第182話 旅行の終わり

 ☆希望視点☆


 私達は2日目の観光に出てきている。

 今はレンタル自転車に乗ってサイクリングロードを走行中。

 亜美ちゃんが私を気にしてペースを落としてくれたが、本当は夕也くんと一緒に走りたいだろう。


「ねぇ、私はもう大丈夫だから夕也くんと走りなよ」

「別に大丈夫だよ? これからいつでも夕ちゃんとイチャつけるんだし」

「えぇ……」

「夕ちゃんの事も大事だけど、希望ちゃんの事も大事だもん」


 全くこのお姉ちゃんは甘いんだから……。

 って、私もそうだよね。


「わかりましたぁ。 じゃあサイクリング付き合ってもらおうかなー」

「はーい」


 私は亜美ちゃんと並んで海辺のサイクリングロードを走る。

 他の皆は少し前に行ってしまった。

 夕也くんもちょっと待ってあげればいいのに。


「希望ちゃん」

「ん?」


 急に亜美ちゃんが話しかけてきた。 何だろう?


「私、夕ちゃんにも相談はしてみるけどね、また3人でどっか遊びに行こうよ?」


 亜美ちゃんってば、またこんなこと言っちゃって。

 ここは私から断って上げないとね。


「よろしくお願いします」


 はぅー! つい本音がぁ。


「じゃ、じゃなくてっ」

「あっははは」


 亜美ちゃんは、大きな声で笑った後で言った。


「別に、希望ちゃんに気を遣って言ってるわけじゃないんだよ? 私がまた、3人で遊びたいだけ。 だって楽しかったじゃない」

「あ、亜美ちゃん……そうだね」


 この間、東京に遊びに行った時は凄く楽しかった。

 亜美ちゃんは「夕也ちゃんと2人でデートも良いけど、希望ちゃんも入れて遊ぶ方がもっと楽しい」と、そう言った。


「うん……」

「今度夕ちゃんにも訊いてみるね? ダメって言われたら諦めよ」

「あはは、そうだね。 でも、多分……」

「「言わないよね」」


 2人の声が重なるのだった。

 

「でも、デートもちゃんとしなきゃダメだよ?」

「わかってるってば。 今度デートしようねって言ってあるから大丈夫」


 私と亜美ちゃんは、少しペースを上げて皆に追いつく。


「それにしても夕ちゃん、急だったよね?」

「多分だけど、誰かに言われたんじゃないかな?」

「あー、ありそう」


 夕也くんは結構そういうところがある。

 誰かに尻を叩かれないと、大事な事を決められなかったり。


「あ、来た来た」

「2人とも遅いわよ」


 途中の休憩所のような場所で、皆が自転車を止めて待っていた。

 ここで、一休憩するようだ。


「希望ちゃんが鈍臭くてねぇ」

「はぅっ」


 遅れた理由を、亜美ちゃんが皆に、事細かに説明する。

 い、良いじゃない……普段こういう自転車乗らないんだもんっ。


「希望姉らしいなぁ!」

「雪村先輩ってしっかりしてる人だと思ってたんですけど、ちゃうかったんですね」


 こ、後輩にまでバカにされてる。

 

「ぐすんっ……夕也くぅーん! 皆が私をいじめるー」


 どさくさに紛れて夕也くんの胸に飛び込む。

 亜美ちゃんがすぐに「離れなさいー!」と引き剥がしに来たけど、離れてやらなかった。


 少し休憩をして、再度走り出す私達。

 今度は私が遅れないように、私を真ん中にして進む。

 皆、私をなんだと思っているんだろう?


