第199話 観光2日目

 ☆希望視点☆


 今朝は、夕也くんと奈々美ちゃんの浮気騒動でドタバタして大変だった。

 まったく、紛らわしいことをするんだから。

 紗希ちゃんもすぐに騒いじゃうし、困ったものだよ(責任転嫁)


 館内放送で、朝食の時間を知らされた私達は、大広間へ向かい朝食。

 クラスに分かれつつ、班ごとに集まる。

 学校の席順で班を決められているので──。


「……んむ」


 私は皆から孤立してしまっている。

 清水姓なら皆と一緒になれるんだけどなぁ。

 とはいえ、結婚するまでは雪村の姓でいるつもりなのだけど。


「(この分だと、一生雪村かなぁ)」


 と、少々弱気になってしまうのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 朝食の後は、昨日と同じで1日自由行動。

 ただし、修学旅行なので遊ぶわけにはいかない。

 何処で教師達が目を光らせているかわからないので、ゲームセンターや映画館なんかには入らない方が良い。

 そういえば、月島さんと合流するらしいけど、他校の生徒と歩いているのがバレたらどうなるんだろう?

 少々心配だ。


「よし、じゃあ2日目いってみよー!」

「わーい」

「ぱふぱふー」


 私達の班は、謎のテンションで盛り上がっていた。

 という事で、私達は旅館を後にして2日目の観光を開始した。


「弥生ちゃんとは、京都駅で合流だよ」

「じゃー、まずはバスで京都駅ね」


 昨日も観光スケジュールを考えてくれていた、亜美ちゃんと奈央ちゃん。

 頼りになる。


「初めて来る京都でも、スムーズに観光出来るのはあんた達のおかげよね」

「そうだよなぁ」


 奈々美ちゃんと遥ちゃんに同意見だ。

 この2人がいなかったら、どれだけグダグタになっていただろう。


「本当に便利機能付き幼馴染だな」

「本当になぁ」


 と、男子2人は失礼な事を言っていた。


「まるで便利アイテムみたいに……それと、彼女だよ!」


 夕也くんが言った「幼馴染」の部分に反応したようだ。

 微笑ましいやりとりだよ。


 バスに乗り、20分程で京都駅へ到着。

 バスを降りると、月島さんが腕を組んで、壁にもたれかかって待っていた。


「弥生ちゃん、お待たせ」

「お、来よったな月学御一行はん。 お、夕ちゃん会いたかったでぇ」


 と、凄く馴れ馴れしく夕也くんの手を取る月島さん。

 それを見て、亜美ちゃんが黒いオーラを出しているのを、私達は見てしまった。


「ちょちょ! 冗談やん! ちょいと亜美ちゃんを困らせたろうと思うただけやん!」

「むぅ」


 どうやら、亜美ちゃんと夕也くんがお付き合いしてる事は伝わっているようだ。


「あはは! 弥生、良いキャラしてるわあんた。 ただのバレー馬鹿だと思ってたのに」

「ウチかて女子高生やで? バレーボールだけの青春なんかごめんやわ。 っと、バス来よったで。 金閣さん行くんやろ?」

「おう。 これに乗れば良いのか?」


 1台のバスが停車した。

 どうやらこれに乗れば、金閣寺へ行けるらしい。

 私達は、ぞろぞろと乗り込んだ。


 バスの中は、観光客で混雑している。

 さ、さすが金閣寺。 大人気のようだよ。


「金閣寺までは、どれくらいで着くのよー」

「金閣寺道まで大体30分やね」

「うげー」


 それを聞いた紗希ちゃんが、早くも根を上げる。

 まあ確かに、かなり窮屈だしね。

 でも、ラッキーなことに夕也くんとくっついていられるので、私はしばらくこのままでも良いかな。

 これは、恋占いの石と音羽の瀧のご利益が早速出ているのかな?


