第185話 ボクシング観戦
☆遥視点☆
皆に着せ替え人形にされた後は、皆に見送られて待ち合わせ場所へ向かう。
「うー……歩きにくいし恥ずかしい」
周りは私の事を知らない人ばかりだから、気にすることは無いんだろうけど。
こんなを見たらあの人はどういう反応すんだろ?
いつも筋トレばかりしてる女子高生が……。
「はぁ」
どうやら先に待ち合わせ場所に着いてしまったようだ。
周りの目が痛い……。
こんなデカ女がワンピースなんか着てオシャレなんかして。
か、帰りたい……。
「蒼井さん?」
「はい!」
急に声を掛けられて、上ずった声を上げてしまう。
振り向くと、憧れのお兄さん
これだけ見た目変わっててもわかるものなのか?
「こ、こんばんわ! 今日は誘っていただきありがとうございます」
「蒼井さんはボクシング好きだって前言ってたしね。 他のお客さんはあんまり見ないみたいだから」
「あ、あはは……女がボクシング観るとかどうなんですかね?」
「良いんじゃないかな? 好きな物なんて人それぞれだよ」
私達は電車に乗り、試合が行われる会場へ向かった。
「神山さんはよくボクシング観るんですか?」
「ははは、そうだね。 良く観るよ。 今日の挑戦者は日本人なんだけど、デビューの頃から応援してるんだ」
「川原ですよね挑戦者。 私は新人王ぐらいからですかね」
電車の中でボクシングトークが弾む。
やっぱり趣味が合う人との話は楽しいものだね。
紗希とかにこんな話しても「人間同士が殴り合ってるの見て何が楽しいのよー」と、一蹴されてしまう。
今井と佐々木も、格闘技の話には今一つ食い付きが悪い。
程なくして、電車は目的地へ到着した。
ここからはしばらく徒歩になる。
途中のレストランで、夕食タイムだ。
「今日は奢るよ」
「いえいえ! そんな悪いですから割り勘で良いです」
「ははは、そうかい?」
「はい!」
今日は多目に持って来ているし、大丈夫だ。
私は、焼き肉定食を頼んだ。
お、女の子らしくねぇ!
「そういえば、最近は良く下半身のトレーニングしてるよね?」
「あー、はい。 足腰鍛えてるんです。 もうちょっとジャンプの高さほしいなって」
「なるほど。 バレー部だよね? 1人、凄く跳ぶ人いるよね?」
十中八九亜美ちゃんの事を言っているのだろう。
「あの子は化け物ですんで」
「はははは。 そうかそうか」
不意にスマホにメッセージが届いた。
失礼して、内容を確認する。
そこには「人間だよ!」と書かれていた。
私は咄嗟に周りを見渡してみるが、近くに亜美ちゃんがいる様子は無い。
1番近くに座っているのは、帽子を被った男の子2人ぐらいである。
怖いなぁ、あの子は。
「どうかしたの?」
「え、いや! 友人からメッセージが届いただけです」
「彼氏だ?」
「居ませんってば」
そんなこと言うって事は、私に彼氏がいてもなんとも思わないからなんだろうな。
悲しい話だよ。
「焼き肉定食のお客様ー」
「あ、はい」
テーブルの上に、焼き肉定食がやって来た。
旨そう。
神山さんはというと、ヘルシーな和食定食。
普通逆だよなぁ。
「いただきます」
せめて、食べ方だけは上品にしよう。
「んぐんぐ。 旨!」
「はははっ、本当に旨そうに食べるね」
しまった。 つい、いつものノリで食べてしまった。
幻滅される……と、思ったが、幻滅される程の好感度は稼いでいない事に気付いた。
それはそれで悲しい。
「神山さんは健康的なんですね」
「あー、今は減量期間なんだよ。 体重増やす時はもっとガツガツ食べる」
「なるほど」
筋トレには、食べて体重を増やしながら筋肉をつける期間と、減量しながら筋肉を維持する期間がある。
今は後者のようだ。
「神山さんは、将来何かやりたいことあるんですか?」
「そうだなぁ、体育大学出て体育教師かなー」
「おおー! かっこいいですね!」
「そうかな? 蒼井さんは?」
「私はスポーツインストラクターですね。 できればバレーボールの」
「ふむふむ」
体育教師と似たようなもではあるけど、ちょっと違うかな。
「お互い頑張ろう」
「はい」
私も夢に向かって勉強していかないとなぁ。
進路も考えないといけないし、本当に大人になるって大変だ。
私達はその後も、夕食を食べながら他愛ない話を続けた。
夕食を食べ終えた私達は、今日のメインイベントであるボクシングの試合を観るために会場へ向かう。
◆◇◆◇◆◇
「楽しみだなぁ! 川原なら世界獲れると思うんだよね」
「そうだね。 あのフットワークは世界にも通用しそうだ」
「ですよね」
今日の挑戦者は、スピードに定評がある選手だ。
軽量級の選手はそう言ったs選手が多いのだけど。彼は特に凄い。
さらに言うと、川原は軽量級とは思えないほど重いパンチを放つ。
彼の規格外の集中力で、相手の動き出しを狙い澄ました右の一閃は、何人もの選手をマットに沈めてきた。
選手入場が始まる。
選手の紹介を終えて、両選手が自コーナーに座り、セコンドの指示を聞いている。
もうすぐ試合開始だ。
カーン!
試合開始のゴングが鳴った。
お互いが一定の間合いを取り、出方を窺う。
川原が軽くステップを踏んでリズムに乗る。
「調子良さそう」
「フットワークにキレがあるね」
これには期待が膨らむ。
チャンピオンが左のジャブを刻むも、川原は冷静にスウェーで回避する。
「よしよし、良く見えてる」
その後も、適宜手を出しながら、相手には触らせないような立ち回りで1ラウンド目はしっかりと様子を見る立ち回りに徹する川原選手。
そのまま試合を作りながら迎えた4ラウンド目。
「ここまででだいぶチャンピオンの動きを見切ってきてるね。 そろそろ試合が動きそうだ」
「はい」
おそらくこのラウンドが勝負のラウンドだろう。
川原の目が、先程よりも鋭くなっている。
相手の攻撃のタイミングにカウンター狙っている。
チャンピオンも察しているのかフェイントで揺さぶっているが、それには反応しない。
そして次の瞬間、逆に川原が左ジャブを見せるとチャンピオンがダッキングで躱し、川原の懐に入り込んだ。
クロスレンジの打ち合いになるかと思われたが……。
「うおおおお!」
「上手い!」
「これはダメージあるよ」
懐に入ったチャンピオンが、前のめりの倒れていた。
ダッキングで避けて前に出てきた所を、川原は下からのショートアッパーで首ごと引っこ抜いたのだ。
「これは立てないでしょ!」
チャンピオンはダウンを取られてカウントが始まるが、完全に意識を絶っている。
「カウント要らないよ」
「だね。 あれで立てたら凄いよ」
5までカウントした時点で、レフェリーが両腕を交差して試合を止めた。
「よっしゃー! 良くやった川原!!」
「完璧な試合だったね」
うんうん、見ていてとても安心できる内容だった。
私もつい熱くなってしまった。 なんて恥ずかしい……。
「あれ? どうかした?」
「いえ……」
ボクシングの試合を観終わった私達は、そのまま帰途につく。
別に何か進展があったわけでは無いが、また何かスポーツ観戦をしようと約束をしたので、今日はそれで良しとしよう。
後日、紗希に訊かれて内容を話したら「本当にボクシング観てきただけかーい!」と説教されてしまった。
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