 このサイクリングロードは、海岸沿いを走る往路と、山道を走る復路があるらしく、これから登り坂が増えてくるようだ。


「希望ちゃん、大丈夫?」

「うん。 変速を覚えたからね」


 山道に入り、ギヤを軽くして進む。

 とはいえ、少し傾斜の強い所では苦労する。

 こういう道は、男子組が楽々登っていくね。

 何故か奈々美ちゃんと遥ちゃんもスイスイ登ってるけど、2人はパワー系だからね。


「中々きついねぇ」

「うん」

「ふぁいとー!」

「いっぱーつ!」


 奈央ちゃんと紗希ちゃんは、有名な掛け声を上げながら頑張って漕いでいる。


「渚! 私達も! ふぁいとー!」

「やらへんよ……」


 渚ちゃんはノリが悪かった。

 麻美ちゃんは気にせずに「いっぱーつ!」と、1人でやっていた。 元気だなぁ。


 ひたすら登っていたのだけど、頂上を過ぎたのか気付いたら下り坂を走っていた。


「はぅーっ! 速い速い! 怖いよぅ!」

「ゆっくりブレーキを掛けながら下るんだよ希望ちゃん。 急にブレーキすると危ないからゆっくり」

「ゆっくり……」


 亜美ちゃんに言われた通り、ゆっくりブレーキを握り、スピードを落とす。


「ふ、ふぅ……」

「ひゃっほー!」

「はぅっ?!」


 私の横を、麻美ちゃんが走り抜けていく。

 こ、怖くないのだろうか?


「麻美! 飛ばし過ぎたら危ないでぇ!」

「わかってるー!」

「ったくもう、絶対わかってへんやん……」


 渚ちゃんは、やれやれといった顔で、突っ走る麻美ちゃんを見ていた。


 坂を下りきると、見覚えのある道に合流した。

 レンタサイクルの近くまで戻ってきたらしい。


「なるほど、こうやって一周してくるんだね」


 隣の亜美ちゃんが、納得したように頷いている。

 結局、ずっと私の隣で走ってたけど良いのかな?


 皆で自転車を返して、少し戻る。


「お昼を食べたら別荘に戻って、荷物をまとめてバスに乗るわよ」


 どうやら、旅行ももうすぐ終わりのようだ。

 お昼は、美味しいマグロ料理が食べられる店だっけ?

 楽しみだよぅ。



 ◆◇◆◇◆◇



「ここよ」


 と、奈央ちゃんが指したお店はとても高そうなお店だった。

 私達はだいぶ慣れたもので。


「へぇ、良いお店ね」


 と、この通りである。

 ただし、後輩と柏原くんは……。


「ええっ?! こ、こんなお店大丈夫?! お金無いよ!?」

「わ、私もあらへん……」

「大丈夫よ。 全部私持ちだから好きな物好きなだけ食べなさい」

「えぇ……いいのかい?」

「いいわよー」


 奈央ちゃんは、そのままお店に入っていく。

 私達も、それに続く。

 慣れてない3人はガチガチになりながら入店する。


 予約していたらしい大部屋に通される私達。

 さすが奈央ちゃんだよ。

 私達はお座敷の座布団に座りメニューを見る。

 おおー、マグロのお寿司や鉄火丼、ステーキ何でもあるよ。

 どれでも好きなのかー。


「決まったらお店の人呼ぶから言ってね」


 皆メニューとにらめっこしている。

 うーん私は鉄火丼かな。


 

 ◆◇◆◇◆◇



 私達の注文した料理がテーブルの上に並ぶ。

 これは壮観である。


「じゃあいただきます」

「いただきます!」


 私は刺身醤油とわさびを鉄火丼につけて口の運ぶ。


「んんん! このマグロ、口の中でとろけるよ!」

「本当だな。 こんな鉄火丼食った事ねぇ」

「ふふ、その日上がったマグロでも良い物を競り落として使ってるお店なのよ。 あまり数を出さないから予約限定なのよここ」

「奈央って本当に高校生なの?」

「失礼な。 あんた小学生の頃から一緒に遊んでるでしょうが」

「そだったわね」


 奈央ちゃんと紗希ちゃんが漫才やってる。

 亜美ちゃんはマグロステーキをむしゃむしゃと頬張ってるし。

 あれはあれで美味しそうだよ。


「あ、亜美ちゃん一口ずつ交換しない?」

「んー? いいよぉ」


 交渉成立したので、鉄火丼とステーキを一口ずつ交換する。


「んー! これもやわらかくて美味しい。 お肉より好きかも」

「ですよね」


 同じくステーキを食べている渚ちゃんが同意してくる。

 奈央ちゃんと居ると美味しいもの一杯食べられて、舌が肥えちゃうよ。

 私達は高級マグロ料理を堪能した。


 すっかり旅行を満喫した私達は、予定通り別荘へ戻り荷物をまとめてバスに乗り込む。

 帰りのバスでは皆疲れたのか眠ってしまっていた。

 私も同じように眠ってしまったのだけど。


 自宅に着いたのは夕方過ぎであった。

 今年の旅行も楽しかったよ。

 夕也くんにフラれたのだけがちょっと悔しいけどね。

 

 

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