この子は、何を考えているのかしらね。


「あー、なんだかお腹一杯だわー」

「うどん食べられるかしら」


 甘ったるい話を聞かされた、奈央と紗希の反応がこれである。

 話を振った弥生も、このやり取りには困り顔。

 イジる気を無くした様だ。

 そうこうしていると、注文していうどんが運ばれてきた。

 出汁の良い匂いが鼻腔をくすぐる、


「美味しそうね」

「美味しそうやなくて美味しいんや」

「わ、わかったわよ……いただきます」


 手を合わせてから、ゆっくりとうどんを啜る。

 うん、コシが強くて食べ応えあるわね。

 出汁もあっさりしてて食べやすい。

 七味を足してもう一口。


「うん、イケるわね」

「美味しい!」

「へぇ、こんな店があったのね。 リストアップしときましょ」


 皆の舌も満足の逸品のようだ。

 弥生は「せやろ!」と、何故か踏ん反り返っていた。

 貴女が作ったわけじゃないでしょうに。


「んむんむ、そうだ。 弥生ちゃんはどうなの?」

「何の話や?」

「色恋ごと」


 亜美がそう言うて、皆は箸を止めて興味津々で弥生を見つめる。


「あらへんあらへん! 女子校やと中々出会いなんかあらへんで。 部活に勉強、おまけに寮暮らしやしな」

「何よ、月島さん可愛いのに勿体ないわねー」


 奈央の言う通り、弥生は見た目が亜美にどことなく似ている。

 可愛いのだ。

 恐らくは、出るとこに出ればモテるだろう。


「いやいや、ウチはまだ今のところはいらんよ」

「そーなの? 彼氏いると楽しいよー?」


 紗希がうどんを啜りながら言うと、弥生は「一応昔はおったから、わかってはいるんや」と応えた。


「へー、いたんだ? なんで別れたの?」

「寝取られたんや。 雪村さんと同じや」

「ね、寝取りって言わないでよ……」


 な、生々しいわねぇ。

 男子2人は、あまりの内容に呆然としている。

 弥生は、話題を変える。


「色恋で思い出したわ。 夕ちゃん。 渚になんかしたん?」

「はい? 別に何もしてないと思うが……」


 夕也は、思い当たる節が無いといった様子。

 まさかとは思うけど……。


「さよかー。 なんやあの子、電話してきた思うたら、あんさんの話ばっかりやねん。 多分ホレとるんちゃうかなーと」

「な、なんだって? あの子、俺の前では割りかし普通だぞ」

「ふーん……渚ちゃんねー……夕ちゃんの浮気者」

「だからしてねーよ!?」


 その辺は亜美もわかっているので、けらけら笑い飛ばしている。

 それにしても、やっぱりそうだったのね。

 部活中チラチラとバスケ部の方を見てたから、そうだろうとは薄々思ってたのよね。


「渚ちゃんも希望ちゃんも、まとめて蹴散らしちゃうよ」

「渚もえらいのを敵に回したもんやで」


 もうあの子は、諦めちゃってるんじゃないかしら。

 麻美と同じで、亜美や希望には敵わないって考えて

……。

 実際、その通りなんだけどもね。

 アタックもしないで諦めるのは、少し勿体ない気はするわ。



 ◆◇◆◇◆◇



 昼食を終えた私達は、嵐山の観光を始める。

 亜美と奈央の予定では、ここで時間一杯使うらしい。


「弥生は寮の門限とか大丈夫なわけ?」

「ん? 大丈夫やで。 一応申請すれば20時まではセーフやねん」

「結構緩いのね、京都立華」

「寮暮らし憧れるなぁ」


 遥がそんな事を言うと弥生は──。


「さほどええもんやないで。 2人1部屋で使うからプライベートも何も無いわ、隣の部屋の声まで丸聞こえやわ」

「うへー、それは私嫌だなー」


 紗希が漏らす。 私も嫌ね。

 

「ほな、まずは渡月橋をバックに撮影といこか」

「この景色、テレビで見たことあるな」

「本当だね!」


 たしかにテレビで見る嵐山は、だいたいこの風景ね。

 私達は毎度のように、近くの観光客に頼み写真撮影。

 嵐山観光のスタートである。


「じゃあまずは、竹林の小径ちくりんのこみちへ行こう」

「お、ええチョイスやな。 それやったらこっちやで」

「あ、やっぱり月島さんが仕切るのね……」


 奈央がボソッと呟いたけど、弥生は無視してズンズン先に行ってしまう。

 妹さんはあんなんなのに、姉はこんなんなのね。

 うちもだけど、姉妹ってに無いのかしら。


「で、その竹のなんんたらってのはどんなとこなんだ?」

「佐々木、竹林の──なんだっけ」

「竹林の小径だってば……」


 宏太と遥のボケに、紗希が冷静にツッコミを入れる。


「まあ、行ってからのお楽しみや」


 と、弥生。

 亜美と奈央がチョイスしたスポットだし、まあ安心よね。

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