「希望ー、胸当たるー」

「はぅ……声に出さないでよぅ。 夕也くんのバカ」

「夕ちゃんはデリカシーあらへんなー」

「ほっとけ」


 何故か、夕也くんと月島さんは長年一緒にいるかのようなノリを見せる。

 月島さんがあんなキャラだから接しやすいんだね。


「ちょっと、2人仲良すぎない?」


 亜美ちゃんもそれは感じたらしく、月島さんを牽制している。

 月島さんは「別にええやんかー」と、気にした様子は無い。

 多分、月島さんは夕也くんの事をそういう風には見てないのだろう。

 途中のバス停で、乗客が少し減り楽になった。


「そや、渚はどない? ちゃんと友達とかおるんやろか?」


 と、話題を妹さんの渚ちゃんの事に変えてきた。

 亜美ちゃんが応える。


「友達はいるみたいだよ。 奈々ちゃんの妹とは仲良くしてるし、部活の同級生とも仲良くやってるからね。 たまに夕ちゃんの家に料理教わりに来るし頑張り屋さんだね」


 と、亜美ちゃんの話を聞いて安心したのか、月島さんは「さよか、それならええねん」と、言った。


「ほんま頑張り屋な子やからな、渚は。 改めて、あの子の事頼むわ。 インターハイで会えるの楽しみやで」

「お任せあれだよ」


 ポンッと胸を叩いて、亜美ちゃんが応えるのだった。


 ◆◇◆◇◆◇


 バスは金閣寺道というバス停に到着し、私達は降車した。


「ここから歩いてすぐや。 この後は何処行くんや?」

「銀閣寺よ」

「銀閣さんか。 ほなタクシーで行った方が早いんやけどどないする?」


 亜美ちゃんと奈央ちゃんが予定を立てているので、2人にお任せする事に。


「うん、元々タクシーで行く予定だったよ。 3台になるけど」

「せやね。 ほなバスの時間は気にせんでええな。 ほな金閣さん行こか」


 と、他校生である月島さんが仕切って先に行ってしまった。

 地元の人だけに頼もしい。

 私達は、苦笑いしながらその後に続くのだった。

 5分程歩いて行くと、境内に到着。


「おおー金閣寺だー」

「教科書でしか見た事無かったけど、本当に金ぴかなのね」

「2層と3層だけやけどな。 屋根の鳳凰像も見どころやで。 今日は天気もええし、鏡湖池に金閣さん映り込んでるんとちゃう?」


 皆、金ぴかの建物に興奮している。 奈央ちゃんは「欲しいわね、あれ」とか恐ろしい事を口走っていたけれど……。


「ほな見て回ろか? まずは庫裏くりやな」

「それは何?」


 興味津々に紗希ちゃんが訊く。

 ここは月島さんにお任せして。


「昔は台所やったらしいで? 今は事務所とかになっとるんやけどな」

「何かよくわからないけど、任せよう!」


 紗希ちゃんは、全面的に月島さんに任せる事にしたらしい。

 ということで、月島さんの案内の下、庫裏という建物にやって来た。

 中に入ると、土間や板の間がある。


「写経もできるんやけど、ちょいと時間掛かるんや。 どないする?」

「うーん、写経は予定してなかったね」

「はいはい! 写経って何?」


 紗希ちゃんが元気よく質問すると、亜美ちゃんが簡単に答えてくれる。


「お経を写すんだよ。 筆で」

「うーん、それはいっかなー」


 他の皆も時間を考えると、ということでパス。 庫裏を一通り見終える。


「ほな方丈行こか? いわゆる本堂や。 まあ今日は中は見れへんけどな」

「あぅ、そうなんだ……」


 亜美ちゃんはちょっと残念そう。

 そうそう見れる機会があるわけでは無いと言う。


「せやけど、陸舟の松りくしゅうのまつとかも十分見どころあるんやで? そう落ち込まんでええよ」

「うん」


 月島さんの言葉を聞いて、すぐに気を取り直す亜美ちゃん。

 まだまだ金閣寺巡りは続くよ。


 

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